ジョブ型雇用とは?メリット・デメリットと日本での根本的問題点

 コロナ禍やアフターコロナという単語とともに、ジョブ型雇用が囁かれています。どうやらジョブ型雇用にすれば効率化や合理化になり、仕事がはかどり、テレワークが上手く導入でき、労働者もハッピー! 企業もハッピー! だそうです。

 本当に? かつての成果主義や、騒がれたけどトンと見なくなった裁量労働制と、同じにおいがしませんか?

 結論から言いますと、日本でジョブ型雇用は根付きません。ジョブ型雇用にどのような特徴があり、根付くには何が必要で何が問題か? 構造的な部分も含めて、わかりやすく解説します。

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ジョブ型雇用が注目されている背景

 ジョブ型雇用が注目されている背景には、いくつもの要素があります。

 まずコロナ禍です。コロナ禍で政府が新しい生活様式を発表するなど、我々の生活を大きく変えそうです。コロナのあとはテレワークが主流になる! との言説もあります。このような情勢で、ジョブ型雇用にも注目が集まっています。

 他にも「ジョブ型雇用で国際競争力を高める」「人手不足だからジョブ型雇用が必要」「ダイバーシティ(生活や価値観の多様化)が進んだので、ジョブ型雇用が求められている」などと言われます。

 ……机上の空論、画に描いた餅、畳の上の水練といった言葉が、頭に浮かんでくるのは筆者だけでしょうか。

 気を取り直して、順を追って解説します。

ジョブ型雇用とは

 ジョブ型雇用を説明するときに、必ずジョブディスクリプション(職務記述書)という言葉が出てきます。ジョブ型雇用を象徴するのが、ジョブディスクリプションです。

 ジョブディスクリプションは直訳すると、仕事の説明です。例えば工場員ならライン作業専門でしてもらいます、というだけの話。これをホワイトカラーにまで広げるのが、ジョブ型雇用のイメージです。

 職能の歯車化、とも表現できるでしょう。

ジョブ型雇用の特徴

 ジョブ型雇用はスキル型雇用と言い換えると、イメージしやすいでしょう。仕事に対して専門家を割り当てるのが、ジョブ型雇用の特徴です。

 Aというスキルを持ったaさんは、Aの専門家としてAだけを請け負います。aさんがいなくなっても、Aのスキルを持った他の人を補填すれば、仕事全体は回ります。
 プログラムで言うオブジェクト指向が、ジョブ型雇用のイメージに最も近いでしょう。

 スキルを持った専門人材が“いる”なら、効率的かつ合理的な組織運用です。

ジョブ型雇用のメリット

 ジョブ型雇用のメリットは、人材の専門性が高まることです。労働者は、スキルの習熟度に応じて年収が上がっていきます。逆にスキルのない人材や、そのスキルを持つ人が多い供給過多のケースでは、年収は頭打ちか低いです。

 専門分野でキャリアアップしやすいというのも、ジョブ型雇用のメリットです。キャリアアップとはすなわち、転職のことです。

 企業にとってのメリットは、専門人材が自分で勝手にスキルを研鑽してくれることです。加えて求人の際に、求めるスキルが明確になりマッチングコストが低くなります。
 要するに、人材へのコストが低くなる”はず”だと想定されています。

ジョブ型雇用のデメリット

 専門にしている分野が、市場から淘汰されることも考えられます。プログラムで例えればCOBOL、Pearlなどが該当します。わかりやすい例では、使い捨てカメラの開発に携わっていた人たちもそうです。

 市場そのものがなくなれば、磨いてきた専門性の需要がなくなります。つまり仕事がなくなる危険性があります。

 加えてスキルは、自己研鑽が必要です。ジョブ型雇用では絶えず、自己研鑽が求められます。

ジョブ型雇用のイメージは会社に属するフリーランス

 ジョブ型雇用のイメージは、会社に属するフリーランスではないでしょうか。専門性を獲得していることが前提なので、会社で研修や教育は行われません。自分の専門分野でのみ、アウトプットができればOKです。

