先日、「政治家の世襲を禁止しろ!」とのツイートを見かけました。日本は世襲議員の割合が多いです。菅総理誕生まで20年近くの間、総理も世襲議員から輩出されていました。
なるほど、禁止と言いたくなりますよね。しかし禁止は禁止で、問題があります。
政治家の世襲が海外より多い理由や、世襲議員の割合。そして世襲禁止の問題点などを解説します。
世襲政治家とは
世襲議員の定義を、はっきりさせておきましょう。
世襲議員とは「地盤」「看板」「カバン」を、祖父母や両親から引き継いでいる政治家を指します。
地盤とは後援会など、支援組織です。看板とは知名度、カバンとは選挙資金や集金ルートのことです。
これらはひっくるめて、3バンと呼ばれます。
世襲議員の割合は自民党で3割、他党も入れると10%台だろうとのこと。
参照 なぜ日本は世襲議員が多い?問題点を知ろう – 通勤コンパス
海外で政治家は世襲するか
海外の世襲議員の割合と比較しないと、日本の世襲が多いのかどうかわかりません。
以下は2008年10月24日の、読売新聞の紙面から。
米連邦議会に占める世襲議員の割合は、議会や議員名簿などによると、上院議員100人中5人、下院議員435人中23人で、それぞれ5%程度にとどまり、日本に比べると極端に低い。
アメリカやイギリス、韓国で世襲議員は少ないそうです。日本のように世襲議員が多いのは、イタリアです。
他のソースでは、G7のほとんどの国で世襲議員は1割以下とのことです。
参照 【出口治明との質疑応答15】なぜ、日本だけ、世界でも突出して世襲議員が多いのか? | 哲学と宗教全史 | ダイヤモンド・オンライン
やはり海外に比べて、日本は世襲議員が多いです。
なぜ日本では政治家の世襲が多いのか
なぜ日本では、世襲議員の割合が多いのでしょうか。いくつか考えられる理由があります。
得票率が低いと、世襲議員が蔓延る?
得票率が低いと、固定票を持った世襲議員が有利です。
仮に2割の固定票を、世襲した候補者が押さえているとします。全体の得票率は50%。とすれば世襲した候補者は過半数を抑えるのに、あと5%を取り込めばOKです。
対して対立候補は、25%が必要です。
5倍もの票を取り込まなければ、対立候補は勝てません。
仮に得票率8割なら、固定票20%+20%対40%となり2倍まで縮まります。
得票率の低さが、世襲議員が有利な理由の一つです。
実力より知名度
日本の選挙は、知名度があったもん勝ちです。タレント候補が多いのも、知名度目当てです。
地盤や看板を引き継いでいる政治家は、無名の新人より圧倒的に有利です。
余談ですが、政治一家として育った候補者と一般的な候補者では、前者の実力が上でもおかしくありません。専門性は、前者が高いと言えます。
党議拘束に従っていればいいから
日本の政党は海外に比べて、拘束が強いと言います。党議拘束など、党内での同調圧力が強いそうです。
党議拘束に従うだけなら、立候補した本人の理想やビジョンは関係ありません。よって知名度、専門性のある世襲議員が有利になります。
政治家にサラリーマンは立候補しづらい
世襲議員が多い一番の理由は、サラリーマンが政治家に立候補しにくいことです。
もしあなたに「3ヶ月後の選挙に、立候補してほしい」と打診があったら、立候補しますか? 99%の人が、断るでしょう。
立候補するためには、仕事を辞めなければなりません。キャリアが途切れるデメリットは、計り知れません。
加えて当選も定かではないのに、仕事を辞めるのはリスキーです。
国民が世襲議員を選ぶから
最後に、当たり前でバカバカしい真実を書きます。世襲する政治家が多いのは、世襲した政治家を国民が選ぶからです。
需要があったので供給する、それだけの話です。国民が選ばなければ、世襲する政治家も少なくなります。
世襲議員が多くて問題だ! と言うなら、それは国民が原因です。
政治家の世襲禁止は何が問題か
政治家の世襲は、さまざまな問題点が指摘されます。その一つが、地元への利益誘導や既得権益化することです。
これらの指摘は、筆者には理解できません。選挙区の支持者に利益をもたらそうとするのは、むしろ政治家の本能であり役目だと思うからです。
政治家の世襲の問題点は、ただ一つです。世襲でない人たちのハードルが高く、政治に参入しにくいことです。
政治家の世襲を禁止すれば、問題は解決するでしょうか? 政治家の世襲禁止には、さまざまな問題があります。
職業選択の自由を制限する
政治家の世襲禁止とは、政治家の子供は政治家になることを禁止することです。職業選択の自由を、制限することに他なりません。
政治家の家に生まれただけで、政治家になる道をたたれるのです。理不尽過ぎます。
立候補の自由を制限する
立候補の自由も、憲法で保証されています。門地などによって、立候補を差別してはならないのです。
つまり世襲禁止は、憲法違反である疑いが非常に強い主張です。政治家の世襲禁止は、換言すれば人権侵害です。
公共の福祉と人権制限のバランス
「いやいや、人権も制限されるケースがある。だから世襲禁止も、憲法違反ではない」との反論があります。
