食料安全保障とはなにか?日本の食料安全保障をわかりやすく解説

 安全保障問題は一般的に、軍事のイメージがあります。しかし安全保障とは軍事だけでなく、エネルギー安全保障や食料安全保障など、様々な分野で必要不可欠な議論です。

 本稿ではもっとも身近で、実感のしやすい安全保障の分野である食料安全保障について、できるだけわかりやすく解説します。

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そもそも安全保障とは?

安全保障とは脅威を少なくするための政策

 食料安全保障を議論する前に、安全保障とはそもそも何かを解説します。安全保障とは、自分たちの国や共同体の独立や安全の脅威となるものを排除したり、何らかの対策を講じたりする政策です。よく安全保障政策として語られる軍事は、自国の主権や独立、国民の安全を保障するための安全保障政策です。

 安全保障政策は軍事だけが語られがちですが、他にもエネルギー安全保障、食料安全保障、地震や台風など災害からの安全保障etc……。安全保障政策は様々な分野で、議論されるべきものです。

安全保障と効率化は両立できない

 あまり認識されていないのですが、安全保障と効率化は両立できません。例えば軍隊は、平時にはコストがかかるだけの組織です。何も生産していませんし、売上も上がりません。
 金銭的な価値において効率化しようとすると、軍隊は無用の長物以外の何者でもなくなってしまいます。

 では軍隊や自衛隊は必要ないのでしょうか? そんなことはありません。災害や戦争などの非常事態において国家の主権や、国民の生命を守る最後の手段となるのが軍隊や自衛隊です。

 安全保障政策と効率化は両立できない、というのは非常に重要なポイントです。

ビジネスの理屈では考えられない安全保障

 安全保障は、ビジネスの理屈で考えてはいけません。冗長性や二重化、バッファなどが安全保障の要諦です。冗長性を確保しようとすると、その分コストがかかります。ビジネスの理屈では、安全保障はおろそかにるのです。

 ビジネスのように効率的、合理的を追い求めると、非常時に対して脆弱になります。安全保障とは平時において、無駄なコストがかかるものなのです。

食料安全保障はなぜ大切なのか

 安全保障政策は全ての分野で大切ですが、食料安全保障は特に重要です。なぜ食料安全保障が大切なのか? 様々なわかりやすい事例を提示しながら解説します。

腹が減っては戦はできぬ

 古今東西、腹が減っては戦はできぬというのは紛れもない真実です。お腹を空かした軍隊が、勝利した例はありません。

 いくら自衛隊が高価な装備を持ち、高い戦闘力を持っていたとしても、食料がなければ戦うことはできません。食料とは自国の独立性や、国民の生命の基礎となるものなのです。

食の安全に国民の健康がかかっている

 昔、アメリカから輸入されたレモンで、ポストハーベストが問題になりました。アメリカ国内では許可されていない農薬が、他国に輸出するレモンには使用されていたのです。

 食の安全性は国民の健康に直結します。この観点からも食料安全保障が、非常に身近で大切なものだとご理解いただけるでしょう。

アメリカは小麦を戦略物資とみなしている

 アメリカは穀物を戦略物資とみなしています。腹が減っては戦はできぬと言われるように、食料なしでは自国の防衛もおぼつかないでしょう。穀物は人類にとって主食であり、それ故にアメリカは穀物を戦略物資とみなしています。

 主食を他国に握られてしまえば、戦わずして降伏するしか道はないのです。

食料生産を他国に依存して外交はできない

 食料生産を他国に依存するということは、自分たちの胃袋を掴まれているということです。食料の供給が絶たれれば、自国の安全保障は脅かされます。
 したがって他国に食料を依存した状態で、まともな外交ができるはずがありません。

 実際にヨーロッパの国々は、グローバル化の現代においても食料自給率が高いです。大陸文化であるヨーロッパは、戦争と食料の関係性を肌身にしみて理解しています。

食料安全保障を確保する施策

 日本の食料安全保障の現状は、どのようなものでしょうか。現状を解説しながら、食料安全保障を確保するための施策についてお話しします。

食料自給率を高める

 日本の食料自給率はカロリーベースで約40%弱です。カロリーベースの食料自給率はではなく、生産額ベースで考えるべきと言う議論もあります。しかし食料安全保障で、もっとも問題になるのはカロリーです。極論を言えば、生産額として100万円であってもカロリーがゼロであれば、食料安全保障は成り立ちません。
 カロリーベースの食料自給率で、議論するのが正解です。

食料の安定的な輸入先の確保

 食料安全保障は何も、自給率を高めることだけではありません。食料の安定的な輸入も、食料安全保障に寄与します。食料の安定的な輸入先を確保することは、日本の食料安全保障にとって非常に重要なポイントです。

輸入先を分散することでリスクを分散する

 上述した通り一国に食料を依存してしまえば、相手国の意向に逆らえなくなります。リスク分散の観点からも、食料の輸入先は分散しておくべきです。これは食料安全保障だけではなく、エネルギー安全保障にも当てはまります。

