日本では「創造的破壊でイノベーションが起きる!」としばしば言われます。「創造的破壊の結果としてイノベーションが起きる」という、間違った認識が広まっています。
この俗説を聞くたびに「なぜ、こんな簡単なことを間違えるのか」と頭が痛くなります。
創造的破壊とは何か? イノベーションはどうしたら起こせるのか? この2つの疑問について解説します。
創造的破壊やイノベーションの「正しい認識」を持っていれば、他のイノベーション関連の記事を読むときに、異なった視点や視野から考えることができますよ。
創造的破壊とは
創造的破壊の意味を、しっかりと説明できる人は少ないと思います。けれど創造的破壊という単語の、イメージだけが日本では一人歩きしています。
創造的破壊という言葉が使用される場合、そのほとんどが誤用なのは困ったものです。
シュンペーターが生み出した概念
創造的破壊とはオーストリアの経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターが生み出した概念です。ちなみにイノベーションという概念も、シュンペーターが生みの親です。
シュンペーターの考えは、古典派経済学や現在の主流派経済学と異なりました。均衡した静的世界観ではなく、不均衡の動的世界観を前提にイノベーションや創造的破壊という概念は生まれました。
シュンペーターによれば資本主義は、イノベーションと革新を常に続ける動的な経済形態です。そしてイノベーションによって創造的破壊――という現象――が引き起こされます。
決して「創造的破壊が起こったから、イノベーションが生まれた」のではありません。逆ですよ逆!
日本の間違った創造的破壊
日本の創造的破壊は、誤用されて定説化しようとしています。そんなところでガラパゴス化するのは、やめて欲しいところです(笑)
企業家のイノベーションによって、古い経済・経営体制は破壊され新たな経済発展が生じるという、シュンペーターの経済発展論の中心概念。
創造的破壊(そうぞうてきはかい)とは何? Weblio辞書
上記のように正しい解説もあるものの、下記のような誤用が一般的です。
新しいものを創造するために古いものを壊すこと
創造的破壊(そうぞうてきはかい)とは何? Weblio辞書
「新しいものを創造するために古いものを壊すこと」が、日本における一般的な創造的破壊の認識でしょう。
この理論に則れば、例えば和食という「古いもの」を壊せばクリエイティブでイノベーティブな何かが生まれることになります。そんなはずはありませんよね。宗教か何かでしょうか?
創造的破壊の本来の意味
少し詳しく、創造的破壊を解説しましょう。
創造的破壊をスマートフォンの事例で参照しましょう。スマートフォンというイノベーションで、既存のガラケーが市場から駆逐されていきました。
スマートフォンが創造され普及していく中で、ガラケー市場が破壊されたのです。
これを創造的破壊と呼びます。
決して創造的破壊が起こったから、イノベーションが生まれるのではありません。
先ほどのような「新しいものを創造するために古いものを壊すこと」は、まだ新しいものも創造できていないのに、古いものを壊しています。つまりこれは単なる破壊です。
イノベーションの定義
では創造的破壊という現象の原因となる、イノベーションとは何でしょうか?