 Webライターやフリーランスエンジニアのような働き方が、ジョブ型雇用です。

ジョブ型雇用の対義語はメンバーシップ型雇用

 ジョブ型雇用の対義語は、メンバーシップ型雇用です。メンバーシップ型雇用は、日本の従来の雇用制度を指します。日本企業のホワイトカラーの大半は、メンバーシップ型雇用です。

メンバーシップ型雇用の特徴

 メンバーシップ型雇用の特徴は、人に仕事を割り当てることです。仕事を割り当てることで、人材を育てていく雇用形態と言えます。また研修や教育など、人材育成にコストをかけるのも特徴です。

 メンバーシップ型雇用はジョブ型雇用と異なり、コミュニケーションやチームワークが重視されます。まず人ありきの雇用形態なので、人の余剰も発生し非効率的、もしくは冗長性が高いです。

 仕事のアウトプットさえしていればOKではなく、どちらかと言えば会社に仕えているイメージ。業務ではなく仕事(仕える事)というわけ。

メンバーシップ型雇用のメリット

 メンバーシップ型雇用のメリットは、前提条件が終身雇用である点です。終身雇用だからこそ、社内人材への育成コストをかけることができます。

 一般的にメンバーシップ型雇用では、ゼネラリストが育成されると言われます。しかし専門家(スペシャリスト)も育成可能です。ゼネラリストかスペシャリストかは、企業の方針により異なります。
 ただしジョブ型雇用より、柔軟性のある人材を育てることができます。

 労働者にとってメンバーシップ型雇用は、雇用が安定しており年収が将来的に上がる見通しが立ちます。従って将来が想定しやすく、人生設計が容易です。

 企業にとっては柔軟性のある自社人材を育成できるので、さまざまなシーンへの対応力が広がります。

メンバーシップ型雇用のデメリット

 メンバーシップ型雇用は「特定の専門業務をこなすこと」ではなく「会社に仕えるイメージ」ですから、転属や配置転換などがあり得ます。

 加えてチームワークが重視されるので、コミュ力がないと居場所がなくなるなどの問題点も。

メンバーシップ型雇用のイメージはサラリーマン

 メンバーシップ型雇用は、いわゆるサラリーマン的な働き方です。日本では「終身雇用と年功序列は非効率!」と言われますが、1990年以前まではその日本式経営で世界を席巻していました。

 日本が国際競争力を失ったのはメンバーシップ型雇用のせいではなく、単に日本政府が消極財政(緊縮財政)を続けたせいです。

 次は成果主義や、裁量労働制の構造的欠陥を解説します。

成果主義や裁量労働制の末路

 1991年にバブルが崩壊すると、日本は世界で認められていた日本式経営をあっさりと投げ出します。いわく成果主義で、国際競争力を高める! というお題目が唱えられました。

 成果主義の中途半端な導入は、終身雇用を破壊しただけに終わりました。成果主義を導入して成果なしとか、アホの所業です。日本の経済エリートは、得てしてそういうものです。

 先年は裁量労働制が、大いに話題に上りました。裁量労働制を謳う高度プロフェッショナル制度は、法律が施行されてから1ヶ月間でわずか1人に適用されたに過ぎません。

 2019年4月に導入された高度プロフェッショナル制度は、現在のところ400人強に適用されているそうです。……ええっ! たった400人? 1年も経って? と驚くでしょう。筆者も驚きました(笑)

 2000年代に入ると企業は、トップダウンだ! ボトムアップだ! ユニット制だ! などと、成果主義と一緒に企業組織をいじくり始めました。
 当たり前ですが組織形態をいじっただけで、売り上げや生産性が上がるはずがありません。それで上がるなら、年から年中、組織をいじっておけば安泰ですよね。

 これら数々の失敗は「仕組みを変えたら利益が上がり、コストが大幅に削減できるはず!」という思い込みからきています。余談ですが、大阪都構想や行政改革も一緒ですよ。

 成果主義、高度プロフェッショナル制度や裁量労働制、2000年代初頭の組織いじり。これらとジョブ型雇用の、一体何が異なるのでしょうか?