公共の福祉を理由に人権を制限し、世襲を禁止するとの主張です。
しかし第一に近代国家で、親の職業によって子供の人権が制限されるなどあり得ません。
本人の行動が公共の福祉にそぐわないならまだしも、親が公共の福祉に尽くすと子供が人権を制限されるとは、理不尽そのものです。
第二に世襲は、いかなる公共の福祉を侵害しているのでしょうか。政治家の世襲に対する問題点の指摘は「既得権益化する」「新陳代謝が悪くなる」などです。
どれも抽象的で、言いがかりにすら思えます。
筆者は、世襲した政治家が悪いと考えていません。世襲ではない政治家が、生まれにくい土壌が問題です。
世襲以外の人が立候補するハードルという問題
「何かを壊したり、排除したりすれば問題が解決する」と、多くの人が考えます。政治家の世襲に対して、この考え方は非論理的です。
世襲議員の方が、違反や問題、犯罪が多いというデータがあるなら別ですが。
世襲議員は、問題の原因ではありません。問題の結果です。結果を禁止しても、原因はそのままです。よって問題は解決しません。
世襲する政治家が多くなるのは、世襲じゃない人たちの立候補するハードルが高いためです。3バンを資産化していないと選挙が戦えないほどに、ハードルが高い。
ハードルの原因は供託金の高さ、選挙運動資金の多さ、立候補するとキャリアが途切れるなどいくつもあります。
世襲議員を少なくするためのハードルの下げ方
- 供託金を下げる
- ネットの選挙活用を完全に認める
- 選挙にかかった資金の一部を、国が負担する
- 選挙期間中の休業を認める
選挙で当選するかどうかもわからないのに、仕事を辞めるなんてリスキーですよね。結果が出るまで、休業できる制度があればかなり変わると思います。
供託金を下げるという主張は多いのですが、所詮300万~600万です。
一方で参議院の選挙資金は、平均して6000万円(!!)とも言われています。衆院選でも、3000万円はかかると言われています。
3回半ほど選挙で負ければ、サラリーマンの生涯賃金です。これをなんとか下げないと、立候補のハードルも下がりません。
まとめ
- 世襲議員は祖父母や両親から3バンを引き継いだ政治家
- 日本の世襲議員の割合は10%台、自民党で3割。一方海外は5~10%程度
- 世襲政治家が多いのは、世襲じゃない人の立候補ハードルが高いから
- 加えて国民が、世襲政治家を選ぶから
- 世襲政治家禁止は、職業選択の自由や立候補の自由を侵害することに
- 世襲した政治家の方が問題を起こす、というデータはない。世襲議員の何が問題かははっきりしない
- 立候補や選挙へのハードルを下げれば、世襲する政治家も少なくなる
ジャーナリストである上杉 隆氏の本が、なかなか面白そうです。以下、Amazonの口コミを引用します。
まさしく、ど真ん中の本。
やはり何と言っても、政治資金の相続に「相続税が掛からない」事を公にした功績は大きいでしょう。(生前贈与までも)
とにかく自分も政治資金団体を作りたくなってしまう。(その前に金が無いが……)
世襲議員がいかに税法上利益を得え(鳩山総理個人献金でも晒された)、後援会の継承などで選挙に有利にたっているかを暴き出した本です。
個人的には世襲した政治家に、問題をあまり感じていません。むしろ世襲じゃないと参加できないハードルの高さや、参加意識の低さが問題のように思えます。
あなたは政治家の世襲を、どのように考えますか? 考えることが、政治参加の一歩です。
野党ですけど、菅直人元総理なんかもたしか非世襲でしたね。
ヤンさんのお考えにほぼ同意ですが、他にも、政権交代が極端に少ないから、世襲が成立しやすいとかも、ありますかね・・?
(ただ、民主主義社会においての政権交代の少なさはそれだけ他の国よりも社会の安定性、または社会の2極化の少なさを表しているのかもしれませんが、また弊害として硬直性も生み出すとかそんな感じでしょうかね・・)
政権交代も、関係あるかもしれないですね。
世襲で硬直性が高いはずなのに、改革病を煩っている日本ってどうなんでしょう……とか思ったり。
なぜ小選挙区制ではボンクラ議員ばかりになるのか?
https://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/db459ef1734a6758183d7dcba873d2f9
代替案のための弁証法的空間 Dialectical Space for Alternatives
小選挙区制の悲劇 中選挙区制の復活を
https://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/578d5fbd38c91e03b65a1ca0accf627c
代替案のための弁証法的空間 Dialectical Space for Alternatives
やはり中選挙区制にもどすしかないのかもしれません。
中選挙区制にすると次は「選挙運動でお金がもっとかかる!」んだそうです。
昔の話なので、ネット選挙でなんとかなればいいのですが。
イギリスの貴族院は世襲がいますね。