イノベーションは日本語で技術革新と訳され、主に技術的なことにフォーカスされます。しかしイノベーションを定義したシュンペーターによれば、何も技術的なことだけではありません。
イノベーションとはシュンペーターによれば、新結合から生まれます。新結合から生まれるイノベーションは、以下の5つに分類されます。
- プロダクション・イノベーション(新製品)
- プロセス・イノベーション(新しい生産方法)
- マーケット・イノベーション(販路や顧客の新規開拓)
- サプライチェーン・イノベーション(新しい供給元や原料の取引先)
- オルガニゼーション・イノベーション(組織の一新や改革)
新結合とは何か? 既存の技術や情報が、今までにない方法で結びつくことです。
例えばヌーベルキュイジーヌは、新しいフランス料理です。これは既存のフランス料理と、新鮮な素材の味を引き出すという新結合によって生み出されました。
スマートフォンもそうです。ガラケーより新しい技術が、使われていたわけではありません。
イノベーションと軍事開発
イノベーションと軍事について、少しだけ触れておきます。軍事研究で開発されたイノベーションは、枚挙に暇がありません。身近なところではティッシュペーパーからサランラップ、缶詰などもそうです。他にもインターネットやGPS、電子レンジetc……。パソコンも最初は、弾道ミサイルの計算用に生み出されました。
日本ではしばしば、イノベーションに自由が必要だと言われます。では軍事開発から生まれたイノベーションは、自由だったから生まれたのでしょうか? そんなわけありませんよね(笑)
軍事から数多くの、そして重要なイノベーションが生まれています。イノベーションに必要なのは「自由」ではなく「必要と投資」です。
そのことを次に、Amazonなどの例から解説しましょう。
イノベーションに必要なものを考える
日本でイノベーションが生まれにくい、と言われます。一般的な言説によれば日本は、組織が硬直化して新しいアイデアを受け入れられず、だからイノベーションが生まれにくいのだそうです。
こういうバカな言説をする人たちが「創造的破壊でイノベーションを起こす(キリッ)」とか言います。
上記の記事はなかなか面白く、興味深い記事です。
- Amazonでは2週に1度、アナーキーフライデー(仕事に関係ない好きなプロジェクトができる)がある
- Googleには勤務時間の20%は、好きなことに費やして良い20%ルールがある
- Amazon、Googleともに主力になっているサービスは上記の時間に生まれたものも多い
- 他の部分は「日本人はどうの」という一般的なイノベーション議論
自由な時間がイノベーションを生み出す!?『3M 15%カルチャー』と『グーグル 20%ルール』はやや古い記事ですが、日本で一般的な言説です。
AmazonやGoogle、3Mなどに倣って「自由な時間」を作ればイノベーションが生まれるのでは? という記事です。
こういった誤解が日本では非常に多いです。なぜ誤解か? 勤務時間の数割を好きなものに当てさせる=その時間を企業はイノベーションに投資している、と考えられるからです。
つまり重要なのは「自由な時間」ではなく、その時間に給料を払って投資していることです。
Amazonのアナーキーフライデーも同様です。
日本でイノベーションが生まれない! 組織がどうのこうの! という議論になりがちですが、その前に投資してます? という話。
投資という種もなく、植物の芽が出ないのは水をあげていないからだとか、耕し方が足らなかったとか、世話をする当番の誰々が悪いとか。こんな議論は無意味で滑稽ですよね。
新しいアイデアも新製品も、全ては投資から生まれます。
また軍事開発から数多くのイノベーションが生まれたことからわかるとおり、投資のしやすい大組織の方がイノベーションは生まれやすくなります。これは統計的にも、証明されている事実です。
自由だからイノベーションが起きる。そんな間違った認識は、捨て去るべきでしょう。
まとめ
日本企業の組織は、確かに外国と比べると異なるようです。しかしその日本企業が1990年までは日本式経営で、世界から評価されていた事実を思い出してください。
また1990年まで、日本企業から多くのイノベーションが生まれました。
1990年までの日本企業は、まさに終身雇用と年功序列の塊です。そこからイノベーションが生まれ、世界を席巻しました。リチウムイオン電池、DVD、ウォークマンetc……。
この事実からは「日本の企業組織や国民性がイノベーションを阻害している」は間違った言説だと理解できます。
現代の日本でイノベーションが起きない理由は、簡単です。投資を減少させる、節約体質だからです。なぜそうなったのか? 長年続くデフレのせいです。
投資こそがイノベーションの源泉です。そのことを日本人は、しっかり認識するべきでしょう。
これ大事ですね。
イノベーションに必要なのは「自由」ではなく「必要と投資」です。
必要は発明の母、と言いますしね~。もちろん投資も超大事です。