竹中平蔵氏は、小泉内閣で大臣として活躍しました。テレビに出演することも多く、知名度も高い経済学者です。
知名度が高い一方で、悪いイメージがついて回る人物でもあります。レントシーカー、政商、新自由主義者。もっとも有名なのは、派遣会社であるパソナの会長の肩書きでしょう。
今年に入って氷河期世代支援プロジェクトを立ち上げ、氷河期世代から「面の皮が厚い」と批判されました。
果たして竹中平蔵氏とは、どのような人物なのか。新自由主義者なのか、そうでないのか。深掘りして迫ります。
竹中平蔵の生い立ちや遍歴
まず基礎的な情報を、おさらいしておきましょう。生い立ちや研究者時代、そして政治家時代、現在です。
生い立ち
竹中平蔵氏は1951年生に、和歌山県で生まれました。小松通商店会の履物小売商の次男として、育ったようです。
叔父は眼鏡屋を経営しており、商売人一族だったことがうかがえます。
比較的裕福な家庭だったと、言われています。
研究者時代
一橋大学経済学部を卒業した後、日本開発銀行設備投資研究所に入社。その後、ハーバード大学やペンシルベニア大学に留学しています。
なお日本開発銀行では、高橋洋一氏と同僚だったそうです。
1987年に大阪大学経済学部助教授になり、その後ハーバード大学客員准教授及び国際経済研究所客員フェローに就任。
1994年に大阪大学で経済の博士を取得。
ドンドンと人脈を広げて、いくつかの理事を歴任。
インテレクチュアル・キャビネット政策会議を実質的に主催し、自民党議員との交流を深めました。
小渕政権から安倍政権まで
あまり知られていませんが、竹中平蔵氏は小渕政権の経済戦略会議委員に選ばれています。森政権でもIT戦略会議委員に就任。
小泉内閣の前から、自民党政権に食い込んでいました。
小泉内閣ではIT担当大臣、郵政民営化担当大臣を務めます。
第二次安倍政権では、民間議員として産業競争力会議のメンバーを務めました。国家戦略特区のメンバーとしても活動。
政治家として竹中平蔵
政治家としての郵政民営化担当大臣を担うなど、小泉構造改革に尽力しました。
累進課税には反対の立場で、フラットな税制を主張します。また「金持ちを貧乏人にしたところで、貧乏人が金持ちになるわけではない」というサッチャーの言葉を支持しており、格差拡大を許容しています。
まさに新自由主義的、新自由主義者といった風情です。
竹中平蔵の現在
竹中平蔵氏は、現在の菅政権ともパイプが太いと噂されています。
参照 菅首相、竹中元総務相と懇談:時事ドットコム
竹中平蔵氏はパソナ会長の他にも、じつにさまざまな肩書きを持っています。
- SBIホールディングス社外取締役
- 森ビルアカデミーヒルズ理事長
- 日本経済研究センター研究顧問
- 外為どっとコム総合研究所主席研究理事
- 東洋大学教授
- 慶應義塾大学名誉教授
- 内閣日本経済再生本部産業競争力会議 民間議員
竹中平蔵の発言や主張
竹中平蔵氏の主張は、過激で革新的です。まさに構造改革論者、新自由主義者の面目躍如でしょう。
日本経済は余命3年
竹中平蔵氏の著書に『日本経済「余命3年」』があります。著者は竹中平蔵、池田信夫、鈴木亘、土井丈朗と非常に香ばしいメンバーです。
この著書によれば日本は債務残高1100兆円を2013年までに超えて、債券安・株安・円安のトリプル安が起きるとのことです。
なお債務残高1200兆円・・・日本は本当に「財政危機」なのか? | 幻冬舎ゴールドオンラインによれば、2014年時点で1200兆円近くの債務残高でした。
現在は2020年ですが、債券安・株安・円安のトリプル安は起きていません。
若者には貧しくなる自由がある
竹中平蔵氏は東洋経済のインタビューで、以下のように答えたと言います。
「(若い人に1つだけ言いたいのは)みなさんには貧しくなる自由がある」
「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな。」
正社員をなくせばいい
他にも竹中平蔵氏は朝まで生テレビで「正社員をなくせばいい」と発言。大きな波紋と批判を呼びました。
残業代は補助金
2018年には東京新聞のインタビューで「残業代は補助金」発言をします。
「時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのはおかしい」
どうして「与えられた仕事の内容が、過大なのだ」という発想がないのか。
開業率を上げるために廃業率を上げるべき
筆者はネット情報だけで、竹中平蔵氏を解説しているのではありません。竹中平蔵氏の「ニッポン再起動 こうすれば日本はよくなる!」という著書を斜め読みしました。
この著書によれば、日本の開業率と廃業率は低いのだそうです。竹中平蔵氏は「開業率を上げるために、廃業率も上げなきゃならない」と書いています。
結構、最悪だと思います。
ベーシックインカムは月7万円
つい先日、竹中平蔵氏はBS-TBSの報道1930に出演して、ベーシックインカムに言及しました。
生活保護や年金を廃止して、代わりに月7万円のベーシックインカムを導入するとの案です。
