「AIが仕事を奪い失業増加!だからベーシックインカム」は正しいか

 筆者は、ベーシックインカムの議論は大歓迎です。ちまたでもベーシックインカムは、興味深い議論として捉えられています。

 しかし「なぜベーシックインカムが議論されているのか」という根本的な理由を知らないと、議論は空回りするだけ。

 ベーシックインカムが議論される原因の1つ、「AIが仕事を奪い人々が失業する」は本当か? わかりやすく解説していきます。

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ベーシックインカムとは

 ベーシックインカムの定義について復習しましょう。給付形式と財源で、ベーシックインカムは分別できます。

給付形式

 給付形式は2種類。ユニバーサルベーシックインカムと負の所得税です。

ユニバーサルベーシックインカム

 ユニバーサルベーシックインカムは、全国民一律に定額を給付する形式です。赤ちゃんから高齢者まで老若男女すべてです。

 金額は7~10万円前後で議論されることが多いです。

 ユニバーサルベーシックインカムはUBIとも略されます。

負の所得税

 負の所得税は所得税の逆バージョンです。所得が低い人ほど多くのベーシックインカムが給付されます。所得の高い人は少額ないし給付されません。

 所得の額によって給付される金額が決定されます。累進課税の給付金版、累進給付とでも呼ぶべきでしょう。

 議論される給付最大金額はUBIと一緒です。

財源と社会保障

 財源や社会保障の扱いで、さらにベーシックインカムは分類できます。

社会保障一元化

 社会保障一元化は財源を社会保障の予算に求めます。年金や生活保護を廃止する代わりに、その予算をベーシックインカムに回します。

 年金や生活保護だけでなく、失業保険や健康保険も含んで議論することがほとんどです。

社会保障をそのまま残す

 社会保障をそのまま残すベーシックインカムの財源は赤字国債です。現代貨幣理論(MMT)や積極財政の支持者にはこのタイプが多いです。

 課題は「インフレ制約をどうするか」です。この課題については後述します。

ベーシックインカムが議論される理由

 ベーシックインカムが議論される理由は2つあります。格差社会とAI失業です。

格差社会の到来

 アメリカの低所得層の所得は、過去30年間でほとんど増加していません。ところがアメリカの富裕層の所得は数十倍から数百倍にもなっています。

 たった62人が世界のGDPの半額を、資産で保有しています

 この格差社会への危機感から、ベーシックインカムは議論され始めました

 ベーシックインカムはもともと、新自由主義経済学が思いついたものです。格差社会は新自由主義が招きました。

 格差社会に危機感を持ってベーシックインカムを実施するのは、新自由主義が起こした問題を新自由主義に解決させることです

 解決するかどうか、相当疑わしいです。

AIに仕事が奪われるという危機感

 AIに仕事を奪われ人々が失業する。だからベーシックインカムだという議論が主流です。今回の記事も主にこちらの解説です。

 2045年にはシンギュラリティが予想されており、人間の能力をAIが超えると言われています。多くの仕事がAIに代替されて、人間は仕事を失うのではないかと危惧されています。

 だからこそベーシックインカムで生活費を給付するとの主張です。

 しかしこの議論には決定的な見落としがあります

  1. AIは仕事を奪うだけで創造しないのか
  2. AIで供給力は上がるが、人々の需要は一定なのか

 早速、解説していきましょう。

AIやロボットは仕事を奪い失業を増やすか

 AIやロボットは人々の仕事を奪い、本当に失業者だらけにしてしまうのでしょうか? 世の中ショッキングな予想ばかりが流布し、現実的かつ堅実な予想は面白くないので流布しません。

 AI失業説でも、同じことが起きている可能性があります。

AIに代替されると言われる仕事

 このままAIが発達すれば、多くの仕事がAIに代替されるのは間違いありません

 オックスフォード大学は、701職種をAIが将来的に代替できるか分析しました。この研究では「47%の労働者がAIに代替される」と予測されます。

 日本でも野村総合研究所が同様の分析を行い「日本の労働者の49%がAIに代替される」と予測。

 こういった研究結果から「AIで多くの失業者が出る」との言説が流布しました。

AIが仕事を創造する側面

 オックスフォードや野村総合研究所の研究はあくまで、現在の仕事についてです。

 AIが発達すれば、多くの需要や仕事が生まれると言われています。想像もつかない仕事が生まれる可能性も。
 AIというイノベーションによって、波及的に数多のイノベーションが起きます。

 AIに仕事が代替される面も確かに存在します。しかし、AIが仕事を創造する側面を忘れてはいけません

総務省が専門家にヒーリングした結果

 総務省が専門家にヒーリングしたところ、「AIで失業者がたくさん出る」と予測した専門家は27人中たったの3人

 「AIで新しい市場が創出されて雇用機会が増える」と答えた専門家は16人でした。

 専門家たちはむしろ、雇用機会が増えると考えています。
参照 総務省|平成28年版 情報通信白書|人工知能(AI)導入で想定される雇用への影響

 とすると「AIが仕事を奪い人々を失業させる。だからベーシックインカムだ」という未来は訪れない可能性が高いです。

ベーシックインカムと需給ギャップ

 AIはむしろ雇用を増やすかもしれません。

 こう言うと「いやいや、だけどAIで供給力は増える。だから働かなくても生きていけるじゃないか。人々は労働から解放されるんだ」と反論されます。

 供給>>需要となるのでデフレ気味になる。したがってベーシックインカムでお金を給付しても問題ない、という議論です。

 AIの発達によって巨大な需給ギャップが発生する、よってその溝をベーシックインカムが埋めるわけです

 しかしこの議論も見落としがあります

 需要が今のまま一定だという保証がどこにもないことです。

 AIが新しく雇用機会を生むことは、イコールで需要が新しく創出されることを意味します。
 簡単に言えば、需給ギャップが思ったほど発生しないかもしれません

 人々が労働から解放されない可能性は、わりと高いと考えます。

週に15時間労働を予想したケインズ

 ケインズは1930年代に「21世紀には週15時間労働になる」と予測しました。週に5日働くとして1日3時間労働! なんてホワイトなんだ!

