本稿では財政赤字の問題点とされているポイントをわかりやすく解説し、後に財政赤字は問題ないと反証します。
反証は「財政赤字最大の問題点は、財政赤字を問題だと捉えるドグマティズムだ」という答えを導くでしょう。ドグマティズムは日本語で教条主義と翻訳されます。
今回の記事は「①財政赤字の問題点とされるポイントの解説」「②問題点とされるポイントへの反証」「③財政赤字を問題視して引き起こされる問題点」の3つを、順を追って解説していきます。
財政赤字の問題点とされるポイントをわかりやすく解説
日本の財政赤字はしばしば問題視されます。財政赤字の問題点とされるポイントについて、原理も含めてわかりやすく解説します。
①財政の持続可能性への信認
日本の財政赤字の問題点でもっとも言及されるのが「財政の持続可能性への信認」です。「財政への信認」とも表現されます。
財政赤字が積み重なってクラウディングアウトを招き、長期金利が高騰して国債が暴落するというシナリオが「財政への信認」の毀損で起こるとされます。
クラウディングアウトとは「100兆円のうち90兆円を国が借りて使ったら、民間は10兆円しか借りられなくなる。民間の資金需要が圧迫されて長期金利が上がり、国債は暴落する」という理論上の現象です。
クラウディングアウトは外生的貨幣供給説、商品貨幣論が前提です。簡単に言えば「お金のプール――上記の例では100兆円――からお金を借りている」とする説。
お金のプールには上限があるので、借りすぎると長期金利が上がるとされます。
よって「①長期金利の上昇」「②国債費や利払い費の増加」「③さらなる国債発行」「④長期金利上昇」という無限ループで財政破綻すると言われています。
②将来への負担先送りと世代間不公平の拡大
「財政への信認」が毀損されないために、財政赤字を増やすべきではないとされます。したがって財政赤字は将来、返済される必要があります。
財政赤字を返済する財源は納税です。
つまり現在の財政赤字は将来世代の税金を食い潰している、というのが財政均衡論者たち主張です。
税金によって返済されるべき財政赤字を残すことは「将来世代への負担の先送り」であり、「世代間不公平の拡大」につながる主張されます。
③財政の硬直化
財政赤字が積み重なれば、利払い費や償還のための国債費は増加の一途をたどります。こうした利払い費などの増加は、国の財政を硬直化させると財政均衡論者は危惧します。
財政赤字が積み重なると利払い費などが増大し、加速度的に財政赤字が増えて硬直化する。上限がある予算の多くを国債費や利払い費に当てなければならない。
したがって財政赤字を増やさないことが、財政の硬直化を避けるために必要だと言います。
④プライマリーバランスが維持できない
財政赤字の問題点として「プライマリーバランスが維持できないから問題だ」と言う人もいます。例えばコロナ禍で一時的に財政赤字が増えるのは仕方ないとしても、出口戦略を採るべきだと言います。
出口戦略とは「損害が続く状況からの撤退戦略」です。損害の続く状況を断ち切ってハードランディングさせるか、徐々に切り替えてソフトランディングさせるか? などと語られます。
つまり財政赤字が出る状況を断ち切って、プライマリーバランスが維持できる状況に切り替えるべきだと財政均衡論者は主張します。
財政赤字の問題点への反証
ここからは財政赤字の問題点とされているポイントへの反証をします。どうして財政赤字は問題ではないのか? できるだけ平易に解説します。
①クラウディングアウトは起きない
財政赤字が拡大するとクラウディングアウトによって、財政への信認が揺らぐとされます。しかしクラウディングアウトは起きません。
クラウディングアウトは外生的貨幣供給説、つまり貨幣にプールや上限があることが前提条件です。ところが現実は内生的貨幣供給説だと証明されています。
内生的貨幣供給説を要約すると「お金を借りると貨幣が生まれる」です。クラウディングアウトは「100兆円のうち90兆円を政府が借りて、10兆円しか民間が借りられないので長期金利が上がる」という話でした。
一方で「借りたらお金が生まれる」なら「政府が90兆円借りて、民間が100兆円借りたら190兆円のお金が生まれた」となりクラウディングアウトは起きません。
そして現実は内生的貨幣供給説で動いています。
コロナ禍で各国が財政出動をしましたが、長期金利が上がる様子がないことからも明らかです。
貨幣需要から貨幣が生まれる。これを信用創造と言います。
したがって貨幣の量には上限がなく、クラウディングアウトは起きません。よって財政への信認も財政赤字の拡大では揺らぎません。
②税による返済は必要ない
「将来への負担先送りと世代間不公平の拡大」も起きません。なぜならクラウディングアウトが起きない以上、財政赤字は実質的に返済しなくていいからです。
