
保守思想や保守主義を学びたいけど、どんな本を読んでいいかわからない。どの本にしようか迷っている。そんな人にとって「安倍でもわかる保守思想入門」は良書です。
先日、適菜収の「安倍でもわかる保守思想入門」を読了しました。初心者にとって反面教師の具体例が多いため、とてもわかりやすい保守思想解説本です。
最初の1冊として「安倍でもわかる保守思想入門」はおすすめできます。
「安倍でもわかる保守思想入門」のレビューや感想、口コミについて解説します。
基礎情報
「安倍でもわかる保守思想入門」は2017年4月に出版されました。著者は適菜収は日刊ゲンダイに「それでもバカとは戦え」と連載している作家です。
「安倍でもわかる保守思想入門」以外にも適菜収は数多くの著書を出版しています。有名どころでは「日本をダメにしたB層の研究」「日本人は豚になる ―三島由紀夫の予言―」など。
「安倍でもわかる保守思想入門」のAmazon解説には、以下のように掲載されています。
歴史の見方ががらりと変わる! 偽装保守・安倍晋三が日本を滅ぼす55の理由。バーク、福田恆存、オークショット、三島由紀夫、ニーチェ……総理に噛んで含めて教えたい「保守思想」の本質。
目次
- はじめに 保守とは何か?
- 第一章 安倍晋三の見識
安倍でもわかるエドマンド・バークのお話 - 第二章 安倍晋三の知性
安倍でもわかる福田恆存のお話 - 第三章 安倍晋三の保守観
安倍でもわかるフリードリヒ・ハイエクのお話 - 第四章 安倍晋三の歴史観
安倍でもわかるマイケル・オークショットのお話 - 第五章 安倍深層の政治力
安倍でもわかる三島由紀夫のお話 - 第六章 安倍晋三の経済観
安倍でもわかるフリードリヒ・ニーチェのお話 - おわりに 安倍のふり見てわがふり直せ
それぞれの章の最初に保守思想家などの解説があります。この解説が非常に上手く要約されており、わかりやすいです。
概観
「安倍でもわかる保守思想入門」は一般的な書籍のスタイルと異なります。安倍晋三の発言などが引用され、そこに適菜収の解説が差し込まれる形です。
一体どういった本なのか、概観を紹介します。
安倍晋三を反面教師に保守を語る
「安倍でもわかる保守思想入門」は安倍晋三を反面教師として保守を語る本です。こう言うと「え? 安倍晋三は保守政治家では?」との疑問を持つ人もいるでしょう。
そういった人にとって「安倍でもわかる保守思想入門」は非常におすすめです。
「はじめに 保守とは何か?」で適菜収は「日本人に保守や近代が理解されていない」と語ります。なぜ保守と近代が関係あるのか? 保守とは近代とともに認識された思想だからです。
近代は産業”革命”やフランス”革命”で幕を開けました。近代とは絶え間ない革命、革新の時代です。資本主義を観察した経済学者シュンペーターも「資本主義は絶え間ない革新」と喝破します。
こういった変革の波に、慣れ親しんだものが破壊されます。その破壊を嘆き、変革や革新へ警戒するのが保守です。
こういった保守観を持った日本人はほとんどいません。
すなわち、日本人に近代と保守は正しく理解されていないのです。
正しく理解されていないから、安倍晋三のような政治家を保守政治家と担ぎ上げます。その安倍晋三を反面教師として保守を語るのが「安倍でもわかる保守思想入門」です。
ねじれたイデオロギーという前提
安倍晋三とはどのような政治家だったでしょうか? TPP、移民拡大、岩盤規制の破壊などを推進しました。大なたを振るって革新を進める政治家は保守ではありません。
しかし、安倍晋三は世間では保守政治家と呼ばれます。
このねじれを適菜収は指摘します。
要するに日本人の大半が保守や革新といったイデオロギーを理解してません。理解してないのに言葉だけ使いたがるという状態です。
今の日本では、「保守」を名乗る人物が、特定のイデオロギーに基づき、朝から晩まで抜本的改革を唱え、伝統の破壊に勤しんでいる。
このねじれを体感するのに安倍晋三を反面教師とするのは、とてもいいアイディアです。
安倍政権のひどさとそれを支えた人々
「安倍でもわかる保守思想入門」に政権への支持や、安倍支持者への批判はあまり書かれていません。
ところが通読すると「本書自体が痛烈な大衆批判の構造を持っているのではないか」と気づかされます。
「安倍でもわかる保守思想入門」は徹底的に安倍晋三の知見、見識、教養のなさを暴き出します。では、その教養なき安倍晋三を支持していたのは誰か? ほかならぬ国民です。
安倍晋三への徹底的な批判はその当時、安倍晋三を支持した大衆批判にも通底しています。
ある種の人々にとって「安倍でもわかる保守思想入門」は非常に不快な著書でしょう。
「安倍でもわかる保守思想入門」感想とレビュー
「安倍でもわかる保守思想入門」は、保守思想をこれから勉強したい初心者におすすめします。
なぜか?