食料の備蓄

 食料の備蓄も食料安全保障にとって、非常に重要です。昨今は、地球規模の気候変動が問題になっています。例えば最悪の事態として、世界の穀物地帯の不作なども考えられます。そのような万が一に備えて、食料自給率や食料の備蓄というのは非常に大切です。

食料自給率を減らしてきた我が国の政策矛盾

 日本は食料安全保障について、軽視してきました。食料安全保障という言葉が一般的になったのも、2000年代後半に入ってからではないでしょうか。

 食料安全保障が軽視されてきた背景には、食卓の西洋化があります。醤油や味噌もここ30年間で、消費や生産量が減少しています。米ももちろん、減少の一途です。

データ

 国民の食卓の西洋化だけではなく、日本政府は工業化に邁進するあまり、農林水産業を軽視してきました。西洋化と農林水産業の軽視が、日本の食料安全保障を低下させています。

長年続く減反政策

 日本では長年、減反政策がとられています。米の消費量に合わせて生産調整を行い、農家に耕作面積の減少を要求する政策です。1970年以前に350万ヘクタールあった水田は、40年かけて100万ヘクタールほど減少しました。

 1970年から2017年まで続いた減反政策は、2018年になりようやく廃止される運びになりました。

本当は保護されていない日本の農業

 一般的なイメージでは、日本の農業は保護されていると思われています。しかし実際のところ欧米などに比べると、日本の農業の保護は非常に手薄なのが実態です。

 また日本の国土条件は、大規模農業に向いていません。グローバル化が進んでいる昨今、大規模農業が可能なオーストラリアやアメリカなどと自由市場で競争となると、日本の農業は押し負けてしまいます。

 食料安全保障の観点から、日本の農業の保護は非常に薄いとしか言えません。

スーパーの風景に見る日本の食料安全保障

 筆者は自分で料理も作りますし、買い物にも行きます。スーパーで食材を見ているだけで、2時間ほど潰せてしまいます(笑)

 長年スーパーを観察してきた経験から、スーパーで売っている食材の変化について触れたいと思います。

冷凍野菜の9割は中国産

 最近のスーパーは、冷凍野菜が非常に増えました。料理するのにも保存するのにも便利ですが、原産国が中国というところが気になります。スーパーにある冷凍野菜の9割は、中国産です。

 昔のスーパーに比べて冷凍野菜が増えたこと、そして中国からの輸入が増えたことは大きな変化です。

豚肉や鶏肉で増えてきた外国産

 野菜だけではなく食肉も、外国産が増えています。鶏肉はメキシコ産やブラジル産が入ってきていますし、豚肉も安い外国産が目立つようになりました。国産牛肉はブランドものだけになり、安い牛肉は全てアメリカ産やオーストラリア産です。

 子供の頃に読んだ美味しんぼでは、海原雄山が「牛肉の輸入を自由化しても、アメリカ産牛肉がスーパーで売れ残っている未来が見える」というセリフがありました。しかし実際はアメリカ産牛肉の価格に対抗できず、国産牛肉は全て高級な和牛としてしか生き残っていません。

 鶏肉や豚肉が将来、牛肉のようにならないと誰が言えるでしょうか。

【まとめ】食料安全保障と国益

 食料安全保障の問題は「腹が減っては戦ができぬ」という点に、集約されます。古来から戦では兵糧攻めがもっとも有効な、城攻めの手法のひとつでした。現在の国際社会においても食料を他国に依存するということは、いつでも兵糧攻めして下さいと言っているようなものです。

 食料安全保障を確立することは自国の独立、主権の確保、国民の生命と財産を守るために必要不可欠なことです。

 食料安全保障の議論になると必ず「石油も石炭も他国から輸入している。穀物も9割が輸入だ。いまさら食料安全保障もクソもない」という主張が聞かれます。
 しかしこの議論は大きな間違いです。

 国家の主権、国民の生命や財産がかかっている安全保障問題で、無駄だから諦めるという選択肢はそもそも存在しないのです。

 食料安全保障の問題は、私たち日本人の食卓の問題にも直結します。思考停止することなく、真面目に考えていかなければいけない問題のひとつです。

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2 Comments
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黄昏のタロ
6 月 前

お邪魔いたしますです。

>また日本の国土条件は、大規模農業に向いていません。グローバル化が進んでいる昨今、大規模農業が可能なオーストラリアやアメリカなどと自由市場で競争となると、日本の農業は押し負けてしまいます。

 ビジネスの視点なら、広ければ良いってものじゃなくなるそうです。

 機械化を押し進めたとして、機械の能力を超えた面積になると、機械とそれを操作する人を増やす必要が出てしまって効率や利益が悪化するそうです。当たり前って言えば当たり前ですが、なる程って思ったです。

 面積に合わせたやり方って視点なら、日本でも工夫ればなんとかなりそうに感じました。