2020/05/11現在、まだ新型コロナによる緊急事態宣言は解除されていません。地方自治体は財政が許す範囲で、独自に休業補償や休業協力金などを支払い歳出が増加しています
このまま緊急事態宣言が長引けば、地方自治体の財政悪化は避けられません。地方自治体の財政破綻は、どのような構造で起きるのか? そして防止する方法はあるのか? この2点を解説します。
財政破綻の恐れが強い自治体ランキングから構造を探る
財政破綻の恐れが強いとされる自治体、ないしそれを報道する記事を見ると、地方自治体の財政破綻がなぜ起きるのか? もしくは何が問題か? が見えてきます。
なぜ地方自治体が財政破綻の危機に直面するのか
どちらの記事も「国の財政悪化=地方自治体の財政悪化」との理屈で、地方自治体の財政問題を捉えています。この見方は、完全な誤りです。
なぜなら日本という国家に、財政問題はそもそも存在していないからです。
ダイヤモンドオンラインの記事には、以下が記されています。
再建計画を作るに至ったきっかけは、自治体にとって預貯金に当たる基金の減るペースが速いので、財政担当の職員が交付税による支援割合を計算し直したことだという。お粗末な話だが、国の財政悪化のしわ寄せが地方財政にも及んでいることは事実である。
国からの地方交付金が引き下げられ、地方自治体の財政が逼迫したそうです。
夕張市に見る財政破綻までの道
近年、財政破綻した地方自治体として知名度のある夕張市は、どのように財政破綻したのでしょうか?
- 元々は炭鉱の町だった
- 炭鉱が閉山され、立ちゆかなくなるので観光に切り替えた
- 夕張市が主体となってスキー場やホテルを建設し、歳出が増加
- 見込んでいた収益がなく、財政が悪化して破綻へ
主産業である炭鉱がなくなり、方向転換に失敗したことが財政破綻の大きなポイントです。また裏を返せば、主産業がなくなったにもかかわらず、国による支援がなかったとも言えます。
根底にある東京・大都市への人口流出と一極集中
地方自治体の財政が厳しいのは、いくつかの原因があります。
- 通貨発行権を持っていないので、国家に当てはめれば負債は全て外債状態
- 国が緊縮財政を行うので、地方交付金が減額され歳入が厳しい
- 東京や大都市への人口集中が起こり、過疎化することで財政悪化が避けられない
夕張市の例に見るように、何か行動を起こして失敗したら財政再建団体に転落です。かといって何もしなければ、緊縮財政で地方交付金は減額、豊かな大都市に人口は流出していきます。
八方塞がりです。
地方自治体が財政破綻したらどうなるか?
実際に地方自治体が財政破綻したら、どのような運びになるのか? 解説しておきます。
財政再建団体の定義
都道府県と市町村では、財政再建団体の定義が異なります。
- 実質赤字比率
都道府県 – 5% (ただし都については特別区に関連した補正が加えられる)
市町村・特別区 – 20% - 連結実質赤字比率 – 実質赤字比率の基準に10パーセントポイントを加えたもの
- 実質公債費比率 – 35%
地方自治体に債務不履行は想定されない
財政再建団体の定義に陥った場合、地方自治体には2つの道があります。自主再建を目指すか、財政再建団体(現財政再生団体)として国の支援してもらうかです。
地方自治体は地方債の債務免除や、民間の倒産整理に含まれる債務不履行はできません。国が後ろ盾になっているので、返済は可能だろうと見込まれているからです。
地方自治を国へ返上する罰則つき
国からの支援を受けて、財政再建団体になると地方債の発行なども可能になります。但し自治権はほぼないに等しく、かなり厳しく予算管理されると言われています。
歳出を削るほか再建の道がない
地方自治体の苦境は「人口流出」「国の緊縮財政による地方交付金の減額」が原因です。また地方債は国家で言うところの、外債に似ています。通貨発行権を地方自治体が持たないからです。
よって地方自治体が財政再建団体に転落した場合、歳出を削ることでしか財政再生は達成できません。
地方自治体の財政破綻の構造まとめ
