【6分でわかる】経路依存性とは?わかりやすく理論や具体例を解説

 経路依存性とは進化経済学から、派生した概念です。難しい解説は他のサイトやwikiに任せ、誰でも理解できるように、わかりやすく解説します。

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経路依存性とは

経路依存性の内容と理解のポイント

 経路依存性とは、大雑把に言えば「過去の偶然によって決まったベクトルが、合理的でないにもかかわらず継続する現象や性質」「過去のベクトルに、現在の決定が制約されること」です。

 言葉で表現するとわかりにくいので、後述する具体例を参照するまで「歴史的・時間軸的な経緯が、現在の決定を――合理的でないにもかかわらず――制約すること」と覚えてください。

超わかりやすい経路依存性の例

 例えば「長年続けてきた現在の仕事を辞めて、給料は高いが、内容が全く異なる仕事に転職する」ことは、多くの人にとってハードルが高いのではないでしょうか?

  1. 新しい仕事を、いちから覚えないといけない
  2. 新しい職場環境に、いちからなじまなければならない
  3. 新しい環境に対する、不確実性への不安

 これは「現在の職場に経路依存性(慣れなど)が発生しており、新しい仕事へ切り替えることは金銭以外のコストが高い」ことを示しています。
 換言すれば「現在の職場で働いてきたという歴史が、給料の高い仕事への転職という決定を制約している」わけです。

経路依存性は英語で何と言う?

 経路依存性は英語で、path道筋 dependence依存――パス・デフェンデンス――と言います。道筋、すなわち経路そのものに依存性があるとの意味です。

歴史的経路依存性という言葉は存在しない

 キーワードである「経路依存性」を検索すると、関連キーワードに「歴史的経路依存性」と出てきます。けれど筆者の知る限り、歴史的経路依存性という言葉は存在しません。

 そもそも経路が歴史と同様の意味ですから、二重表現でおかしな日本語になっているように思えます。

経路依存性の具体例とは

 経路依存性そのものを言葉で説明しても、理解しづらいです。具体例を挙げて、説明していきます。

QWERTY配列

 パソコンのキーボード配列は、QWERTYクワーティ配列です。1872年にクリストファー・レイサム・ショールズが、タイプライターのキー配列として考案しました。

 QWERTY配列より合理的なキー配列が、Dvorakドヴォラック配列です。1932年にオーガスト・ドヴォラックが考案しました。全指タイピングを前提として考案されおり、QWERTY配列より効率的です。

 けれどDvorak配列が考案されて約100年後の現在でも、Dvorak配列より非効率的なQWERTY配列が市場シェアをほぼ握っています。

 このように「たまたま最初に使われ、それが根付いてしまう現象」を、経路依存性理論は説明可能にします。

 考えてみてください。いまから現在のQWERTY配列ではなく、Dvorak配列を習熟することを。面倒くさいでしょ? これを「QWERTY配列に経路依存性が働いている」と表現します。

ベータマックスではなくVHS

 日本のベータマックスとVHSのビデオ規格競争も、経路依存性の好例です。結果としてVHSが市場シェアを獲得し、ベータマックスはマイナーな規格として終わりました。

 VHSが優れていたから、市場を席巻したわけではありません。「『たまたま』市場がちょっとVHS優位に傾き、経路依存性が働いて圧倒的な市場シェア獲得につながった」と解釈できます。

原子力の軽水炉とガス冷却炉

 原子炉の軽水炉は他の形式に劣るというのが、現在の専門家のコンセンサスだそうです。

 けれど当初、軍事的な適性は軽水炉にありました。軍事的な適性は、必ずしも民生品としての適正ではありません。にもかかわらず軽水炉が民間でも広まり、現在では8割のシェアを誇ります。

