保守思想を知りたい! と検索すると、難しそうな記事ばかりが出てきます。筆者なら、それらの記事に目を通すのは御免被ります。
「わかりやすく解説している記事はないのか?」と探しても見当たらなかったので、しょうがなく自分で書くことにしました。
できる限りわかりやすくシンプルに解説しています。保守思想とは何か? 3000文字ちょっとの記事ですから、さらっと読めると思いますよ。
保守思想とは
保守思想の起源はそんなに古くありません。フランス革命とともに保守思想が芽生えましたから、およそ200年強の歴史です。
保守思想の父と言われているエドマンド・バークに保守思想は由来します。エドマンド・バークがフランス革命を考察して書いた手紙が後に、フランス革命の省察として出版されます。
この書籍の中でのバーグの態度こそが保守でした。
保守思想とは近代とともに生まれました。
保守思想の内容は難しいものではありません。要約すれば「現在の体制を維持し、漸進的に改善していこうとする姿勢」こそが保守思想の根幹です。
カール・マンハイムによれば保守思想は革命への反動です。急激な改革への反動こそ、保守思想の性質だとマンハイムは言います。
マイケル・オークショットは「革新性や有望さによる興奮よりも、喪失による悲嘆の方が強烈である」と保守思想の本質を表現しています。
新しいことに挑戦して得られる興奮より、それによって失う悲嘆の方が強烈だと彼は言います。そして保守思想は喪失しないよう、慎重にあろうとする姿勢です。
加えて革新性などの「理性で導き出される正解」より「自然に辿り着いた現状」を保守するべきとします。保守思想に共通するのは、理性万能主義や合理主義に対する懐疑です。
つまり「現状を維持しながら、慎重に試しつつ漸進的に改善・変革していく」ことが保守思想の本質です。
日本では保守思想と言えば「戦前回帰」「右翼」「ネトウヨ?」「マッチョな何か」というイメージがあります。しかし保守思想の本質は「家庭を守るお母さん」に似ています。
どちらかと言えば保守思想は、女性的な思想です。
現代日本における保守思想の傾向
現代日本における保守思想の傾向を見ていきましょう。
保守思想そのものに支持する社会形態はありません。その時代の社会形態によって、保守思想は何を守るのかを変えます。
例えばフランス革命でエドマンド・バークは急進主義的な理念を批判しましたが、その批判は愚かな統治や衆愚にまで矛先を向けました。フランス革命は民主主義だからいいもののはず、という概念はバークにはありません。
仮に江戸時代にバークがいたとしたら、明治維新を批判していたかもしれませんね。
このように「何を保守するか」によって保守思想は、その有り様をさまざまに変化させます。現代日本における保守思想の傾向を見ていきましょう。
戦前への憧憬や回帰
日本でもっとも代表的な保守思想は戦前への回帰、ないし憧憬でしょう。敗戦を一つの断絶と見なし、伝統や文化が損なわれたと嘆きます。
そして伝統や文化、日本的なものが損なわれる前の戦前ないし戦中への憧憬を抱きます。
これは戦前の日本と戦後の日本が連続していない、と見なすことで生まれます。日本で保守思想家を名乗る有識者や、自称保守の大抵はこのタイプに分類されます。
読者の中にも、このタイプを思い浮かべる人は多いでしょう。
このタイプの保守はなぜか、断絶をもたらしたアメリカに親和的という特徴があります。戦前への憧憬を抱いていながら、戦後のいい面だけを受け入れているからでしょう。つまりこのタイプの保守たちも十分に戦後的なのです。
新自由主義への反発
もう一つの保守思想は新自由主義への反発です。新自由主義やグローバリズムと言った急激な変革に、共同体や文化・伝統・慣習などが破壊されるのをよしとしません。
新自由主義と親和性の高いグローバリズムは、日本語で直訳すれば「地球主義」です。すなわち国家や地域、日本的な共同体を破壊します。
こういった変革への反動としての保守です。
弱体化しつつある国家やナショナリズム、国民意識の保守と要約できます。
戦後日本の保守
戦後日本を保守しようとする人たちもいます。戦後に重視されている人権意識や平和主義、自由や平等といった概念を保守するべきものと見なす人たちです。