参照 竹中平蔵氏が提案する「月7万円」のベーシックインカム論がヤバすぎる(藤田孝典) Yahoo!ニュース
Twitterでは批判の大合唱。
しかし竹中平蔵氏は批判されても、痛くもかゆくもないようです。
竹中平蔵の著作「ニッポン再起動 こうすれば日本はよくなる!」
竹中平蔵氏の著書「ニッポン再起動 こうすれば日本はよくなる!」を、斜め読みしました。その結果、いくつかの傾向がわかりました。
読んで感じたことは「竹中平蔵氏はビジネスマン」です。加えて、サミュエル・スマイルズの「自助論」を、竹中平蔵氏も好んでいることもわかりました。
サミュエル・スマイルズの自助論は「天は自ら助くる者を助く」に集約されます。以下、箇条書きでまとめます。
- 国家とは人の集まりだから、人の質が高くないといけない
- 勤勉さと努力、困難を乗り越える勇気が必要
- むしろ困難なき人生は成功しない
先日レビューした「1%の努力」は努力不要論ですが、「自助論」は努力万能論です。自助論については現在、まだ前半までしか読了してません。
しかしなるほど、成功者ほど自助論を好む理由がわかりました。自助論では成功を「自分が頑張ったおかげ」であり「勤勉さと努力、自由意志の勝利」とします。
マクロで見るなら勝利の裏には、必ずそれ以上の敗北があるにもかかわらず!!
閑話休題。
竹中平蔵氏の分析には、面白い癖があります。景気が良いのは改革のおかげ、景気が悪いのは改革が止まっているからとの理由付けです。
そしてリーマンショックやデフレを、軽微に考えます。
「ニッポン再起動 こうすれば日本はよくなる!」は結局、構造改革さえすれば日本は良くなるはずだ! との主張に終始します。
20年間も失敗し続けたにもかかわらず!
竹中平蔵は完全無欠の新自由主義者
竹中平蔵氏の著書も含めて、竹中平蔵氏を分析しました。
その結果、竹中平蔵氏はまごうことなき新自由主義者に違いありません。
竹中平蔵氏は自身を、新自由主義者ではないとテレビで発言しています。おそらく新自由主義者というイデオロギーに、カテゴライズされるのを嫌ったのだと思います。
ここに竹中平蔵氏の本質が、現れています。
世間の批判など、どこ吹く風。批判が大きい割に、民間議員などでエスタブリッシュメントに厚遇されます。
そして新自由主義的な政策を主張し、同じ口で「新自由主義者ではない」と言える厚顔さ。これこそ、竹中平蔵氏の本質でしょう。
皮肉ではなくこの図太さは、非常にうらやましく思います。
まとめ
竹中平蔵氏と新自由主義の関係、そして竹中平蔵氏の本質を、できる限り簡潔にまとめました。
竹中平蔵氏の恐るべきところは、政治に興味のある国民の多くに嫌われているにもかかわらず、実際の政治に関わる政治家やメディア、政府には引っ張りだこな点です。
竹中平蔵氏の主張は――サミュエル・スマイルズの自助論と同様に――成功者に響くのです。竹中平蔵氏が新自由主義者ではないなら、彼は強者におもねる政商なのかもしれません。
>Twitterでは批判の大合唱。しかし竹中平蔵氏は批判されても、痛くもかゆくもないようです。
>竹中平蔵氏の恐るべきところは、政治に興味のある国民の多くに嫌われているにもかかわらず、実際の政治に関わる政治家やメディア、政府には引っ張りだこな点です。
本来、世論の動向に敏感なはずの政治家やメディアが相も変わらず竹中平蔵を重用しているということは、政治に興味がある国民、特に歴代政権や自民党の新自由主義的政策に反対する良識ある国民が少数派であり、「世論形成の力がない」ということを意味しています。
その証拠に、朝日新聞の世論調査では菅政権の支持率が65%に達し、しかも40代、50代の女性支持率が7割超だとか。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8255e7e71743d2134821291f96e71ddc8c9be097?page=1
竹中らネオリベ勢力の代弁者ともいえる現政権の支持率がここまで高いということは、要するに、世論を形成しているマジョリティーの国民がバカ丸出しだということを意味します。
良識ある少数派がTwitter上で政権批判するのも結構ですが、(新聞やテレビなどが悉く政権寄りで全く頼りにならない以上)周囲にいる情弱国民を一人でも多く啓蒙していくようにしないと、世論は変わらないでしょう。
世論が啓蒙して変化するものなのかどうか?が、一番のポイントですね。
もし新自由主義への傾倒が現実否認の裏返しであった場合、啓蒙しても否認されるだけかもしれません。
聖域なき構造改革
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%81%96%E5%9F%9F%E3%81%AA%E3%81%8D%E6%A7%8B%E9%80%A0%E6%94%B9%E9%9D%A9
竹中平蔵氏、じつはかつて「公共投資の拡大」を声高に主張していた
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75907
現代ビジネス
竹中平蔵は「新古典派」か!?
