イノベーションという言葉はよく使用されますが、その意味をしっかりと把握している人はあまりいません。どことなくぼんやりと使用している場合も多いでしょう。
イノベーションの意味や定義をしっかり把握すれば、イノベーションの起こし方や起こす仕組みを考えられます。イノベーションを起こしたいなら、イノベーションそのものを知らなければなりません。
今回の記事ではイノベーションの意味や定義について、わかりやすく解説します。
イノベーションの定義と意味
イノベーションを最初に定義したのはオーストリアの経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターです。著書である「経済発展の理論」で、新結合こそイノベーションだと提唱しました。
イノベーションの定義は「新しい生産性向上の手段を生み出すこと」や「技術革新」です。
生産性向上とは付加価値の増大です。生産性向上の手段とは「新しい方式でコスト削減」なども含みます。技術だけではなく新しい仕入れ先や市場の開拓など、イノベーションの分野は多岐に及びます。新しいやり方、新しい売り方などもイノベーションの1つです。
創造的破壊の勘違い
イノベーションと一緒によく語られるのが創造的破壊です。「創造的破壊を起こしてイノベーションを生み出す!」などと言われます。
多くの人のイメージは「何かを破壊するとイノベーションが生まれる」です。
これ、じつは間違いです。
創造的破壊とは「イノベーティブな新市場によって、旧来の市場が破壊される様」です。
例えばスマートフォンが生まれてカメラ市場が破壊されました。イノベーションに伴う創造的破壊が起きたのです。
創造的破壊は「破壊したからイノベーションが起きる」ではありません。勘違いしないようにしましょう。
イノベーションの種類や起こし方
シュンペーターを始めさまざまな学者が、イノベーションを分類しています。どのように分類されているか知れば、イノベーションの実態がつかめます。
シュンペーターが分類した5種類のイノベーション
シュンペーターはイノベーションを5つに分類しました。
- 新しい財貨の生産(プロダクト・イノベーション)
→新製品や新商品を生み出す - 新しい生産方法の導入(プロセス・イノベーション)
→生産工程や流通工程の革新によるコストダウンなど - 新しい販売先の開拓(マーケット・イノベーション)
→新しい市場への参入や顧客の開拓 - 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得(サプライチェーン・イノベーション)
→新しい仕入れ先を獲得してコストダウンや品質改善を行う - 新しい組織の実現・独占の形成やその打破(オーガニゼーション・イノベーション)
→新組織で市場の独占や寡占を打破したり、またはその逆に独占したりすること
どんなイノベーションも、この5種類のいずれかに分類されます。
ヘンリー・チェスブロウのオープン・クローズドイノベーション
チェスブロウはイノベーションの種類を「オープン」「クローズド」に分類しました。クローズドイノベーションは、自社内で研究から開発まで行って引き起こすイノベーションです。
オープンイノベーションは他企業とのコラボや協力、アウトソーシングによって引き起こされるイノベーションです。現在はオープンイノベーションが盛んだと言われています。
クレイトン・クリステンセンの持続的・破壊的イノベーション
クリステンセンはイノベーションを「持続的」「破壊的」に分類しました。持続的イノベーションは顧客の要望などに基づいて製品を改良したり、新製品を開発したりするイノベーションです。
従来品の改良という点で持続的です。
破壊的イノベーションは「価格」「技術」の2つに分類されます。価格の破壊的イノベーションは安さによって市場を席巻します。
一方、技術の破壊的イノベーションは創造的破壊によって市場を席巻します。
前者は例えば格安航空会社です。後者はスマートフォンや電子書籍です。
イノベーションのジレンマとは
イノベーションのジレンマとは、先ほど説明したクリステンセンの持続的イノベーションと破壊的イノベーションが引き起こします。
主力商品がはっきりしている企業は、その主力商品を改良してリリースし続けます。主力商品を頼りにするのは当然の選択です。
このように持続的イノベーションを多くの企業が選択します。
一方、時代の変化などによって破壊的イノベーションが引き起こされると、持続的イノベーションに頼っていた企業は淘汰されます。
破壊的イノベーションばかりでは平時に収益が上がりません。かといって持続的イノベーションを選択し続けると、時代の変化で破壊的イノベーションに敗北します。
このジレンマを「イノベーションのジレンマ」と言います。
「偉大な企業はすべてを正しく行うが故に失敗する」という言葉が、イノベーションのジレンマを表現しています。
イノベーションと経済の関係性
「イノベーションが起きて経済が活性化する」という理屈は誰でも知っています。では「経済が好調だからこそイノベーションが起きる」という理屈はどうでしょう?
あまり考えたこともないのではないでしょうか。
じつは、好景気やインフレだとイノベーションが起きやすいのです。逆に不景気やデフレではイノベーションがお起こりにくい。
その理由について解説します。
投資こそがイノベーションを生み出す
イノベーションを起こすには投資が必要です。投資にはお金だけでなく労力、時間なども含みます。金銭や労力、時間をかけて初めてイノベーションは起こせます。
例えば新製品をリリースするなら、開発や設計に多くの時間・労力・お金をつぎ込んだはずです。また、新製品のための原材料の調達なども必要でしょう。
しかし、新製品を開発しても売れるかどうかわかりません。イノベーションは投資したら必ず起きるわけではありません。けれども投資しないとイノベーションは起きません。
このように、不確実な投資がイノベーションには必要です。
好景気やインフレが投資を生み出す
不確実な投資をする場合、自らの事業の見通しが暗いときより明るいときを選びます。失敗する可能性だってあるからです。失敗したとしてもダメージを受け止めきれるのは、事業の見通しが明るいときです。
事業見通しが明るくなるのは好景気やインフレのときです。
また、インフレでは貨幣価値が下落します。つまり、現金で持っているより投資した方が得です。こうして投資に回り、投資がイノベーションを発生させ、イノベーションが経済を活性化して好景気になります。
イノベーションは経済を活性化させますが、経済が活性化しているからこそイノベーションを生み出しやすい環境になるとも言えるのです。
デフレは投資を減少させイノベーションを阻害する
デフレでは貨幣価値が上昇します。投資するより現金で持っていた方が得です。したがって、デフレのときに企業は投資を減少させます。
投資を減少させれば当然、イノベーションも減少します。
デフレはイノベーションの発生を阻害します。日本の失われた20年では、あまりイノベーションが発生していません。それは、デフレであることと無関係ではありません。
まとめ
イノベーションとは技術革新であり、新しい生産性向上の手段を生み出すことです。新しい市場や安い仕入れ先の開拓、流通の改善、新製品の開発などすべてイノベーションです。
イノベーションはヨーゼフ・シュンペーターが提唱した、比較的新しい概念です。世の中で取り沙汰されない日はありませんが、その意味を正確に理解している人は少数でしょう。
イノベーションは経済を活性化しますが、その逆もまたしかり。好景気などで経済が活性化しているからこそイノベーションが起こりやすくなります。
イノベーションをしっかりと理解することが、イノベーションを考える第一歩です。