 ジョブ型雇用がコスト削減になり生産性を上げるためには、専門人材が「あふれていること」が必要です。つまり「自社で人材育成コストを払わずに、専門分野を任せられる人材がほしい!」がジョブ型雇用。

 そんな都合のいい話が、あるわけがありません。高度プロフェッショナル制度が適用されたのが、たった400人。専門人材なんて、あふれるほどいるわけがないでしょう。

 欧米でジョブ型雇用が成り立っているのは、人材育成への投資が盛んだからです。国家と企業が官民一体となり、人材を育成しているからこそジョブ型雇用が成り立ちます。日本では企業が、メンバーシップ型雇用でその役割を担ってきました。

 メンバーシップ型雇用を放棄すれば、人材は育ちません。限られた人材という資源を、ジョブ型雇用で取り合えばコストは高騰。よって日本で、ジョブ型雇用は根付きません。

ジョブ型雇用とは画に描いた餅

 ジョブ型雇用は現在のところ、日本において画に描いた餅です。専門人材があふれているという餅がないと、構造的に崩壊して成り立ちません。そしてその餅は、画の中にしかありません。

 さらに問題を提出します。そもそもジョブ型雇用を、マネージメントできる人材がいるのでしょうか?

 テレワークで上司が、仕事をマネージメントできないと話題になっています。ジョブ型雇用に切り替えたら、もっと混乱するんじゃないでしょうか。

 さらにさらに、ジョブ型雇用を実行できるのは大企業のみです。なぜなら人数の少ない中小企業では、常識的に考えてゼネラリストの社員の方が役に立つからです。

 日本の中小企業の割合は、99.7%です。従業員5名以下の小規模企業が、日本の企業数の9割弱を占めます。中小企業は雇用の、7割を担っています。従業員5名以下の小規模企業で、雇用の25%ほどを占めます。

 この状況で「ジョブ型雇用が成立して広がる!」なんて考える人は、論理性が皆無です。有り体に言えば、お花畑でしょう。残念ながら日本は、お花畑が大半を占めているようです。

 余談ですがテレワークについても、中小企業の割合が関係しています。テレワークがいまいち広まらないのは、中小企業にとってテレワークが非合理的だからです。テレワークに投資するコストもなければ、そのスイッチングコストを支払ってもメリットがない。よってテレワークは、日本であまり波及しません。

 閑話休題。

 ジョブ型雇用という言葉も、10年後には成果主義と同じく「あ~、過去にそんなのあったよね」程度の話題です。まともな企業経営者なら、ジョブ型雇用より明日の売り上げを考えることでしょう。

まとめ

 どうしてこうも、論理的でないものが持ち上げられるのか? 筆者には謎です。

 ジョブ型雇用が日本で上手く行かない理由は、突き詰めれば「どこにそんな人材がいるんだ! どこで育ててるんだ?」という単純なことです。下手すりゃ中学生にだって、理解できる話です。

 ではなぜ、日本では成果主義、高プロ制度、ジョブ型雇用などがもてはやされるのでしょう? 仕組みさえ変えれば上手く行く! と、バカな妄想に浸れるのでしょう?

 答えは簡単で、根元が行き詰まっているからです。消極財政(緊縮財政)によって失われた20年が訪れ、その行き詰まった状況ではどうあがいたって「なんともならない」が当たり前。
 なんともならないので、改革や仕組みを変えることで「上手く行くと思い込みたい」というわけ。

 ジョブ型雇用への盛り上がりもそういった、現実逃避の一種かもしれませんね。

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