コロナ禍で政府は、コロナ対策を打ちました。一次、二次補正予算を合わせて60兆円、2020年度の新規国債発行額は90兆円です。
この動きに、財政破綻論が活況を呈しています。曰く「預金封鎖が起きる」、曰く「ハイパーインフレになる」など。
代表的な財政破綻論者は藤巻健史氏、小幡績氏などのエコノミストや経済学者です。
彼らの言説に、どういった嘘が含まれているのか。彼らの嘘を知ることで、日本が財政破綻しないという単なる事実をより深く確認できます。
財政破綻とは?
まず財政破綻を、しっかりと定義しておきましょう。
破綻とは「物事が、ほころびて(=綻)つくろえないというように、立直しも手詰まりになること」です。
財政とは「国家や地方自治体が収入・支出をする経済行為。転じて、会社・団体(更には家)の経済状態」です。
すなわち「日本の財政破綻」とは「国家の経済行為が困難な状態」と言えます。
国家の経済行為が困難になる状況の一つは、デフォルト(債務不履行)です。
もう一つはハイパーインフレ、つまり円の価値の過剰失墜でしょう。
財政破綻=債務不履行、またはハイパーインフレと定義できます。
財政破綻論につきもののハイパーインフレの定義
ハイパーインフレの定義ですが、2種類存在します。
一つはアメリカの経済学者、フィリップ・ケーガンが定義した月50%、年率換算13000%のインフレ。もう一つは国際会計基準が定義する、3年間で累計100%、年間26%のインフレです。
本稿では、国際会計基準の定義でハイパーインフレという用語を使用します。
日本が財政破綻すると言われるシナリオ
日本が財政破綻すると言われるシナリオは、今や3パターンしかありません。
- 国債バブル崩壊により、ハイパーインフレが起こる
- 国債の格付けが下げられ、ハイパーインフレが起こる
- 一度財政出動を行うと、民主主義では財政引き締めができなくなる。したがってハイパーインフレが起こる
ほんの数年前までは「国の借金が返せない!」というデフォルト論がありました。しかし「自国通貨建てでしょ、返せないはずないじゃん」というツッコミを受けて、最近ではあまり主張されなくなりました。
閑話休題。
パターン1は「国債バブル崩壊=長期金利上昇」でインフレになる! というもの。パターン2は日本国債の格付けが下げられ、信用不安から国債が投げ売りされる! そして国債バブル崩壊=長期金利上昇で以下同文。
しかし長期金利上昇とインフレは、日本経済にとって本来は福音です。長期金利上昇=投資需要の活発化=需要の増加に他ならないのですから。
そしてインフレがハイパーインフレになる筋道を「信用不安」という曖昧なものでしか、上記2つは説明できません。
つまりパターン1と2の財政破綻論は、理屈として破綻してます。
財政破綻の前に、財政破綻論の理屈破綻が起こっているのです! ……(笑)
理屈として破綻していないのは、パターン3だけです。
インフレなのに財政出動し続けると、もちろん最終的にはハイパーインフレになります。パターン3は財政出動し続ける理由を「国民は一度甘い汁を吸うと、二度と我慢できないから」と言います。
これはブキャナンの、赤字の民主主義と呼ばれる理論です。
2008年のリーマンショックのとき、アメリカは巨額の財政出動を行いました。しかし特に、ハイパーインフレになる気配はありません。
理屈としては成立しても、現実は「そんなことにはなっていない」のです。
まとめると「財政破綻論者の吐く理屈は全部バカバカしい」です。
日本の財政破綻論で必ず出てくる戦後のハイパーインフレ
日本の財政破綻論では最近、戦後のハイパーインフレを持ち出すのが流行しています。終戦当初GDP比200%以上の戦時国債を抱えており、戦後になって一気にハイパーインフレとなりました。
この戦後のハイパーインフレは、以下のように説明されます。
- 戦時国債などで、GDP比200%以上の負債を抱えていた
- 開戦当初から1955年までの14年間で、物価が180倍にもなった
- 戦時中から物価高騰は起こっていたが、戦後に表面化した
- 政府はハイパーインフレを止めるため、預金封鎖と財産税を課した
この説明だとまるで、国債が大きくなったからハイパーインフレになった! との印象を受けます。しかし分解すると、供給不足だからハイパーインフレになったと理解できます。
一つずつ、解説しましょう。
説明1 戦時国債などで、GDP比200%以上の負債を抱えていた
戦争中はたくさんの物資が必要です。つまり戦争需要が、民間需要とは別に創出されます。
インフレは供給<需要で起こります。
戦争中は供給が空襲で不足気味、需要は民間需要+戦争需要で過大となりました。
戦争中の物価高騰は、戦時国債が原因ではありません。供給が空襲で壊滅的ダメージを受けた+戦争需要が原因です。
説明2 開戦当初から1955年までの14年間で、物価が180倍にもなった
先ほど説明した通り、供給能力の喪失+戦争需要の増大=過剰なインフレです。
なお、仮に本土空襲を受けておらず供給能力が保たれていたら、ここまでひどいハイパーインフレにならなかったはずです。つまり半分は、アメリカのせいです。
説明3 戦時中から物価高騰は起こっていたが、戦後に表面化した
戦時中の物価統制の他にも、配給制が物価上昇の抑止に役割を果たしました。戦後に物価高騰とハイパーインフレが表面化したのは、復興需要が原因です。
そして復興のための供給能力が少ないため、ハイパーインフレが表面化しました。
説明4 政府はハイパーインフレを止めるため、預金封鎖と財産税を課した
ハイパーインフレを止めるため、なぜ預金封鎖や財産税だったのか?
