経済のニュースでときどき、インフレやデフレという言葉を聞きますよね。「どっちがどうだっけ?」とあやふやな人も多いでしょう。
正直なところ、日常会話でインフレやデフレなんて使いませんものね。
インフレ、デフレの理解で、必要なポイントだけに絞って解説していきます。
インフレとは
インフレとは「供給<需要」の状態を指します。
需要=ほしい人が多いので、物価が上昇します。物価の上昇を貨幣側から見ると、貨幣価値の下落が起こっています。
資本主義ではインフレが健常な状態であり、正常です。資本主義でもっとも大事なのは、投資です。貨幣価値が下落していくことは、現金で保有するインセンティブを減少させます。
したがって企業はインフレ下で、現金で保有するより投資に資金を回します。
インフレにもいくつかの種類があります。簡単にご紹介しておきましょう。
コストプッシュインフレ
コストプッシュインフレは、悪いインフレと言われます。読んで字の通り「コストが上がることで、物価が上昇するインフレ」がコストプッシュインフレです。
国内で完結する材料コストの場合、支払った金額は誰かの所得になります。よってどこかで所得増が起きて、需要が増加することでバランスします。
コストプッシュインフレが起こる大きな原因は、輸入物の価格高騰です。特に石油や鉄、小麦など基礎的な輸入物の高騰が、コストプッシュインフレにつながります。
デマンドプルインフレ
デマンドとは需要のことです。デマンドプルインフレとは、需要が増加することによってもたらされるインフレです。
デマンドプルインフレは、良いインフレと言われます。
デマンドプルインフレは需要に対して、供給が追いかける形で循環します。需要に応えて供給を増やそうと投資して、さらに需要が増える循環です。
デマンドプルインフレは、資本主義の健常なインフレです。
ハイパーインフレ
ハイパーインフレは国際会計基準によれば、3年間で累計100%を超える物価上昇率と定義されています。年間で26%平均の物価上昇です。
もうひとつの定義もあります。アメリカの経済学者であるフィリップ・ケーガンによれば、毎月のインフレ率が50%を超えることです。
この定義では年間に物価が129.75倍になります。すなわち年に12875%のインフレ率がハイパーインフレと、ケーガンは定義しました。
後者の定義が、ハイパーインフレの定義として使われることが多いようです。
インフレの原因
インフレの主な原因は、需要増加や市場競争の緩和です。
- 政府支出拡大
- 民間市場への貨幣供給
- デマンドプルインフレ
- 規制強化
- 保護主義
政府支出の拡大や民間市場への貨幣供給は、需要増加政策です。加えてデマンドプルインフレは、インフレをさらに循環させる要因です。いわゆるインフレスパイラルです。
規制強化や保護主義は市場競争を緩和させ、値下げ圧力を緩和する働きがあるため、インフレの原因になります。
インフレが行き過ぎた場合、これらの逆のことをすればインフレ対策になります。
デフレとは
デフレとは「供給>需要」の状態です。
資本主義においてデフレは異常事態であり、20年もデフレ、ないしデフレギリギリにいる日本は異状です。
デフレでは物価が下落していきます。反対側の貨幣から見れば、貨幣価値が上昇してきます。したがって現金や預金で通貨を保有するインセンティブが生まれ、投資や消費が少なくなり需要不足に陥ります。
デフレは物価下落速度以上に所得を下落させます。さらに恐ろしいのは、慢性的な需要不足は最終的に、供給能力さえも毀損していくことです。
デフレのバリエーションや、関連する用語を紹介します。
ディスインフレ
しばしばディスインフレは、デフレないしデフレに近い状態として語られます。また「今はデフレではなく、ディスインフレ!」という主張も見られます。
ディスインフレとは何らかの政策でインフレから抜け出し、物価上昇率が低下している状態を指します。簡単に言えば「インフレが落ち着き、物価上昇率ゼロに向かっている状況」がディスインフレです。
バブル崩壊(1991年)から1997年まで、日本はディスインフレだったとされます。1998年からデフレに転じたため、現在の日本はディスインフレとは言えません。