 しかしこの予測は大外れ
 1970年代を境に労働時間短縮の流れは停滞しました。

 ケインズの予測通り多くのイノベーションが起き、供給力は格段に増加しました。
 イノベーションや供給力の増加とともに需要も増加したのは、ケインズでも予想外でした。

 同じことがAIで起きないと言えますか?
 AIで半分の人が失業する! という予測は、ケインズの予測と同じく外れる可能性は高いでしょう

 なおケインズは労働時間が減って「人々は余暇を持て余す」と予測しました。

 もしAIとベーシックインカムが実現したとして、あなたは膨大な自由時間を持て余さずにいられるでしょうか。

ベーシックインカムとAIで興味の出る本3選

 ベーシックインカムとAIの議論は大変興味深いですよね。筆者も、いくつかの書籍に興味があります。

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 著者の野村直之氏は、30年以上にわたりAIの研究に携わってきた専門家です。口コミでも高評価。

「AIが人間の仕事を奪う」「AIで人間は仕事をしなくて良くなる」など、様々な未来予想が飛び交う中、冷静な視点でAIについてまとめた良書です。

 かなり興味をそそる書籍です。

AIで人の仕事が消滅する……。
研究者による「20年以内に49%の仕事が消える」との予測から、5年が経った。
その間、「AI時代に生き残る仕事は?」、「AIに負けないスキルを身につけよう!」といった話題で持ちきりだ。
AIで仕事から解放されるという楽観論、AIで職にあぶれた貧困者が続出するという悲観論。多くの論があるものの、そもそも”議論の土台”自体からして、正しいのだろうか?

 まさしく筆者と同じ問題意識です。「AIで仕事がなくなる」という悲観論ばかりでは、科学的な視点とは言えません。こうした楽観論の学ぶ必要があるでしょう。

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人工知能は脅威か? 救世主か?
「人類とは何か」が分からないまま、AIを理解することはできない。
火、言語、農業、都市……人類の歴史をひも解きながら、AIの本質にせまる。

 なるほど、ド正論。「人類が何かわからないのに、AIがわかるはずがない」「なぜならAIは人類の作った道具だから」と直感的に理解しましたが……正解でしょうか?

 とても興味深い書籍です。

まとめ

 ベーシックインカム議論で語られるAIはアニメ的で、非現実的です。AIは鉄腕アトムやドラえもんなど、何でもしてくれる魔法のロボットのように語られます。

 魔法を前提とした議論は現実的ではありませんし、将来を的確に予測もできません。

 本当にAIで失業者が増えるのか? ベーシックインカムで議論した人は少ないでしょう。

 ベーシックインカムもAIも魔法の杖ではありません。しっかり、現実的な認識から議論したいものです

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2 Comments
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Muse
10 日 前

>AIに仕事が代替される面も確かに存在します。しかし、AIが仕事を創造する側面を忘れてはいけません。
とすると「AIが仕事を奪い人々を失業させる。だからベーシックインカムだ」という未来は訪れない可能性が高いです。

>AIが新しく雇用機会を生むことは、イコールで需要が新しく創出されることを意味します。
簡単に言えば、需給ギャップが思ったほど発生しないかもしれません。

仰る通りだと言えます。

ところで、これに関連した話題ですが、以前、ネットで「テクノロジーの進化によってプログラマーの仕事は20年後にはなくなる」という趣旨の、堀江貴文と落合陽一の対談動画がありました。果たして今後、AIとかノーコード・ローコード(コードを書かない、または少ないコードでアプリケーションを開発すること)といった様々な技術の進化によって「広義のエンジニア」の仕事はなくなってしまうのか?

答えは間違いなく否です。いくらテクノロジーが進化して様々な作業が効率化・自動化されても、社会のニーズ(需要)が十分に満たされるわけではなく、今度はその進化した技術を「当然のものとして」、顧客ユーザーからさらに高度な機能要件の実現を要求されることになるからです。いわば、需要と供給の相互作用によって無限に続くであろう技術の進化を常にキャッチアップし、よりハイレベルな要求に対応し続けることがエンジニアに求められることになる。

したがって、上記の要件を満たすエンジニアであれば仕事にあぶれることはないといえます。逆にレガシー化した技術、システム開発系でいえば、古くは汎用機のOSの知識やCOBOL言語によるコーディング、C/Sシステム全盛期のVBによるWindowsアプリ開発の技術、近年ではAdobe Flashの技術しかないようなエンジニアは完全に淘汰されています。また、インフラ系ではいまやAWSやGCPのようなクラウドが主流になっているので、オンプレミス時代の技術は徐々に陳腐化していくでしょう。