いったん、地方自治体の財政破綻の構造をまとめましょう。
- 地方自治体に通貨発行権はない
- 国の緊縮財政で歳入減少
- 人口の流出
- 債務不履行は想定されておらず、必ず返済しなければならない
- 権限も限られており、予算の多い振興策が失敗すると修正不可能
- よって基本的に、普段から節約して健全な財政状態を保つことしかできない
- ないし「予算のかからない振興策」を求められる
地方自治体の財政破綻を防ぐ2つの方法
地方自治体の財政破綻を防ぐ方法はないのでしょうか? 全く以て普通にあります。
地方自治体が主体的に実行可能なことは歳出削減のみ
まず地方自治体が自主的に可能な方策は、節約と歳出削減のみです。多くの予算を使った事業が赤字になると、カバー不可能になりますから、地方自治体にとってリスクが大きいです。
では予算を使わない振興策などがあるか? と言われると「ITを活用してどーのーこ」という、中身のないものになりがちです。予算がかけられなければ、効果も限定的なことが多いでしょう。
現在の状況で地方自治体が「死中に活を見いだす」ことは不可能です。99%は死に体になります。よって地方自治体は、慎ましやかに節約を重ねるしかありません。
地方財政健全化法で地方自治体の債務免除を盛り込むのは?
では地方自治体が財政再建団体に追い込まれたら、債務免除するというのはどうでしょうか? 「貸し手の責任を問う」「最後は国が面倒を見ると市場競争が働かない」という理由で、債務免除や資産整理を行って、民間の倒産と同じく手続きするという議論があります。
筆者はこれは、大反対です。なぜなら行政は、民間企業と異なり赤字だろうがなんだろうが、そこに人が住んでいれば「撤退できない性質のもの」だからです。撤退できない以上、民間企業と同じような基準を用いて、整理するのは無理があります。
地方交付金で国が地方の面倒を見る
そもそも論ですが、日本に財政問題は存在しません。よって「国の財政が厳しいので、地方交付金も減額してみんなで耐えよう!」などという議論は無意味です。
地方交付金を厚くして、地方財政を逼迫から救うことが急務ではないでしょうか。それには日本が、緊縮財政主義、プライマリーバランス主義から抜け出すことが必要です。
地方自治体が財政破綻して国家が財政破綻しない理由
地方自治体は財政破綻しますが、国家は自国通貨建てである限り財政破綻しません。地方自治体と国家は、一体何が異なるのでしょうか。端的にいえば、通貨発行権を持っているかどうかです。
財政破綻の理由は通貨発行権の有無
財政破綻するかどうか? は、通貨発行権を持っているかどうか? で決まります。例えばEUは、共通通貨であるユーロを使用しています。ユーロの発行権は誰にあるのでしょうか?
少なくともユーロの発行権は、EUに所属している各国にありません。従ってEU各国の国債発行は、外債を発行することに似ています。外債とEUの国債の共通点は何か。
- 自国通貨ではないので、通貨発行や金融政策で返済ができない
- 必ず返済しなければならず、従って国債発行額が制約される
じつは上記の性質、地方自治体の地方債と一緒です。
アジア共通通貨などの構想が危うい理由
アジア共通通貨などの構想が、囁かれた時期がありました。しかし「複数の国家で共通通貨」といった構想は、非常に危ういものです。
なぜなら……国家の主権である通貨発行権を、手放すことに他ならないからです。
地方自治体の財政破綻はなぜ起こる
地方自治体の財政破綻は、なぜ起こるのか?
- 人口流出や不景気による歳入不足
- 一発逆転を狙った歳出過大による負債拡大
- 地方交付金の減額などの、国の緊縮財政
結論を言えば「国が地方自治体の面倒を、厚く見れば財政破綻は起きないのでは?」です。また財政破綻した地方自治体に、政府は原因を精査して地方債を肩代わりするなどをしてもよいのではないでしょうか?
新型コロナによって現在、地方自治体の財政が厳しくなっています。こんなときだからこそ「地方自治体と財政問題」を、真正面から考えてみることが必要です。