日本の国債は100%円建ての自国通貨建て国債です。自国通貨建て国債を返済しきった国家など、歴史上存在しません。
むしろ自国通貨建て国債の絶対額は増加するのが正常です。
1900年と比べてアメリカの国債発行残高は3000倍以上になりましたが、問題は起きていません。日本は明治から比較すると3000「万」倍以上だそうです。
国債を減らす必要がなく拡大して問題ないなら、将来世代への負担の先送りになりません。なぜなら納税によって国債を返済する必要がないからです。
世代間不公平も拡大しません。
③利払い費は日銀引き受けで相殺できる
利払い費や国債費の増加によって財政が硬直するとされた問題点には、もはや反証の必要すらありません。
財政赤字に上限がない以上、利払い費や国債費は借り換えによってまかなえます。財政赤字の上限という規模の制限がないので、財政は硬直化しようがありません。
どうしても利払い費が気になるなら、日銀が国債を引き受ければいいでしょう。日銀と政府の間で利払い費は連結決算で相殺されます。
④無限後退に陥るプライマリーバランス問題
「財政赤字はプライマリーバランスが守れないから問題だ」という主張は無限後退に陥っています。プライマリーバランスを守ることは財政赤字を出さないことなので、財政赤字でプライマリーバランスが守れないのは当たり前ですよね。
「借金をしたら無借金じゃなくなるからダメだ!」と主張するようなものです。突き詰めると「財政赤字は財政赤字だからダメだ!」というのが、財政均衡論者の主張になります。
「財政赤字が問題」との意識が最大の問題点
財政赤字の問題点とされるポイントと、それらが問題ないと反証してきました。このことからわかるのは「財政赤字の最大の問題点は、財政赤字を問題だと思い込むこと」です。
「財政赤字が問題だ」と思い込むと、さまざまな弊害があります。財政赤字が問題だと思い込む人たちは、ドグマティズムに陥っていると思われます。
ドグマティズムとは日本語で教条主義のことです。
ドグマティズムに陥ると問題点を修正できず、抜け出せないループにはまります。
財政赤字が問題だと思い込むことの問題点を1つずつ解説します。
①財政赤字を気にして柔軟な財政運営ができない
財政赤字が問題だと思い込むと、財政政策の柔軟さが失われます。
現状のコロナ禍でも大胆な財政政策は採られず、イマイチ踏み込めていません。こういった事態も財政赤字が問題だと思い込んでいるからです。
財政赤字が問題だと思い込むと、必要なときに必要な金額の財政政策が不可能になります。
すなわち財政政策の柔軟性が失われます。
②デフレを軽視しがち
起きもしないクラウディングアウトなどを気にするのは、デフレ軽視につながります。
クラウディングアウトによる最悪のシナリオと比較すれば、デフレの方がまだマシだと映るからです。しかしクラウディングアウトは起きません。
クラウディングアウトを心配する人は、フィクションのシナリオと現実のデフレを比較しています。
起きもしないフィクションのシナリオより、現実のデフレをもっと危惧するべきです。
③将来世代へ潤沢な資産を残せない
財政赤字を気にするなら、大胆な公共投資は不可能です。実際に2000年代初頭から公共投資は半減しました。
結果、全国に70万ある橋梁のうち10万以上が築50年を超えました。更新が遅れており改修や補修されていない橋梁も多数あります。
我々は50年前の資産を食い潰しながら、将来世代に潤沢なインフラを残せていません。
インフラは国家の資産です。財政赤字を恐れて将来世代にインフラを残せないとすれば、大きな世代間の不公平、世代間格差と言えるでしょう。
④国力を毀損し国家を凋落させる
インフラはインフラストラクチャーの略で、日本語では「下部構造」という意味です。要するに国家の土台こそがインフラです。
土台が脆弱になれば上部構造である経済や社会も脆弱化します。つまり現在は財政赤字を恐れて国力を毀損し、国家の凋落させていると言えます。
財政赤字を問題だと思い込むことの罪は、まさに国家の将来にまで及ぶのです。
まとめ
財政赤字の問題点とされいてるポイントを理解していないと、有用な反論は不可能です。そのための問答集という意味合いも含めて本稿を書きました。
- クラウディングアウトは起きないし、現実世界でも起こっていない
- 自国通貨建て国債は将来の返済が必要ない
- むしろ財政赤字を気にして財政の柔軟性が失われている
- 将来世代へ残すべきインフラや資産も残せていない
- 財政赤字の真の問題は「財政赤字を問題だと思い込むこと」にある
上記が今回の記事のまとめです。しっかりと問題を認識したら、SNSなどを通じて拡散・呼びかけてくださいね。