本稿を書いているのは2020年3月3日。アベノミクスが終わろうとしている時期です。この機会にアベノミクスとはなんだったのか? を簡単に振り返って、総括しておきたいと思います。
アベノミクスの大まかな政策やその善し悪し、構造などを解説します。最後にアベノミクスの評価について、失敗という結論が導き出されました。なぜ失敗したのか? についてもできるだ簡単に解説します。
アベノミクスとは
アベノミクスとは非常に簡単に言えば、2012年末から成立した安倍政権が、日本のデフレ脱却と経済再生を目指した経済政策の総称です。
アベノミクスが失敗したか、成功したか? は「デフレが脱却できたかどうか」で評価できます。結論から言えばデフレ脱却は果たせず、アベノミクスは失敗でした。
アベノミクスの第一段階 経済再建
アベノミクスの第一段階は、経済再建といわれています。2013年から2015年までを、第一段階と解釈する向きが多いようです。
第一の矢 大胆な金融政策
日本銀行による大幅な金融緩和は、アベノミクスの目玉政策でした。どうして金融緩和で、経済再建やデフレ脱却ができると理論づけられたのか?
金融緩和とは日銀が、国債を引き受けて代わりにお金を発行します。発行したお金は当座預金に積み上がり、お金の総量が増えます。よってお金の量が増える=お金の価値が下がる=インフレになる=デフレ脱却という理論立てでした。
上記がいわゆる、リフレ派やリフレ理論と呼ばれるものです。
異次元の金融緩和の効果は、多少円安になったことくらいでした。
日銀がいくら国債を引き受けて円を発行しても、当座預金に積み上がるだけで、実体経済に回らなかったのです。実体経済に回すには、政府の支出増加が必要でした。つまり「実際にお金を使うこと」が必要だったのです。
第二の矢 機動的な財政政策
アベノミクスのもう一つの目玉政策は、機動的な財政政策といわれています。注意が必要なのですが、決して「機能的な財政政策」ではありません。
機能的財政論とは、アバ・ラーナーが唱えた財政施策理論です。簡単に言えば「不景気のときには政府がたくさん支出する。好景気のときには支出を絞る」というもの。
「機能的な財政政策」ではなく「機動的な財政政策」は、上記のようなものではありません。
機動的な財政政策は「緊縮財政をしつつ必要そうな部分に小回りをきかして、臨機応変に支出する」といった性質のものです。
第三の矢 民間投資を喚起する成長戦略
基本的には規制緩和と構造改革であり、アベノミクスが最終的にやり続けたことの一つです。つまり機動的な財政政策で成果が出ず、異次元の金融緩和は無意味でした。
したがって成長戦略をし続けるしか、アベノミクスの継続は不可能でした。
成長戦略として代表的な例は、インバウンドやカジノ法案、水道事業民営化、国家戦略特区などです。簡単に言えば「予算をつけなくても大丈夫な政策」「安上がりになる、もうけが出る政策」が成長戦略です。
アベノミクスの第二段階 一億総活躍社会
アベノミクスの第二段階では、一億総活躍社会が掲げられました。非常に簡単に要約すれば「高齢者も働け、歳をとっても働け」が一億総活躍社会です。
この一億総活躍社会は、賛否がかなり分かれました。一億層火の玉を想起させるという評価、高齢者の社会保障を削るのかという疑義なども提出されました。
しかし最も的確な批判は「目的だけが掲げられて、そこに至る手段が不明」というものでしょう。
希望を生み出す強い経済 2020年にGDP600兆円
2020年頃にGDP600兆円が、アベノミクスが掲げた目標でした。これは2015年に順調にデフレ脱却していれば、確かに可能な数字だったかもしれません。
しかし2014年、2019年の二度にわたる消費税増税で日本経済はダメージを受け、2019年のGDPは557兆円に過ぎません。
