日本では緊縮財政が続き、失われた20年と呼ばれる時代が過ぎました。失われた20年とは、デフレで経済成長をしなかったことを指します。
このことから経済成長ができないことや、デフレを脱却できないことは、緊縮財政と深く関係していることが明白です。
しかし日本は一向に緊縮財政をやめません。緊縮財政が行われる7つの理由を、解説します。
そもそも緊縮財政とは
まずは、緊縮財政の定義を解説します。
緊縮財政とは一般的に、政府支出の縮小や増税によって均衡財政を目指すことです。一方で緊縮財政には、政府支出が足りないことを指すこともあります。
政府支出が足りているかどうかは、経済がインフレかデフレかで判断できます。仮に財政赤字が増えていたとしても、経済がデフレ気味であれば「政府支出が足りない」と判断されます。
緊縮財政が行われる理由1 日本の財政問題
緊縮財政が行われる理由1は、いわゆる日本の財政問題です。
日本の財政問題の概要は簡単です。国債発行残高が1000兆円を超えており、このままでは借金を返すことができない。従って緊縮財政で節約して、国の借金を返すことが必要だというものです。
そもそも論ですが、日本に財政問題は存在しません。発行されいる国債は全て円建てです。では日本円は誰が発行権を持っているのか? 日本政府です。
ボーリングのスコアボードを見て、スコアがボーリング場に支払い義務があるとしても誰も気にしません。なぜならボーリング場が、スコアを発行できることがひとつ。そしてスコアは単なる数字だからです。
日本政府の通貨発行権と、国債残高もボーリング場とスコアの関係に似ています。
国債の償還は円で行われます。とすると日本円を発行できる日本政府に、財政問題があるはずがありません。
閑話休題。
一般的に国債は「返済されなければならない」と信じられています。だから緊縮財政で節約します。
存在しない財政問題を理由に、緊縮財政が行われているのです。
緊縮財政が行われる理由2 プライマリーバランスと骨太の方針
財政問題から派生して日本政府は、骨太の方針によってプライマリーバランスの黒字化を決定しています。
骨太の方針とは小泉純一郎内閣のときに、聖域なき構造改革の方針として作られました。現在の安倍内閣でも引き続き、骨太の方針が作られています。
2015年に作られた「骨太の方針」の「歳出改革の目安」で、プライマリーバランスが掲げられています。骨太の方針は閣議決定されるものですから、政府の方針と言えます。
つまり日本政府は、失われた20年を振り返り緊縮財政を反省するどころか、むしろさらなる緊縮財政を行おうとしたわけです。
政府の方針であることが、緊縮財政が続く理由のひとつです。
緊縮財政が行われる理由3 均衡財政主義と経済学
ありもしない財政問題をでっち上げ、緊縮財政を正しいことと印象づけたのは経済学です。
経済学の主流である、新古典派経済学はミルトン・フリードマンが祖です。主流派経済学ではもっぱらインフレ退治に焦点が置かれており、均衡財政主義を採っています。
均衡財政主義とは、平たく言えばプライマリーバランスのことです。経済学が日本に、緊縮財政を押しつけました。
緊縮財政に学問的権威を与えてしまった、主流派経済学の罪は非常に重いでしょう。
緊縮財政が行われる理由4 財政法4条
緊縮財政は閣議決定である骨太の方針やプライマリーバランス目標より、さらに強固な法律によって規定されています。その法律が、財政法4条です。
- 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
- 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
- 第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。
財政法4条を要約すると「国の歳出は税金から行いなさい。それ以外は例外措置ですから、基本的には認めませんよ」と言うことです。
財政法4条が成立したのは、戦後まもなくのことでした。
なお財政法4条は財政学的にできたのではなく、戦争の反省からできたものです。当時の大蔵省主計局法規課長は「戦争を起こした国は全て、たくさんの国債発行をした。だから国債発行をしなければ、戦争は起こせないはず」と国会で答えています。
日本で緊縮財政が行われる理由のひとつは、戦争への反省だったのです!
緊縮財政が行われる理由5 財務省の省是
緊縮財政が行われる理由として、財務省がやり玉にあげられます。財務省悪玉論は、以下のようなものです。
- 省庁の中でもっとも力を持っているのが財務省
- 財務省では増税をすると出世できる
- 従って緊縮財政や増税が省是である
財務省悪玉論を展開していくと「安倍総理は財務省と戦っている!」という主張にまで行き着きます。
筆者は財務省悪玉論は、理屈が通らないと思います。
第一に、政府の一部である財務省が、人事権のある総理大臣より強いとは到底思えないこと。
第二に、財政法4条に財務省は粛々と沿っているだけに見えること。財政法4条を変更するのは、むしろ国会議員の仕事です。
以上の理由から筆者は、財務省悪玉論には懐疑的です。しかし緊縮財政が行われる理由として、よくあげられる主張のひとつです。
緊縮財政が行われる理由6 国民が緊縮財政を望むから
2019年にれいわ新選組が誕生しました。日本で初めて、積極財政を掲げる政党です。ではれいわ新選組の支持率は、どれくらいだったでしょうか? 2019年の参院選で、2%程度の支持率でした。
確かに誕生したばかりで知名度が足りない、人員も活動も不足していたなど、支持率があがらなかった理由をあげることは可能です。
しかし今の今まで積極財政を掲げる政党がなかったのは、積極財政に需要がなかったからです。積極財政を掲げて選挙が勝てるのであれば、政治家は喜んで積極財政を掲げるでしょう。
緊縮財政が現在も行われている理由の大部分は、国民が緊縮財政を支持している、ないし望んでいるからに他なりません。
緊縮財政が行われる理由7 平和主義は貧困への道
財政法4条が成立した理由は、財政問題や経済イデオロギーの問題ではありませんでした。「戦争を二度としないために、国債発行をさせない」が理由です。
鬼才・佐藤建志氏が著した名著「平和主義は貧困への道」では、見事に「平和主義と緊縮財政」の関係性を喝破しています。
戦後日本は戦争という政治の一手段を放棄するために、経済分野の積極財政という手段を拒否しました。まさに「平和主義を掲げて、貧困への道を歩むがごとし」です。
平和主義を望む日本国民が、緊縮財政を支持する理由はここにあったのです。
付言しておきますと平和「主義」と平和を望むことは、また別の話です。平和主義はイデオロギーですが、平和とは状態のことです。
この点についても、上記の佐藤建志氏の著作は非常に興味深い考察をしています。
緊縮財政が行われる理由のまとめ
以上、7つの理由を解説してきました。ひとつ言えることは、緊縮財政が続くのはマスメディアのせいでもなければ政治家のせいでもなく、国民自身が緊縮財政を望んでいます。
ときどき「民主主義を取り戻せ!」とのスローガンを見かけます。民主主義を取り戻して、みんなで議論すれば良くなっていくはずだ! という議論です。
本当に?
そんな疑問を最後に、提示しておきましょう。