輸入デフレ
安い輸入物が大量に輸入されることで、起こるデフレが輸入デフレです。
安い輸入物と国内企業の競争が発生し、物価下落圧力が働くことで輸入デフレが発生します。
資産デフレ
資産デフレは土地や株式などの資産価格の下落によって、企業や個人に含み損が発生し、投資や消費を控えることで発生します。
金融危機で世界経済が長期停滞に陥った原因のひとつが、資産デフレです。
逆に金融資産の高騰は、実体経済に与える影響が不確かです。日本で株価が高くなっているのに、実感なき景気回復と言われる所以です。
金融資産の下落は実体経済に確実にダメージを与えますが、金融資産の上昇は実体経済に対して効果が不確かなのです。
デフレの原因
デフレの主な原因は、需要不足や市場競争の激化です。
- 政府支出の過少
- 民間市場への貨幣供給の過少
- デフレスパイラル
- 規制緩和
- 自由貿易
- 金融危機などのショック
デフレ状態にある場合、企業や個人は現金で保有するインセンティブが高まります。よって合理的に判断によって企業も個人も、投資や消費を増やしません。いわゆるデフレスパイラルに突入し、デフレがデフレの原因となります。
デフレ化で需要不足を解消できるのは、政府のみです。したがってデフレとは、政府支出の過少が原因と言えます。
加えて規制緩和や自由貿易は、市場競争を激化させることで値下げ圧力を増加させます。金融危機などの経済ショックも、デフレを発生させる原因となります。
デフレの原因の逆を行うことで、デフレ対策ができます。政府支出の増加、規制強化などです。
それぞれの覚え方を教えてほしい
インフレとデフレという言葉は、普段使用しません。ふとした瞬間に「あれ? どっちがどっち?」となりますよね。
インフレとデフレを覚える方法のひとつは、構造を把握しておくことです。字面だけで覚えようとすると、すぐに頭から抜け落ちます。しかし構造を覚えると、不思議と字面も覚えられます。
インフレとデフレのちょっとした疑問
経済を専門にしていない限り、インフレとデフレで素朴な疑問が浮かぶのは当然です。例えば「インフレとデフレは同時に起きないの?」とか「インフレとデフレはどっちがいいの?」etc……。
インフレとデフレが、同時に起こることはありません。しかしインフレなのに、所得が下がり続けるデフレのような現象が起きることがあります。
これをスタグフレーションと言います。スタグフレーションの構造は簡単です。景気後退で所得が上がらない、ないし下落するのにコストプッシュインフレが起きることで、スタグフレーションが発生します。
コストプッシュインフレは、輸入物の高騰で起こります。つまりスタグフレーションは「国内景気が悪い+輸入物の高騰による物価上昇」という状態です。
さて、インフレとデフレはどちらがいいのでしょうか? 一見してデフレは、物価が下落するので消費者にとっていいことのように思えます。
しかし消費者=労働者でもあります。物価の下落はイコールで、所得の下落です。そしてデフレでは、物価の下落速度以上に所得が下落します。
経済にとって健常であり、正常なのはインフレです。デフレはどこの国でも、もっとも陥りたくない経済状況です。20年間も放置している日本は、かなり異状です。
まとめ
インフレとデフレについて、網羅的にポイントをまとめました。今回の記事を読めば、インフレとデフレの大体のことがわかるはずです。
日本は失われた20年と言われ、1998年からデフレないしデフレギリギリが続きました。現在でもデフレギリギリです。
日本国民の世帯所得は1993年の664万円がピークですが、同水準で1998年まで推移しました。1999年から下落し始め、現在はなんと551万円です。
失われた20年で世帯所得は、約110万円強も失われました。
デフレがいかに恐ろしいか、この数字で理解できるはずです。
デフレの間に叫ばれた「○○改革!」は、ほとんど規制緩和でした。つまりデフレなのに、デフレ圧力を強める政策を次々としていたのです。
いい加減に日本の経済政策が、少しくらいまともになってくれることを祈念します。