まず、文章が平易でわかりやすく、とっつきやすいからです。とてもわかりやすく書かれており、筆者は読了まで1時間ちょっとしかかかりませんでした。
加えて、安倍晋三という具体的な反面教師を題材にしているため、具体例から保守を学べます。抽象的な理論は理解しづらいですが、実践的な具体例は理解を助けます。
一点だけ難点もあります。安倍晋三を批判する適菜収の言葉遣いがまれに強烈なことです。「え? ここまで言う?」と引っかかる箇所がいくつかあります。
この点は適菜収節として楽しみましょう。
各章の最初には偉大な保守思想家の解説があり、エッセンスが詰まっています。この各章の解説が筆者にとって面白い部分でした。ある程度、保守思想に精通した人でも各章の解説は「なるほど」と読めます。
一方、本書では安倍晋三という時事問題を扱っています。安倍政権はすでに終了しているため「安倍でもわかる保守思想入門」のパンチはやや弱く感じます。
安倍政権が続いているときに読んでおくんだった! と、私も少し後悔しました。
しかし、今でも保守入門書として輝きは失っておらず、むしろ安倍政権が終わった後だからこそ読み返す価値が出てきている側面もあります。
口コミと評判
安倍晋三批判の口調について癖があるため、賛否両論が見られました。しかし、適菜収自身が本書に「保守主義者とは、非常識なものに対し、ケチをつけることが仕事なのです」と書いてある通り、ケチだと思えばそのようなものか――とも感じます。
読みやすく分かりやすいと思う
安倍批判というよりは、反面教師的な扱いで最近の(似非、商売)保守と、ソレに乗って気分よくなってる人達に警鐘を鳴らしているように思える。
章立てがすっきりしていないせいか、肝心の保守思想についての解説と安倍さんの悪口(?)が入り乱れて読みにくいです。
誰に読ませたい本なのかな?
単に安倍さんの言動が不快なので怒りに任せて書いたと取られかねないように思うのですが。
ところどころ、保守思想についてとても分かりやすい解説がなされているだけに、惜しいです。
笑いながら読んで、やがて空恐ろしく。
「保守」を自称する人に読んでほしいなあ。
まとめ
適菜収の著書をじつは初めて読みました。以前からおすすめされていたのですが、なかなか手が伸びず今になりました。
「安倍でもわかる保守思想入門」を読んで感じたのはやはり、あの安倍政権時代に読んでおけば良かったという後悔です。当時に読んでいればまた違った感想を抱いたことでしょう。
つまり、パンチの効き具合が当時と今では異なる気がします。
それでもなおパンチの効いた「安倍でもわかる保守思想入門」は、保守思想を学ぶ初心者におすすめです。
>安倍晋三への徹底的な批判はその当時、安倍晋三を支持した大衆批判にも通底しています。
ある種の人々にとって「安倍でもわかる保守思想入門」は非常に不快な著書でしょう。
というか、本書の狙いは、周囲から甘やかされて育てられ、幼児性が全く抜けないまま成人して政治家を続けてきた(当時の)”63歳児”安倍晋三を出しにして、こんなクズを政権トップの座に居座らせ続けてきた国民大衆の愚かさを痛烈に批判するところにあります。
つまり、平成30年間の”改革バカ政治”を支持し続けたことによって、日本をここまで没落させてきた最終責任は国民大衆にあるということです。なので、たとえ安倍が政治家を辞めても、日本国民自身が自己反省しない以上、第2、第3の安倍が現れて国家を破壊させる、と警告しています。それどころか目下、安倍政治を継承した現政権がコロナ禍への対応をはじめ、ありとあらゆる面で日本国家と国民生活を破壊する惨状が進行中。
ところが、(良きにつけ悪しきにつけ)政治意識が高いと思われるTwitter民の書き込みを見ても、政権批判や自民党批判の書き込みはそれこそ腐るほどあっても、そもそもこんな政治を野放しにしてきた有権者=日本国民自身の愚劣さ、幼児性、民度の低さ等を糾弾したり自己反省するようなツイートはほぼ皆無であると言えます。
日本国民が緊縮や改革を支持してきたのは確かですが、大衆批判ってわりと難易度が高いんですよね。Twitterであまり見かけないのも宜なるかな。