インフレとは供給・需要で見ると「供給<需要」で起こります。貨幣量から見ると「供給<貨幣量」でインフレになります。とすれば需要を発散させるための貨幣量を少なくすれば、インフレは抑制できます。したがって預金封鎖や財産税で、貨幣を消滅ないし使えないようにしました。
今風に言うと、インフレ抑制のために緊縮財政をしたのです。
戦後のハイパーインフレまとめ
戦後のハイパーインフレは、GDP比200%の国債残高が原因ではありません。需要増加に追いつくように増加する供給能力が、主にアメリカの空襲で壊滅させられたのが原因です。
そして戦後、復興需要が盛んになりハイパーインフレが起こりました。
実際に復興需要が一段落すると、過剰なインフレも収まります。
なお18年間で物価が300倍の場合、年間インフレ率は38%。14年間で物価180倍でも年間インフレ率45%です。
国際会計基準のハイパーインフレではありますが、フィリップ・ケーガンのハイパーインフレの定義には全く足りません。
1970年代のオイルショックのとき、年間インフレ率は31.4%を記録しています。こう考えると、戦時中-戦後のインフレ率は「そこまで大したことがない」と感じませんか?
オイルショックで31.4%の「ハイパーインフレ」のとき、日本の国債発行残高は10兆円程度でした。国債発行してなくても、供給が少なければ普通にハイパーインフレになります。
つまりハイパーインフレの原因は、国債発行残高ではないとわかります。
そもそも財政破綻が日本で起こらないわけ
財政破綻=デフォルト(債務不履行)ないしハイパーインフレです。デフォルトは、自国通貨建て国債では起きません。
日本が財政破綻するとは、イコールでハイパーインフレになると主張することです。
ハイパーインフレは「考えられないほどの、供給能力の壊滅」か、もしくは「戦争などによる急激な需要増加」でもない限り、起こりません。
少なくとも国債発行残高が増えたから、ハイパーインフレが起こるという因果関係はありません。
オイルショックのように、国債発行残高が少なくてもハイパーインフレは起こります。
加えてハイパーインフレになる前に、段階があります。「デフレ→インフレ→過剰なインフレ→ハイパーインフレ」です。
よほど政策を間違え続けるか、戦争などで政府支出拡大がやむを得ない場合以外で、ハイパーインフレになることはまずありません。
もしくは巨大地震で、東京・大阪・名古屋が壊滅的打撃を受ければハイパーインフレになるかもしれません。
インフレやデフレは、どこまで行っても「供給と需要のバランス」でしか起こりません。日本の国債発行残高は、直接的には無関係です。
国債発行残高が大きくなったから、財政破綻する! という主張は、根拠が全くない印象論です。
まとめ
財政破綻論者たちの主張は、理論的でもなければ理屈も通っていません。印象操作やイメージで、危機を煽っているだけです。
日本の財政破綻論が出てきて、すでに30年が経過しています。一向に日本は、財政破綻する兆しすらありません。
そもそもハイパーインフレの心配をする前に、デフレを心配するのが普通です。
寝込んで体重が激減しているときに、肥満の心配をするのはバカのすることです。
コロナ禍での人々の不安につけ込んで、またもや財政破綻論を流布する人でなしがいます。彼らは失業や需要減で失われる人命より、国債発行残高を気にせよと言います。
いい加減にこの手の、根拠なきデマはやめてほしいものです。
>日本の財政破綻論が出てきて、すでに30年が経過しています。一向に日本は、財政破綻する兆しすらありません。
確かに「財政破綻の兆候がでてきました」なんてニュースは見たことがありませんね。だから私はこの手の議論をすると、「ちょっと試しに消費減税してみたらいいのでは?」といいます。そういっても頭ごなしに否定しますからね財政破綻論者は。いや100%この意見に同意しろはいいませんよ。それでも頭ごなしに全否定するのはどうかと思いますわ。
そんなニュースがあったらびっくりですよね。
おっしゃるとおりで。
規制緩和とかは「試しにやってみて、ダメなら戻せばいい」と言うのに、消費減税は「ダメ」ですもんね。