景気対策という単語をよく聞きます。世論調査では内閣に期待する政策の上位に景気対策が入ります。しかし、景気対策の内容について考える機会はそうそうありません。
よくわからないまま景気対策という単語を使っていませんか? 今回の記事では景気対策の本質について解説します。
景気対策とは
政府や中央銀行などが景気浮揚のために打ち出す政策。
景気対策 | 金融・証券用語解説集 | 大和証券
政府や自治体は財政政策、中央銀行は金融政策を景気対策の手段として用います。財政政策では、減税や公共投資などによって個人消費や設備投資を活性化させ、経済成長率を高めようとします。減税は政府の財政支出を伴わない半面、減税分の一部は消費ではなく貯蓄に回るため、乗数効果は低いとされています。一方、公共投資は財政支出を必要としますが、減税に比べて乗数効果が高いとされています。金融政策では、政策金利を低下させて企業の資金調達などを支援するほか、金融機関への潤沢な資金供給を通じて物価の安定などを図ります。
大和証券のサイトでは上記のように解説されています。言い回しが難しくてわかりにくいですよね。
分解して説明していきましょう。
景気対策には財政政策と金融政策の2つがあります。
財政政策
財政政策は減税や給付、公共事業などです。
減税は例えば消費税減税、法人税減税などです。給付はコロナ禍で10万円給付があったように、国民に給付する政策です。
公共事業はインフラの新規建設や更新、改修です。
財政政策は「政府がお金を出して行う政策」と言えます。
なお、減税や給付は公共事業より効果が薄いとされます。なぜなら手元に残ったお金を消費せず、貯蓄に回すかもしれないからです。
消費に回ってこそ景気は良くなります。政府が消費する公共事業は、もっとも効果の高い景気対策です。
金融政策
金融政策は中央銀行、日本では日銀が行う政策です。中央銀行の実施できる景気対策は政策金利の引き下げだけです。
金利を引き下げるとお金が借りやすくなり、民間がお金を借りて消費や投資をしやすくなります。その環境作りが、中央銀行の景気対策である金融政策です。
他方、中央銀行がお金を供給するという手段も採られたこともありました。この政策を金融緩和と呼びます。金融緩和単体では乏しい効果しかありませんでした。
景気対策と赤字国債
多くの人が景気対策をしてほしいと願っています。世論調査ではいつも、内閣に期待する政策の上位に景気対策が入ります。
一方、景気対策は赤字国債を増やす懸念が囁かれます。景気対策で財政健全化が遠のいてしまうのではないか、との懸念です。
この点について簡単な説明をしておきます。
財政健全化は遠のくか?
財政健全化は定義が曖昧な概念です。仮に財政健全化を対GDP比での赤字国債額だとしましょう。
景気対策をするより、しない方が財政健全化は遠のきます。
不景気のとき、景気対策をしないとGDPが縮小します。GDPは税収の原資です。したがって税収も下がり、下がった税収を補填するために赤字国債が必要になります。
赤字国債額は景気対策をしないと最終的に増加します。
逆に景気対策をした場合、GDPが増加します。GDPの増加にしたがって税収は増え、赤字国債額も最終的には対GDP比で抑制されます。
赤字国債は返済が必要か
そもそも論ですが自国通貨建て国債は返済の必要がありません。このような表現だと誤解を招くでしょうか。
資本主義国家で自国通貨建て国債を返済しきった国家は存在しません。むしろ自国通貨建て国債は時間の経過とともに増加していきます。
資本主義国家とは財政赤字が普通の状態です。
実際にアメリカは1900年に比べて債務残高が3000倍以上です。日本も同様です。
詳しい理論は省きますが「自国通貨建て国債発行=通貨発行」です。資本主義国家の根源的な”資本”の発行が赤字国債です。
そのときどきの償還も「通貨発行=赤字国債発行」でまかなえばいいのです。
なお、自国通貨建て国債は自国通貨で発行されています。通貨発行権は国家の主権ですので、財政破綻の可能性がゼロであるのは論を待ちません。
景気対策の本質とは
景気対策に必要な赤字国債の発行は、気兼ねなく行えることがわかりました。財政健全化の心配は必要ありません。
ここからは景気対策の本質について述べていきます。
不景気とは?
そもそも不景気とは何でしょうか? 不景気とは「需要<供給」の状態です。需要がないので企業は売り上げが上がらず人も雇えません。人を雇えないので働き口が少なく、失業者が増加します。
需要がしぼんでいる状態が不景気です。
「需要<供給」という状態は不景気以外にデフレとも言えます。
不景気にはコストプッシュインフレもあります。コストプッシュインフレとは輸入する石油や鉄鋼の値段が上がり、コストによってインフレが生じる状態です。
コストプッシュインフレは国内政策では解消が難しいので脇におきます。
需要創出と不景気の脱却
不景気とはデフレのことでした。不景気とは「需要<供給」の状態だからです。
景気対策である金融政策を思い出してください。政策金利を下げることで、民間が借りて投資や消費することを期待します。
つまり政策金利を下げることで需要を創出しようとします。
財政政策も同様です。減税や公共事業で需要の創出を狙います。
つまり、景気対策=需要創出政策です。需要創出こそが不景気やデフレの脱却に必要なのです。
金融政策はマイナス金利で効果消失
政策金利の低下は民間の借り入れを促します。しかし、現在はすでにゼロ金利です。これ以上、金利を下げようがありません。
金融政策での景気対策は、ゼロ金利に到達すると効果を失います。それ以上、下げようがないからです。
現在、有効な景気対策は財政政策だけです。
景気対策についてわかりやすい本
ここまで景気対策を深掘りして解説してきました。こういった経済の話は難しく書かれていることが多く、平易な解説がなかなかありません。
先日、じつにわかりやすい書籍が出版されました。中野剛志が著した「マンガでわかる 日本経済入門」です。
マンガと解説文が半々ほどになっていて読みやすく、筆者は2時間もかからずに読了しました。しかし内容は大切なポイントを押さえており、高度なことも書かれています。
高度なことをわかりやすく書くのは難しい。その難しいことを実現しているのが本書です。
景気対策だけに限らず経済全般が解説されています。ぜひ、おすすめしたい書籍です。
まとめ
日本では世論が景気対策を求めています。それはどんな世論調査でも明らかです。一方、財政健全化やプライマリーバランスの呪縛にもとらわれています。
「景気対策してほしいけど赤字国債が増えてしまうのでは?」
「赤字国債が増えるので増税が必要!」
こんな風に勘違いしています。本当は景気対策をするときに、赤字国債や財政健全化なんて気にする必要はありません。
財政健全化やプライマリーバランスの呪縛を解いていくのは、この記事を読んだあなたかもしれません。