彼らは自身を保守とは見なさずリベラル・左翼などを名乗ります。しかし戦後日本を保守するべきものと見なすなら、十分に保守の定義に当てはまるでしょう。
じつは保守思想は、自由主義やリベラリズムとの相性が悪くありません。
保守思想がわかる本・書籍
記事で保守思想の本質についてのみ、できるだけわかりやすく解説しました。しかしやはり本や書籍で体系的に学ぶことをおすすめします。
以下の本のうち上2冊は、筆者が読了しておすすめしたい本です。下1冊は興味がありこれから読みたい本になります。
フランス革命の省察
【新訳】フランス革命の省察(翻訳:佐藤建志)はフランス革命の省察として出版されたものを、さらにわかりやすくまとめて翻訳した本です。
重要な部分に絞ってまとめてあるため、非常に読みやすいです。また佐藤建志氏の翻訳は現代的でわかりやすい。
保守思想の父であるエドマンド・バークに触れずに、保守思想は語れません。以下の記事に【新訳】フランス革命の省察のレビューをしています。
保守とは何だろうか
保守とは何だろうか(著者:中野剛志)はあの天才・中野剛志氏が「希代の天才保守主義者」と褒め称えるコールリッジを研究した本です。
コールリッジは19世紀のイギリスの人物です。産業革命まっただ中でイギリス経済を考察しました。非常に多才で詩人・批評家・哲学者でもありました。
19世紀において現代貨幣理論(MMT)のおおよそを概観していた、卓越した慧眼の持ち主です。
コールリッジを知れば「保守思想が何たるか」に多くの理解が得られるでしょう。
安倍でもわかる保守思想入門
安倍でもわかる保守思想入門(著者:適菜収)は発売当初から興味がありましたが、機会を逃して手に取っていません。
保守思想について書くことも多く、近いうちに読了したいと思います。本書はAmazonの口コミにて紹介します。
一聴するとその単語の語感、イメージからソフトな本来とは真逆の意味にとられかねない”保守主義”。
本当の保守とは”性悪説”ベースで猜疑心を常に持ちつつ、権力を監視する政治思想であると著者は説いてくれている。
読みやすく分かりやすいと思う。
安倍批判というよりは、反面教師的な扱いで最近の(似非、商売)保守と、ソレに乗って気分よくなってる人達に警鐘を鳴らしているように思える。
まとめ
保守思想は別に高邁でも崇高でもありません。
「人間が持っている本来の実践的な知恵や常識が大切だ」とする思想です。つまり非常に実践的、プラグマティックな思想と言えます。
だからこそ経験を重ねれば、誰にでも理解できるはずです。なぜなら高度な理論や理屈など必要ないからです。
戦後日本で一体何を保守するのか? については、やや難しい問題です。太平洋戦争で日本的なものが断ち切られたと見るのか、それとも戦後日本の自由や人権といった価値観を保守するのか、もしくは新自由主義へ反発するのか。
紹介した本も手に取って、じっくりと考えてみてくださいね。
>保守思想の内容は難しいものではありません。要約すれば「現在の体制を維持し、漸進的に改善していこうとする姿勢」こそが保守思想の根幹です。
>保守思想そのものに支持する社会形態はありません。その時代の社会形態によって、保守思想は何を守るのかを変えます。
ということは、極端な言い方をすれば、現在の社会体制が、例えば一部のグローバル資本家やグローバル企業、あるいは(一党独裁体制における)中央権力者や独占企業の私利私欲のみを追求し、大多数の一般国民や人民をひたすら搾取・抑圧するようなものであったとしても、その体制を維持するか(あるいはせいぜい漸進的に改善する)ことが善であって、逆に現体制をクーデターや民衆デモ等で打倒することは悪であるとみなされることになります。
つまり、保守思想によって「保守すべき対象」が、国民国家を衰退・没落させ、あるいは全体主義・独裁政治を強化する体制であるということもあり得ることになる(保守思想とナショナリズムの齟齬)。そう考えると、保守思想も民主主義と同じく、必ずしも国民にとって”善なる結果”をもたらすとは限らない、ということになりませんか?