https://green.ap.teacup.com/politicalscience/60.html
間政論
竹中さんは恐らくは、新古典派経済学やアメリカケインジアンやニューケインジアンの理論を、自分なりに折衷した近代経済学者です。しかしこれはあくまでも竹中さんをムリヤリ格好良くした言い方です。いみじくも宇沢弘文先生が仰ったように、あの人の本質は経済学者とはいえません。
>竹中平蔵氏は自身を、新自由主義者ではないとテレビで発言しています。
竹中さんが新自由主義者でないのなら、小泉政権が掲げた聖域なき構造改革すら、新自由主義的ではないという理屈になってしまいますね。あの人はよくもまあ「私は新自由主義者ではない」とかいえたものです。
理屈でいうなら、かつて公共投資を増やすべきと主張していた昔の竹中さんなら、確かに新自由主義者ではないですね。その後180度立場を変えたようなものだから、今は新自由主義者だといわれても仕方ないですよ。
>竹中平蔵氏の恐るべきところは、政治に興味のある国民の多くに嫌われているにもかかわらず、実際の政治に関わる政治家やメディア、政府には引っ張りだこな点です。
菅首相の支持者の多くも恐らくは、竹中さんが大嫌いなんでしょう。それにも関わらず菅政権を支持する理由は、「菅さんなら安倍さんのように、竹中の飼い慣らせることができる」と思っているからです。
私はむしろ逆に、安倍政権は竹中さんに飼い慣らされていたように見えますし、菅政権もそうなるとしか思えません。そんな私の頭はおかしいのでしょうか?
>それにも関わらず菅政権を支持する理由は、「菅さんなら安倍さんのように、竹中の飼い慣らせることができる」と思っているからです。
この手の現実否認。多いですよね。
>そんな私の頭はおかしいのでしょうか?
むしろ正常でしょう。多くが狂人の場合、正常な人の方が狂って見えるものです。
>この手の現実否認。多いですよね。
おそらく世間一般の胸の内は多くが、「消費増税は嫌だけど、選挙では与党の候補者に票を入れた方がいい。比例もそうすべきだ。理由はなんとなくなんだけど、それが無難なんだ」という考え方に支配されていると思います。
知り合いに、ほとんど政治に興味なくても消費増税は嫌がる人がいますが、そいつは去年の参院選ではどういうつもりか、自民党の立候補者に票を入れてます。いや、その候補者が当選したら、本気で消費増税に反対してくれる貴重な与党議員になる見込みあるとかなら、まだ少しは分かりますが、そうではない候補者なのだから理解に苦しみます。
政治に興味がほとんどなくて消費増税を嫌がるくせに、消費増税を実施しようとする与党の議員を増やそうとするのだから、相当倒錯した異常行動だとしかいえませんわ。そんな異常行動の原因には、「消費増税は嫌だけどなんとなく自民党がいい」という発想が根底にあると思います。
>「消費増税は嫌だけどなんとなく自民党がいい」
いわゆるダブルシンク(二重思考)ですね~。
本当、理不尽というか……(汗)
ほぼ同感です。ただ、新自由主義の総本山であるシカゴ大学に竹中平蔵が留学したようなことを聞いたことがあるのですが・・。
以下の記事で、記憶がごっちゃになったのでは?
世界随一の経済学者が、すべてを投げ捨てても守りたかったもの(佐々木 実) | 現代新書 | 講談社(1/3)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60245
留学はしてないと思いますが。