「1984年」というジョージ・オーウェルの小説で、二重思考という単語は初めて用いられました。Wikipediaでも二重思考は解説されていますが、ややわかりにくいです。
ですから、わかりやすく簡単に二重思考を解説します。加えて日本における実例も挙げます。
二重思考の原理や構造、作用、危険性などを知っておくことは、教養にもなりますよ。
二重思考が誕生した背景
二重思考とは小説「1984年」に出てくる言葉です。英語ではダブルシンク(Double Think)と書きます。1984年は、ジョージ・オーウェルの著作です。
1948年に書かれ、1949年に出版されました。
当時のソ連をモデルに、全体主義をテーマに扱ったSF小説です。ビッグブラザーという独裁者が統治する、全体主義・管理社会のディストピアを描いた作品です。
平和省は軍隊を統括し、豊富省は経済や配給、真理省はプロパガンダ、愛情省は警察を担当しています。この部分だけでも、かなり狂った世界観がうかがい知れます。
新語法(ニュースピーク)や二重思考(ダブルシンク)は、全体主義を永続させるための手段として使われる手法です。
二重思考とは何か
小説からの引用は少なめに、二重思考の原理や危険性などを極力わかりやすく解説します。
原理と構造
二重思考とは、対立した矛盾をどちらも真実だと信じる思考法です。
人間は認識に矛盾を抱えると、解消しようとします。いわゆる認知的不協和です。認知的不協和では、二つの矛盾の解消法があります。
喫煙者を例にすると、以下です。
喫煙者は「たばこを吸うこと」と「たばこが健康に悪いこと」を矛盾として抱えている。
解消法1:禁煙することで矛盾は解消される
解消法2:「でもたばこはストレス解消になる」「長寿の喫煙者もいる」など、新たな認識で矛盾を解消しようとする
二重思考ではどうなるでしょうか。「たばこを吸うこと」と「たばこは健康に悪い」の二つに、矛盾を感じることがない状態が二重思考です。
矛盾を感じて解消するのではなく、矛盾そのものを「忘れる」のが二重思考です。
対立が生み出す矛盾のことを完全に忘れなければならない。次には、矛盾を忘れたことも忘れなければならない。さらに矛盾を忘れたことを忘れたことも忘れ、以下意図的な忘却のプロセスが無限に続く。
二重思考 – Wikipedia
矛盾そのものを忘れることは、思考を停止と忘却で達成します。
二重思考とダブルスタンダードは異なる
ダブルシンク(二重思考)とダブルスタンダード(二重規範)は、似ている言葉ですが内容は異なります。
ダブルスタンダードとは、判断基準のブレです。AさんとBさんが同じ作業をしていても、上司の好き嫌いで評価が変わるのがダブルスタンダードです。
「嫌いだから低い評価をつけること」は悪いことですが、矛盾はありません。
二重思考なら上記の例は、以下のようになります。
「同じ作業をしていたにもかかわらず、Bさんの評価が低かったという矛盾」は「AさんとBさんは、違う作業をしていたからBさんの評価が低くなった」に書き換えられます。
同じ作業をしていたという事実は、二重思考では忘れなければなりません。
作用と使用法
小説「1984年」を読み進めるとすぐ「戦争は平和である 自由は屈従である 無知は力である」という一文が出てきます。
通常ならこの一文は、矛盾していることが認識できます。
しかし二重思考では矛盾なく「戦争は平和である 自由は屈従である 無知は力である」は成り立っています。
他にも二重思考の作用の実例を挙げましょう。
「改ざんしたばかりの新しい記録を正しいものだと信じる精神状態」
「2足す2は5である、もしくは3にも、同時に4にも5にもなりうる」
「正しいと言われれば、それが正しいと信じ込める精神状態」が二重思考です。このような状態では指導者が、決して過ちを犯しません。指導者が行ったことは――例え過ちであったとしても――、すべてにおいて正しいと書き換えられるからです。
危険性
もちろん、二重思考は危険です。まず真実や事実を認識できなくなります。真実や事実が認識できなくなるとは、何が正しいのか考えられなくなることです。
何が正しいのか考えられないと、プロパガンダを信じ込むことも容易になります。
二重思考とは矛盾を矛盾として受け止めない思考なので、矛盾にも気がつけません。
「みんなが正しいと言っているから正しい!」
「○○さんが正しいと言っていた! だから正しい!」
上記のような状態は、二重思考の入り口です。
二重思考の実例
二重思考の実例について、いくつか紹介します。
安倍政権の公式文書改ざん
安倍政権の公式文書改ざんは、二重思考の代表例と言えます。
公式文書とは、起きた事実を記す文書です。その文書を手続きもなく改ざんすることは、事実の書き換えと同義です。
一次ソースは、事柄に近い時間に書かれたものほど信頼性を増します。後から書き換えるとは、信頼性を損なう行為です。
公文書を改ざんすることで、実際に起こった事実が書き換えられて、認識できなくなります。
事実を事実と認識できないようにする、二重思考的な事件でした。
他にも、後から閣議決定でそうだったことにする、という手法もよく使用されました。
積極的平和主義
積極的平和主義も、二重思考的な言葉でしょう。
余談ですが「積極的平和(ヨハン・ガルトゥング)」と「積極的平和主義(安倍政権)」は、全く異なる意味です。
戦争が起きていない状態だが、差別や貧困などがある状態を消極的平和とガルトゥングは定義します。戦争とともに差別や貧困など、構造的暴力がなくなった状態が積極的平和です。
閑話休題。
積極的平和主義とは、安倍政権が使用した言葉です。2013年12月に、閣議決定されました。要約すると「日本も世界平和実現のため、その活動に積極的に関わっていく」という意味です。
「その活動」とは、アメリカへの協力だろうと考えられました。
ところがアメリカは、世界で最も戦争をしている国家です。
積極的平和主義のため、世界で最も戦争を起こしている国と協力する。大きな矛盾をはらんでいますが、その矛盾を感じた人は多くありません。
まさに二重思考の実例です。
自衛隊と憲法
筆者は自衛隊を尊重していますし、演習動画なども大好きな軍事好きです。そのようにまず、お断りしておきます。
政府の見解では、自衛隊は違憲ではありません。憲法が禁止しているのは、集団的自衛権だけという解釈からです。
自衛隊は軍隊ではないので、陸海空一切の戦力にも当たらないとされています。
……自衛隊はどう見たって軍隊です。海外からも軍隊と認識されています。
「自衛隊は軍隊ではない」
こう言い張れるのは、二重思考をしているからに他なりません。
まとめ
ジョージ・オーウェルの1984年は、政治や経済、イデオロギーに興味のある人なら一度は読むことをおすすめします。
教養の一つですし、読んでないとモグリ扱いされかねません(笑)
真実とは何か、客観とは何かを改めて考えた一冊でした。カラマーゾフの兄弟の大審問官の章と並を彷彿とさせる登場人物の台詞が印象に残っています。果たして我々は正しく世界を認識しているのか、自己のアイデンティティを揺さぶるインパクトある一冊です。
Amazonの口コミより
他に漫画版も出てたりします。筆者は小説しか、読んだことがありません。
加えて映画もあるようですが、怖そうなので筆者は見たくないです(汗)
二重思考をしっかり理解するには、実際の小説のストーリーを読むことが一番ですよ。