>仮に江戸時代にバークがいたとしたら、明治維新を批判していたかもしれませんね。
バークの立場からすると、徳川慶喜が討幕派の機先を制すべく大政奉還によって目論んだ政治体制、つまり徳川幕藩体制の延長線上としての有力諸藩による連合政権構想を支持するということになるのでしょう。近代議会制民主主義体制に移行するにしてもあくまでも漸進的に。ただ、明治維新による強力な中央集権体制の実現なしに、果たして日本が欧米列強による植民地支配から免れ、条約改正を達成して世界の一等国になり得たのか?甚だ疑問です。もし地方分権体制が温存されていたら、欧米列強得意の”分断工作”に嵌まっていたかも。保守思想を実践した結果、肝心の国家や民族が滅亡しては元も子もありません。
>日本でもっとも代表的な保守思想は戦前への回帰、ないし憧憬でしょう。敗戦を一つの断絶と見なし、伝統や文化が損なわれたと嘆きます。
>このタイプの保守はなぜか、断絶をもたらしたアメリカに親和的という特徴があります。
これこそ、いわゆる戦後保守=親米保守の自己矛盾の極み。自分から言わせれば似非保守、自称保守そのもの。それから、一口に戦前への回帰といっても、明治維新から昭和恐慌あたりまでの、天皇を頂点とするいわば日本型の近代立憲主義体制と、昭和恐慌以降の(同じく天皇を頂点としているが)軍部独裁の急進的な超国家主義体制とは似て非なる性質を持っています。後者の思想は、「国家改造」や「昭和維新」のスローガンの下、多くのテロやクーデター未遂を引き起こした急進的というか狂信的な国家社会主義思想であり、保守思想の対極に位置します。ある意味、マルクス・レーニン主義にも通じる極左思想です。
>安倍でもわかる保守思想入門(著者:適菜収)は発売当初から興味がありましたが、機会を逃して手に取っていません。
適菜さんの近年の著作(共著を含め)はほとんど読んでいます。列挙すると、
・「安倍でもわかる政治思想入門」
・「安倍でもわかる保守思想入門」
・「安倍政権とは何だったのか」
・「おい、小池!」
・「問題は右でも左でもなく下である 」
・「エセ保守が日本を滅ぼす」
・「もう、きみには頼まない」
・「日本共産党政権奪取の条件」
・「国賊論」
バークやトクヴィル、ニーチェ、オルテガ、オークショットら先人たちのさまざま保守思想をバックボーンにして、第二次安倍政権や大阪維新の連中、そして彼らに媚びを売る似非保守の乞食言論人どもや盲目的に礼賛するネトウヨども、さらには安倍長期政権をのさばらせてきた日本の大多数の有権者=B層愚民を徹底的かつ痛快に批判しています。
ただ、かつての「新潮45」などの雑誌や「日刊ゲンダイ」等のご自身のコラム記事からの抜粋部分も多く、純粋な書下ろし部分は思ったほど多くありません。また、個人的に言えば、保守思想の内容自体は西部邁さんの主要な著作で既に馴染み深かったため、内容的にさほど新発見はありませんでした(それぞれ1回読めば十分かなと)。なので、上記の著作は全部読みましたが、自分では買わずに地元の図書館にリクエストを出して買ってもらった次第(笑)。
ちなみに、以下の新著も出ています。
・「日本人は豚になる: 三島由紀夫の予言」
・「ナショナリズムを理解できないバカ: 日本は自立を放棄した」
>必ずしも国民にとって”善なる結果”をもたらすとは限らない、ということになりませんか?
そもそも「必ずしも善なる結果をもたらすような、合理性にあふれた考え方」への警戒が保守思想ですから、仕方ないかと。
そもそも保守思想は結果の善良さや、メリットが受容できることを強調してませんし。
バークは革命を「どうしようもなくなったときにするもの」としています。
>適菜さんの近年の著作(共著を含め)はほとんど読んでいます。
適菜収さんの本は、じつは読むのが初めてです(汗)
楽しみですよっと。
>そもそも「必ずしも善なる結果をもたらすような、合理性にあふれた考え方」への警戒が保守思想ですから、仕方ないかと。
なるほど。明らかに悪なる結果をもたらすような社会形態をそのまま維持するか(せいぜい漸進的な改善しか)認めないのが保守思想だとすると、保守思想の実践は民主主義と同様、最悪の場合、国家国民にとって破滅的な結末をもたらす可能性があることも決して忘れてはならないと言えます。
厳に慎むべきことは、保守思想をイデオロギー化してあたかもそれが真理であるかのように信奉することです。言い換えれば、「保守思想それ自体に対しても常に懐疑的な姿勢=保守思想は善なる結果も悪なる結果ももたらす可能性がある」ということがもっと強調されて然るべきではないか。民主主義に対する姿勢と全く同様に。
>戦後日本で一体何を保守するのか?
日本国民の文化的で安定した生活ですね。
ですよね。安定が一番大事です。
改革というものだって、例えばですが、大阪都構想なども、日本国民の文化的で安定した生活に資するのなら、やれば良いのです。
ただし、大阪都構想の場合はそうにはならないから、こうにも反対されるというだけで・・・。
基本的には改革=不安定が通常ですからね~。
大阪都構想はいろんな意味で論外ですが(笑)
西部邁の素顔
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2018/03/10/keizai-38/
週刊金曜日オンライン
保守思想がリベラリズムと歩み寄れるのも可能かもしれません。リベラルな経済学者であった宇沢弘文先生の最大の理解者は、保守派の西部さんだったと思われます。「自分は経済学は捨てられたけど宇沢弘文は捨てられなかった」と西田さんはいいましたから。
ちょっと違いますけどリベラル・ナショナリズムという概念もあるくらいですから、可能っぽいですよね。