 ガス冷却炉など、他の合理的・効率的選択肢が存在しても、軽水炉が市場シェアを握り続けるのは経路依存性の作用です。

EUも経路依存性の具体例のひとつ

 EUにも経路依存性が働いています。EUとはユーロという共通通貨を使用して、各国の金融主権と財政主権を制限した政治形態です。

 インフレでは正常に動作しますが、デフレや世界的な不景気では打つ手がありません。金融主権も財政主権も、制限されているからです。

 けれど上記の事実が明らかになっても、EUに解体や離脱の動きは少ない。せいぜいイギリスが、ブレグジットした程度です。これも経路依存性が働いている、と解釈できます。

経路依存性とロックイン効果の共通点

 経路依存税とロックイン効果は、非常に似ている概念です。ロックイン効果を理解することで、経路依存性も理解できます。

ロックイン効果とスイッチングコスト

 ロックイン効果はもともと、経済学用語です。よく説明の例えとして出されるのは、スマートフォンです。

ロックイン効果

 長年使用してきたスマートフォンの後継機Aと、それより性能がよいが全く異なる使い方のスマートフォンB。買い換えるなら、どちらを選ぶでしょう。

  1. 使い方が異なると、またいちから操作方法を覚えなければならない
  2. 使用しているスマートフォンのレガシー(遺産)が、スマートフォンBでは使えないかもしれない

 経済学的には「性能がよいスマートフォンB」が、合理的な選択として想定されます。けれど多くの人は、後継機Aを選択します。

 なぜなら、操作方法をいちから覚えるというような手間、すなわちスイッチングコストが発生するからです。

 他により効率的、合理的な選択があるにもかかわらず「同じメーカーのスマートフォンを選び続けること」がロックイン効果です。

 なお慣れが大きくなっていく、他に転換しづらくなるメカニズムを「自己強化メカニズム」と言います。

  1. 新しいスマートフォンになれ始め、使い勝手がよくなってくる
    →自己強化メカニズムによって経路依存性が強化されていく
  2. 現在のスマートフォンと同じ使い勝手を求めて、同じメーカーから新しいスマートフォンを購入する
    →ロックイン効果
  3. 他にハイスペックなスマートフォンがあるが、手間を考えると乗り換えに気が進まない
    →スイッチングコスト

技術的ロックインと制度的ロックイン

 ロックイン効果には技術的ロックインと、制度的ロックインがあります。先ほどの説明のように、スマートフォンや原子炉、VHS、QWERTY配列などは技術的ロックインです。

 EUや規制(緩和も強化も)、貿易協定などは制度的ロックインです。

経路依存性まとめ

 経路依存性を大まかに、理解できましたか? 経路依存性はもともと、進化経済学から発展した概念です。

 余談ですが、経済学でも新古典派経済学と呼ばれる主流派経済学は、経路依存性を理論に取り入れていません。取り入れたら、理論体系がむちゃくちゃになってしまうからです。

 主流派経済学は「合理的な経済主体(合理的経済人)」を前提条件としています。一方で経路依存性は「合理的でないことが市場で起こる」と示唆しています。
 ですから主流派経済学は、経路依存性を認めません。

 閑話休題。

 経路依存性の概念は、現実の観察から出てきました。経路依存性の存在は、多くの社会科学にとっては自明です。

 経路依存性の概念を知ることで、EUの制度的ロックインを解釈してみたり、主流派経済学と経路依存性について観察してみたりすることが可能です。経路依存性とは、様々な応用が利く概念です。

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Muse
5 月 前

>ロックイン効果には技術的ロックインと、制度的ロックインがあります。先ほどの説明のように、スマートフォンや原子炉、VHS、QWERTY配列などは技術的ロックインです。

他に身近な例としては、PCのデスクトップOS分野でのWindowsの支配的地位が挙げられます。macOSやLinuxは依然として(そして今後も)マイナーであり続けるでしょう。

ところで
>経路依存性とは、大雑把に言えば「過去の偶然によって決まったベクトルが、合理的ないにもかかわらず継続する現象や性質」「過去のベクトルに、現在の決定が制約されること」です。

自分が以前携わっていた仕事でいうと、コンピュータプログラミングのパラダイムがありますね。例えば、COBOLやBASICやCなどの手続き型のプログラミング言語からC++、Java、C#などのオブジェクト指向型の言語へのパラダイムシフトが起きてから久しいですが、(生産性の高いのに)オブジェクト指向の開発手法になじめないプログラマーが淘汰されたのは典型例です。

ところで、ヤンさんはPHPやJavaScriptなどのWebプログラミングにだいぶ精通されているようですが、今から新しいフレームワーク(PHPだったらLaravel、JavaScriptだったらVue.jsやReactなど)を抵抗なく習得できるでしょうか?今までのスキルの延長線上にあるから、この場合の経路依存性はさほど強くないとは思いますが。あるいはもう習得済みとか。