竹中平蔵氏がベーシックインカム7万円発言をしてから、ベーシックインカム議論が盛り上がっています。
そこで今回は、ベーシックインカムと生活保護の違いについて徹底的に比較! 支給額や補足率のみならず、行政コストや受給者感情、労働インセンティブも比較します。
先にはっきりさせておきます。筆者はベーシックインカムに慎重ですが、否定派ではありません。
軍配はどちらに上がるのか? 中立的に違いを比較して見ましょう。
忙しい人は、以下の表を見ればだいたい理解できるかと思います。
ベーシックインカム | 生活保護 | |
支給額 | 7万円 | 12万円前後 |
医療費など社会保障 | 別途必要 | 必要ない |
補足率 | 100% | 約20% |
行政コスト | 極めて低い | 高い |
労働インセンティブ | 高い | 低い |
受給者感情 | 特になし | 恥ずかしいなどの感情も |
ベーシックインカムと生活保護の違いを比較
本稿でのベーシックインカムは竹中発言と一緒で、支給額を月に7万円と仮定します。またユニバーサルベーシックインカムとします。ユニバーサルベーシックインカムとは、全国民に一律給付するタイプです。
比較の最後には、表形式で違いをまとめます。
生活保護の特徴
まず現行制度である、生活保護の特徴を見ていきましょう。
支給額
支給額は自治体により異なりますが、単身世帯で12万円前後となります。高齢者2人世帯や、母子家庭などケースによって支給額は異なります。
本稿では単身世帯に支給される金額である、12万円を基準とします。
医療費など社会保障費
生活保護を受けていれば、医療費は無料です。
補足率
補足率とは、生活保護受給資格のある人のうち、実際に生活保護を支給されている人の割合です。生活保護受給資格のある人とは、生活保護以下の所得で生活をしている人たちです。
日弁連の資料によれば、生活保護の補足率はおよそ2割だそうです。日本共産党の資料でも約22%です。
参照 なんだっけ/生活保護の捕捉率って?
行政コスト
生活保護は自立を目指す制度ですから、それぞれにケースワーカーが付きます。事情に合わせて自立を支援し、促します。
加えて生活保護は申請しないと、受け取れません。申請窓口業務なども、行政コストに含まれます。
行政コストは高めと言えます。
労働インセンティブ
生活保護でもっとも問題となるのは、補足率と労働インセンティブです。
12万円の生活保護費とは別に労働すると、所得の分だけ生活保護費は引かれます。所得が12万円以内だと、労働しても所得は伸びません。
例:所得5万円なら、生活保護費は5万円マイナスの7万円支給
このため、労働へのインセンティブが働きにくくなります。働いても所得が変わらないため、働かないという悪循環に陥ることも。
受給者の感情
生活保護の受給は、恥ずかしいことだと感じる人が多いようです。「私は生活保護を3年間受けていた。恥の感情が体の中に染み込んでいく日々 | ハフポスト」では、実際に生活保護を受けたことのあるライターが記事を書いています。
記事によれば「差別を受けることが多い」「生活保護受給はプライドを捨てること」だそうです。
余談ですが、日本人の人権意識が低いからでは? と疑問を抱きます。
ベーシックインカムの特徴
次にベーシックインカムの特徴を見ていきましょう。本稿では竹中案である、月7万円のベーシックインカムを仮定しています。
支給額
支給額は7万円です。ベーシックインカムはもともと、7~10万円程度の支給額で議論されることが多いです。7万円という仮定は、妥当だと言えます。
医療費など社会保障費
ベーシックインカムでは、保険料などは別途支払いが必要です。医療費も同様です。
補足率
ユニバーサルベーシックインカムが前提ですから、補足率は100%近くになるはずです。ユニバーサルベーシックインカムとは、UBIと略されることもあります。
全国民一律給付が、ユニバーサルベーシックインカムの定義です。
行政コスト
ベーシックインカムは一律給付で、申請や審査はありません。よって行政コストは、極めて安くなるでしょう。ケースワーカーも必要ありません。
加えて年金や生活保護を一元化してベーシックインカムに統合する場合、さらに行政コストは下がります。
労働インセンティブ
基本的にユニバーサルベーシックインカムは、所得によって支給額は変化しません。働いて所得を得れば、労働所得+ベーシックインカム支給額となります。
労働インセンティブは、極めて高いです。
受給者の感情
国民一律で支給されるので、差別や恥といった感情は発生しません。
違いを表で比較
ベーシックインカム | 生活保護 | |
支給額 | 7万円 | 12万円前後 |
医療費など社会保障 | 別途必要 | 必要ない |
補足率 | 100% | 約20% |
行政コスト | 極めて低い | 高い |
労働インセンティブ | 高い | 低い |
受給者感情 | 特になし | 恥ずかしいなどの感情も |
表にしてベーシックインカムと、生活保護の違いを比較してまとめました。
「ベーシックインカムの方がいいじゃん!」
そう思われる人も多いかもしれません。しかしベーシックインカムは、生活に困窮しても7万円は変わらない点に注意が必要ですよ。
ベーシックインカム導入で生活保護は廃止?
