格差社会が問題視されてから、長い長い年月が経ちました。日本では1990年代後半~2000年代初頭に格差社会が問題視され始めます。
しかしそれから20年。格差社会は問題の解決に向かうどころか、ますます深刻化しています。
どうして格差社会が解決できないのか? 非正規雇用や貧困、地域間格差など問題は噴出するばかり。
解決できないのは原因を見誤っているからです。非正規雇用、貧困、教育など個別に対処しても格差は解決できません。
格差社会の真の原因とは「野放図な資本主義」「新自由主義」です。そのメカニズムをできるだけわかりやすく5分で解説します。
格差社会とは何か
格差社会とは1998年のデフレ突入以降、しばしば聞かれるようになった言葉です。特に2000年代初頭の小泉内閣から、とても問題視され始めました。
小泉内閣の構造改革で非正規雇用が増加し、本格的な格差社会が幕を開けたと言えます。
世界では日本よりは早く、1980年代から格差拡大が始まりました。現在、アメリカではボトム90%の人が持つ全資産より、トップ1%が持つ資産の方が多いという異常な状態です。
格差とは
そもそもですが格差とは何でしょうか。
格差(かくさ)とは、同類のものの間における、程度(水準・資格・等級・価格・格付け、レベル)などの差や違いである。
格差 – Wikipedia
完全な平等はあり得ませんから、格差はどこにでも存在します。問題にされている格差は、その程度がひどいレベルなので問題になります。
所得格差や経済格差
格差社会では所得格差や経済格差が発生します。例えば非正規雇用の増加なども一例です。
アメリカのような超格差社会だとトップ10%が全所得の5割、資産の7割を占めます。こういった富の偏在も格差社会の現象です。
地域間格差
日本でも地域間格差が発生しています。東京一極集中で人口も富も東京に集まります。一方で地方は人口が流出して過疎化していきます。
ますます広がる地域間格差は、日本全体の経済成長にも悪影響を及ぼすと懸念されています。
格差社会だと何が問題か
格差社会で主に問題とされる3つの事柄について、さっとおさらいしておきましょう。
貧困
格差社会でもっとも問題視されるのは「貧困」です。持つものがさらに富み、持たざるものがさらに貧困になるのが格差社会です。
2019年の調査によれば日本の貧困率は15.6%となっており、OECD加盟国平均を上回ります。およそ6人に1人が貧困というのが日本の実態です。
2007年に北九州市の男性が「おにぎり食べたい」と書き残して餓死した事件があったように、日本でも餓死は存在します。
2016年の厚生労働省の統計では、日本で餓死した人数は11人。そのうち10人は40代~50代の現役世代だったとのことです。
格差の固定化と再生産
格差社会の問題点で貧困と同じくフォーカスされるのが「格差の固定化」です。一度格差社会で負け組になると、二度と這い上がれずに一生負け組のままという傾向が固定化です。
この傾向は特に就職氷河期世代に強く表れています。就職氷河期世代は就職が困難で、非正規雇用に甘んじた人たちも多くいました。
そういった人たちの正規雇用への転換が進まず、格差が固定化してしまった一例です。
加えて低所得層は教育に費用がかけられず、富裕層の子供との間に教育格差が生じます。
例えば東大生の親は年収900万円以上が6割、350万円以下はわずか9%弱しかいません。
こうして教育格差が所得格差や経済格差につながり、格差の再生産が起こります。
国民意識の断絶
格差社会であまり問題視されませんが大問題なのが「国民意識の断絶」です。ごく一部の保守やリベラルが問題視するだけで、大きく取り上げられることがありません。
低所得層と富裕層では見ている景色が異なります。金持ちはスラム街の住人の生活を想像できませんし、逆もまたしかり。
低所得層と富裕層は別々の日本を生きることになります。これが国民意識の断絶です。
お互いに連帯感がないので、そもそも国民国家として成り立ちません。国民国家として成り立たないのであれば民主主義も成り立ちません。
国民意識の断絶によって民主主義が機能しなくなります。
格差社会を招く原因
格差社会を招く原因はいろいろ語られます。少子高齢化や非正規雇用の増加、労働派遣法の改正etc……。
しかしこれらは「結果」であって「原因」ではありません。
世界は1980年代以降、新自由主義を採用しました。自由競争と市場原理を優先したのです。それこそが原因であり、自由競争と市場原理の結果こそが格差社会であると解説します。
新自由主義と自由競争
1970年代にオイルショックが引き起こしたスタグフレーションを解決するため、アメリカやイギリスは新自由主義を採用しました。
スタグフレーションとは、インフレと失業率の増加が同時に起きる現象です。
アメリカが新自由主義を採用したことにより、西側諸国はもれなく新自由主義を採用していきます。新自由主義とは自由競争と小さな政府を是とする、経済イデオロギーの一種です。
フランスの経済学者であるトマ・ピケティは21世紀の資本論の中で「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という公式を見いだしました。
この公式は資本主義200年間の統計から見いだされたものです。
ピケティの公式は「資本主義を野放図に放置すると100%格差が広がる」と示しています。
自由競争と小さな政府では100%格差が広がる。それが過去200年間の統計から見えた現実です。
政治が適度に経済に介入し、富の再分配を機能させ、失業者を公共事業で雇わないと格差は広がり続けるのです。
非正規雇用の増加
新自由主義は自由競争を重視するため、あらゆるものを規制緩和して民営化しようとします。
労働法の規制緩和もその一つです。
規制緩和すれば民間企業が参入する障壁が低くなります。民間企業の利益になる規制緩和が次々と行われるのが、新自由主義の特徴です。
「利益になるのであれば良いのではないか?」と思うかもしれません。
しかし企業の利益になることは「売り上げが上がる」か「コストが下がる」かです。コストの中には人件費も含まれます。
非正規雇用の増加はその結果です。
企業の要求に政治が迎合し非正規雇用を増加させたことも、下をたどれば新自由主義を採用したことが原因です。
東京一極集中と地域の過疎化
自由競争は戦えば必ず大資本が勝ちます。自由競争は換言すれば弱肉強食です。
自由競争の原理は地域にも適用されます。したがって東京という強い地域が一人勝ちし、他の地域が過疎化していきます。
東京の一極集中などの地域間格差も、下をたどれば新自由主義の採用が原因です。
まとめ
格差社会は新自由主義に端を発します。新自由主義の結果である非正規雇用の増加や、少子化、地域間格差を個別に対処しても効果は限定的です。
格差社会という問題を解決する手段は、新自由主義を捨て去ること以外に存在しません。
- 格差は拡大しすぎることが問題
- 貧困や格差の再生産、国民意識の断絶が格差社会で発生する
- 格差を招く原因はピケティの公式の通り野放図な資本主義、つまり新自由主義にあり
- 格差社会を解決するためには新自由主義を捨て去るしかない
行き過ぎた格差社会がどのような結末をもたらすのかを知るには、堤 美果氏の書籍がおすすめです。堤美果氏はアメリカの行き過ぎた格差社会を描き出しています。
この本は、すでに著者が同じテーマで出した2冊の本[「ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)」 「ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書) 」の続きである。
マスコミが扱いたがらない、USAという国のすさまじい貧困と格差社会を明らかにしている。これは日本の近い将来の姿でもある。
超格差社会と貧困がまん延する日本で絶望するのか、それとも「社会は変えられるんだ!」と信じて戦いに立ち上がれるかどうかが問われている。
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