2015年~2019年の5年間で、GDPは26兆円しか増加してません。1年間でわずか5兆円強です。GDPが600兆円に達するには、2020年の現在で考えても8年ほど必要な計算になります。つまり2027年までかかるだろうというわけ。
夢をつむぐ子育て支援 希望出生率1.8
希望出生率も、改善にはほど遠いのが現状です。2019年6月の日経の記事では、希望出生率は1.42と3年連増で低下していると報じられています。
参照 目標遠ざかる出生率1.42 3年連続低下:日本経済新聞
皮肉なことに2015年、アベノミクスで希望出生率の増加を掲げた瞬間から、低下が始まっている始末です。
安心につながる社会保障 介護離職ゼロ
介護離職とは「家族の介護をするために、仕事を辞めること」です。介護離職を防ぐには、介護施設やサービスの充実、介護の社会保障費の充実が不可欠です。しかも相当な量で。
簡単に言えば、介護離職ゼロという目標は不可能です。
一億総活躍社会を掲げた2015年から5年後の2020年
GDPは600兆円に全く届かず、希望出生率は低下するばかり。予算をつけない口だけの介護離職ゼロというスローガンは、むなしく響き渡るだけ。
一億総活躍社会として掲げた目標が達成されていない――というより、目標達成への手段が示されなかったので、達成できなかったことは当然です。
では当然ながら、それらの目標に支えられていた一億総活躍社会というものも「達成されていない」ないし「むしろ真逆の方向に進んでいる」と考えるのが自然です。
つまり「一億総活躍できない社会」になっているのではないか? と考えるべきでしょう。
アベノミクスの評価の仕方
アベノミクスはどのように評価するべきか? 当初の目的であったデフレ脱却ができたかどうか? が一つの評価基準です。テストでいえばデフレ脱却できていないことは、赤点と一緒です。
2020年現在、日本はついぞデフレ脱却を果たせませんでした。アベノミクスは失敗したのです。
アベノミクスが道半ばというバカバカしい擁護といいわけ
2015年当初、アベノミクスは道半ばと多くの有識者や言論人、自称保守たちが擁護しました。しかし2015年時点で、アベノミクスの失敗はすでに決定的だったのです。なぜなら……金融緩和の効果はなく、機動的な財政政策は緊縮財政、成長戦略は外資に日本を売り渡すものだったからです。
成果が出ていないだけでなく、成果が出る見込みもないのがアベノミクスでした。
本稿を書いているのは2020年。アベノミクスは2021年で終わります。結局成果は何一つないままでした。
アベノミクスを信じ続けた日本人の愚かさ
安倍政権の支持率は、2019年まではおおよそ安定していました。5割前後で支持率が推移していたのです。2020年の桜を見る会の問題、コロナウイルスの問題が発生してからやや支持率を下げていますが、安倍政権の大半の期間を日本国民は支持していました。
日本国民が政策で求めることの1位は、経済政策です。安倍政権の支持率が高かったのはひとえに、日本国民がアベノミクスを信じていたからに他なりません。
消費税を二度にわたってあげられても、信じ続けたのです。
なんという愚かさでしょう。「痛んでいるのは自分の財布の中身だけ、世間はきっと景気がよくなっているんだ」とでも思っていたのでしょうか。
アベノミクスは嘘でした。それを見破れず、支持し続けた日本国民もまた愚かでした。アベノミクスの失敗は、緊縮財政を続けたことです。
しかし予言しておきます。日本国民は安倍政権の次の政権でも、緊縮財政を支持するでしょう。
アベノミクスの失敗とは、日本国民が選択した結果でもあるのです。
アベノミクスの欺瞞については、「アベノミクスの終焉」の評判が良いです。
経済の基礎知識がないと理解するのが難しい書ではあるが、少しずつ読んでいくとアベノミクスの嘘、欺瞞の部分が見えてきます。いつまでも高度成長経済の夢を追い続けるのは経済界も為政者も国民もやめた方がよい。アベノミクスの夢物語を信じない、嘘を見抜く見識を国民は身につけたい。