仮にベーシックインカムが導入されたら、生活保護はどうなるのでしょうか。廃止か、それとも残るのか。
社会保障の一元化
ベーシックインカムはもともと、社会保障の一元化を目的とした議論です。年金や生活保護をベーシックインカムに一元化することで、行政をスリム化、効率化するのがベーシックインカムです。
本来のベーシックインカムの議論なら、生活保護は廃止されてしかるべきでしょう。
ベーシックインカムと生活保護の並立は可能か
一方で積極財政派の中には、ベーシックインカムと既存の社会保障制度の両立を主張する人たちもいます。
ベーシックインカムは導入するけど、年金や生活保護もそのまま残すと言います。
生活保護12万円+ベーシックインカム7万円が受け取れるなら、筆者は働かないでござる!
――失礼。閑話休題。
さすがに19万円支給はなさそうですから、上限12万円でベーシックインカム+生活保護とするのでしょう。極めて生活保護に近い制度になりますから、労働インセンティブは純ベーシックインカムに比べて低下するでしょう。
- 生活保護+ベーシックインカムでは行政は効率化しない
- 労働インセンティブも生活保護と同じ程度
- 補足率も生活保護分は、やはり2割程度
生活保護とベーシックインカムの並立は、ベーシックインカムの特徴を殺します。
ベーシックインカムの憲法問題
生活保護の支給額は、憲法に定められている「健康で文化的な最低限度の生活」の基準となっています。12万円が日本人の、最低限度の生活を送るために必要な金額です。
ベーシックインカムでは、最低限度の生活に足りません。ベーシックインカムの7万円という支給額は、憲法違反の可能性が高いです。
加えてベーシックインカムでは、医療費や保険料も別途支払いが必要です。最低限度どころか、暮らしていけるかどうかすら微妙です。
ベーシックインカムと生活保護は一長一短
多くの人は今の生活が、いつまでも続くものと思っています。自分が貧困に陥ることなど、実際に陥るまで考えもしません。
そういった人たちにとって、ベーシックインカムは魅力的です。仕事をしながら、7万円を毎月受給できるからです。
しかし貧困に陥りそうな人にとっては、ベーシックインカムより生活保護が頼りでしょう。7万円で医療費も別では、暮らしていけません。
ベーシックインカムと生活保護の両立はどうかと言えば、ベーシックインカムの特徴がおよそ殺されます。
そのため筆者は、生活保護の拡充が適当ではないかと考えています。――個人的にはベーシックインカムは魅力的だと感じますよ、もちろん。
ベーシックインカムと生活保護は、一長一短。帯に短したすきに長し、なのかもしれません。
まとめ
ベーシックインカムと生活保護の違いを比較し、まとめてみました。表にまとめてみると、わかりやすくなりますよね。
比較表は、ベーシックインカムの議論などに使用してくださいね。画像化して、以下に貼っておきます。
画像はWebP形式になっているので、ダウンロードした後にWEBP変換ツール (jpg、pngとwebpを相互変換)でJPEGなどに変換してください。
貧困問題について、以下の著書が詳しいようです。
上記の著書はKindleUnlimitedなら、無料で読めますよ。
>そのため筆者は、生活保護の拡充が適当ではないかと考えています。――個人的にはベーシックインカムは魅力的だと感じますよ、もちろん。
確かに生活保護の拡充というか、要件緩和が絶対に必要だと思います。その際の最大の障害となるのが、自己責任論を振りかざして”生活保護バッシング”を行う一部の国民世論。
彼らの考えだと、「自分たちは毎日、きつい低賃金労働で暮らしているのに、生活保護者は税金で不労所得を得ている。けしからん!」ということになりますが、本来、批判の矛先は生活保護受給者ではなく、「デフレを長期間放置し、さらに加速させて国民の貧困化と社会の分断をもたらしてきた」緊縮財政一辺倒の歴代政権(特に第二次安倍政権)や財務官僚のクズどもに向けられるべき(それか、頑張ってスキルや経験を磨いて自分の所得を増やすべき)。こういう自己責任を声高に叫ぶ愚民どもを啓蒙してくれるまともなメディアや言論人が極めて少ないのが残念です。
それから、ベーシックインカムが魅力的かどうかは、個々人の事情によって千差万別です。ちなみに自分の場合は、ローンなしの持ち家の一人暮らし、所得ゼロ&金融資産生活者なので、それに毎月7万円も支給されるというのは(65歳までは)まさに天国。ただ、65歳になっても、(月10万円以上はもらえるであろう)年金が支給されず、死ぬまで月7万円しかもらえないのは嫌ですね。
かなり個人の事情によるでしょうね~。
いざというときには、やはり生活保護の方が頼りになりますしね。多分。