資本主義の限界で戦争が起こる! とは、よく聞かれる話です。その多くの言説は「資本主義が限界に来て終焉、そしてガラガラポンが起きる。その手段は戦争しかないから、戦争が起きる」という、非常に単純なものです。
なんでやねん! ですよ。
資本主義以前だって戦争は起きていました。資本主義の限界と、戦争を結びつけるものは何か? どのようなメカニズムか? わかりやすく解説していきます。
資本主義の限界の「定義」
まず資本主義の限界とは、何でしょうか? 簡単に言えば低成長こそ、資本主義の限界が囁かれる理由です。
世界経済の低成長がなぜ起こっているのか? その原因を説明する言説は、2つに分かれます。
ひとつは「もはや投資するフロンティアが見当たらない、だから低成長なのだ」との言説です。もうひとつは「市場原理主義やグローバリズムが蔓延り、低成長に陥った」です。
前者を「フロンティア消滅論」、後者を「グローバリズム過剰論」とひとまず表記します。じつはこの2つの論は、どちらが正しいか? わりと明白です。
イノベーションが衰退した理由
フロンティア消滅論を突き詰めると「これ以上、人類は科学進歩しない。したとしても極めてゆっくりだ。なぜなら科学の進歩は、すでに限界だからだ」という話に行き着きます。
フロンティア消滅論が囁かれるのは、投資できるイノベーションが起きないからです。投資できるイノベーションが起きない原因を、フロンティア消滅論は科学が最高到達点に達しつつあることに求めます。
科学がどうなのか? は筆者にはわかりません。しかしイノベーションが起きる状況を潰しておいて、イノベーションが起きないと嘆くのは愚かだとわかります。
イノベーション、つまり技術革新は統計的に、大きな組織で起こりやすいと確認されています。一般的なイメージでは、小さなベンチャー企業がイノベーションを起こす! と信じられています。しかしちょっと考えれば誰でも、大きな組織の方がイノベーションは起きやすいとわかります。
研究予算が調達しやすいのは、大きな組織に決まってるからです。
では世界はこれまで何をしてきたか? グローバリズムで、小さな政府を指向してきました。市場原理主義で企業は、短期主義に陥りました。
結果としてイノベーションを起こすための研究開発は、低予算で短時間に成果を求められます。
これではイノベーションは起きません。
イノベーションを育てる土壌を踏み荒らしておいて「フロンティアが見当たらない! もう資本主義は限界だ!」と主張することが、いかにバカバカしいか理解できます。
グローバリズムと強欲資本主義が低成長をもたらした
グローバリズムや新自由主義、市場原理主義は企業や個人に効率化を求めます。また小さな政府を指向します。
上述したとおり、これらの動きはイノベーションと資本主義の成長を阻害します。
また市場原理主義は大資本有利になり、格差を拡大し続けます。格差が拡大し続けるとは、富の偏在が起きることです。
多くの富が消費性向の低い金持ちの元で停滞し、消費性向の高い9割の人たちに回ってきません。とすれば当然、需要も減少傾向となります。
グローバリズムや新自由主義が強欲資本主義と化し、需要とイノベーションを刈り取っていった結果として、世界経済の低成長や長期停滞が生じたのです。
現在言われている「資本種の限界」とは、グローバリズムや新自由主義、市場原理主義の限界です。つまり資本主義のバリエーションのひとつが、限界を迎えたに過ぎないと言えます。
資本主義の限界で戦争が起きると言われる理由
ようやく本論の、資本主義の限界で戦争が起きるメカニズムに言及します。
世界経済の停滞や低成長と、格差の拡大に焦点を当てましょう。格差は拡大し続けるのに、9割の人の所得は一向に増加しない。とすれば不満がたまるのは、当たり前ですよね。
国民はその不満を、政府にぶつけます。政府は国民の不満をそらしたり、解消したりするために富を国外に求めます。近隣から富を収奪する、近隣窮乏化政策が始まります。
例えばコロナ禍で、欧米が「中国は賠償金をよこせよ」と言い出しました。これは明らかに「あいつをみんなでいじめて、カツアゲしようぜ!」と一緒です。中国がおとなしくやられるかどうか? はまた別の話ですけれども。
閑話休題。
近隣窮乏化政策が始まれば、国際関係は悪化します。ときどき「自由貿易で互いの利害関係が強いから、戦争なんて起きない」という主張を見かけますが逆です。
利害関係が強いからこそ、衝突もします。
人間関係も一緒ですよね。利害関係があり、よく付き合う相手だからこそ喧嘩にもなります。「利害関係が強いから戦争しない」と言っている人は逆に「利害関係がなければ戦争をする」と言っているに等しい。
……つまり人間関係で言えば、全く関係のない人間に喧嘩をふっかけに行くやばい人です。
実際に日本は第一次世界大戦後まで、アメリカと友好国だったじゃないですか。
まとめますとこうです。
- グローバリズムや新自由主義で、世界経済が低成長と格差拡大に陥る
- 多くの国民が浴衣になれないことを不満に思い、その不満は政府に向かう
- 政府は国民の不満をそらす、ないし解消のために近隣窮乏化政策へ走る
- 世界各国が同じ動きをするので、国際関係は悪化する
- 最終的に利害がのっぴきならずぶつかり合い、戦争が引き起こされる
このメカニズムは中野剛志氏の著書でも、指摘されているところです。「世界を戦争に導くグローバリズム」を読めば、世界がどのような状況なのか? つぶさに理解できることでしょう。
資本主義の限界が叫ばれる中で、日本がグローバリズム路線をやめないのは平和主義が根底にあります。上述したとおりなら、グローバリズムをやめて国益を追求する先は戦争です。したがって日本は、戦争を回避するために国益を売り渡し続けているわけです。
日本がグローバリズム路線で、貧困になり続けるメカニズムは上記の1冊で丸わかり! まだ読んでない? 鬼才・佐藤建志氏の名著です。むちゃくちゃおすすめですよ。
内需立国こそが資本主義の限界と戦争を解決する
ではグローバリズムと新自由主義がもたらした戦争への道を、回避する手段はないのでしょうか? 資本主義が限界で、捨て去るしかないのでしょうか?
途中で述べたとおり、グローバリズムや新自由主義は資本主義の、バリエーションのひとつでしかありません。
「資本主義の限界が来て、戦争が起こる!」という主張は、ある意味で解決策を提示しています。なぜ戦争が起こるのか? 現状を解決して欲しいと国民が、大きな政府を求めるからです。
しかし大きな政府は必ずしも、戦争を起こさなければならないわけではありません。
あらかじめ大きな政府となり、内需立国や格差解消を各国が目指すことで、資本主義の限界も戦争も回避できるはずです。