世間では「イノベーションを生み出す!」「こうすればイノベーションが起きる!」というような議論が盛んです。イノベーション人材やらオープンイノベーション、イノベーションを生み出すための組織論etc……。
筆者から言わせると「イノベーション生み出す気ある?」が率直な感想です。なぜなら、イノベーションの本質を捉えない議論ばかりだからです。
イノベーション本質を捉え切れれば、自ずとイノベーションはどうしたら生み出せるのか? イノベーションとはそもそも何か? が理解できるでしょう。
そもそもイノベーションとはなんだろうか?
イノベーションとは日本語で、技術革新のことです。一般的には新製品や新技術が、イノベーションに該当するとされています。
しかし例えばサービス分野やマーケティング、金融商品などのイノベーションも存在します。
Uber EATSや民泊も、イノベーションといえなくもありません。
企業にとってのイノベーション
企業にとってのイノベーションとは「新しい技術や方法、マーケティングで売り上げを生み出せる」ことです。
逆説的に「いかに科学的に困難で、技術的に高度でも売り上げにならないならイノベーションではない」が企業のスタンスでしょう。
世間的に議論されているイノベーションとは「企業にとってのイノベーション」です。したがって「どうやってイノベーションを生み出すか?」という議論はほぼ「どうやって売り上げを上げるか?」の議論と共通です。
「イノベーション人材!」なんて議論は、まさにその典型例です。
「0→1にする人材」という議論は「事業をゼロから組み立てて、利益を上げられる人材」という話。
技術者や科学者にとってのイノベーション
技術者や科学者にとってのイノベーションとは、質の飛躍的向上や革新的な転換などでしょう。基礎研究の進展は売り上げにはなりませんが、イノベーションに絶対必要な土台です。
本当の新しい技術、革新的な技術は多くの研究と投資の上に成り立ちます。すぐに売り上げにならない場合も多いのです。
必要は発明の母-イノベーションを生み出す軍事研究
世の中のイノベーティブな技術の、少なくないモノが軍事研究から生み出されています。電子レンジやインターネット、パソコン、GPS等々……。例を挙げればきりがありません。
軍事研究は市場製品のように、利益にならない場合も多くあります。しかし技術革新やイノベーションを、多くもたらしてきたのは紛れもない事実です。
イノベーションって結局なんなんだ!?
- 企業などの一般的な議論である「売り上げアップのためのアイディアやマーケティング」
- 研究開発の末の技術革新や新製品
基本的に1.はイノベーション、すなわち技術革新ではありません。事業のアイディアやマーケティングは、イノベーションではないのです。
これをイノベーションとして議論するので、混乱するのでしょう。
基本的にイノベーションとは、技術革新のことです。
イノベーションが市場に与える影響
イノベーションは創造的破壊を市場に引き起こします。創造的破壊はしばしば、議論の中で誤用されます。
”創造”的破壊ですから「イノベーションという創造があって、市場において破壊が起きる」という順番です。決して「何かを破壊したから、そこから新しいモノが生み出される」という意味ではありません。
お疑いならあなたの家を破壊してみてください。きっと何も、生み出されませんよ?
創造的破壊とは「スマートフォンが開発されて、安いカメラが売れなくなった」というような現象のことです。新しい製品が、旧来の製品市場を破壊する様を言います。
イノベーションを生み出すのに必要な3要素
いよいよ本論の、イノベーションを生み出すための仕組みを解説していきます。
イノベーションを生み出すためには、3つの要素が必要不可欠です。
- 教育
- 投資
- 時間
イノベーションを生み出す要素1 教育
技術革新を生み出すためには、極めて高度な教育を受けた専門人材が必要なのは自明でしょう。高水準の教育を多くの国民に受けさせることが、イノベーションを生み出す仕組み作りの第一歩です。
ちなみに日本の大学は世界ランクで、その順位を大きく落としているようです。日本政府が教育予算を、ケチっているのが大きな原因です。
イノベーションを生み出す要素2 投資
投資もイノベーションを生み出すのに、必要不可欠な要素です。基礎研究や研究開発への投資は、成功するかどうか? 不確実性があります。成果が出るかどうか、わからないのです。
しかし投資しないことには、絶対に成果は生み出されません。
2000年以降、日本企業からイノベーティブな製品は生み出されていません。これはデフレでコストカットを強いられ、研究開発費への投資が減少していることが原因です。
イノベーションを生み出す要素3 時間
イノベーションを生み出す技術開発や研究開発は、多くの時間が必要です。LED電球なども、多くの基礎研究の上に成り立っているのです。
しかし昨今は株主至上主義と、短期主義で研究開発のスパンが短くなっています。売り上げにならなければ、すぐに打ち切られるのです。これでは大きなイノベーションは、起きようがありません。
世の中で語られるイノベーション論3つの間違い
間違い1 ベンチャー企業がイノベーションを生み出す
世間ではベンチャー企業がイノベーションを生み出しやすい、と勘違いされています。しかしこれは印象論であって、実際は異なります。中野剛志氏の著作「真説・企業論」によれば、ベンチャー企業より大企業から生み出されるイノベーションが、圧倒的に多いそうです。
考えてみれば当たり前で、大企業には豊富な資金と研究開発環境があります。ベンチャー企業にあるのは一般論では、自由な環境のみです。自由であればイノベーションが起こるというのは、間違いなのです。
間違い2 アメリカはベンチャー企業大国
日本人のイメージでは、アメリカはベンチャー企業大国です。しかしこれも真説・企業論によれば、間違いです。アメリカの自営業も圧倒的に、既存の業種が多いそうです。
またアメリカの開業率は下落し続けており、この30年間で半減しています。またベンチャー企業の平均寿命は、わずか5年ほどだそうです。
間違い3 市場競争がイノベーションを生み出す
日本では市場競争さえすれば、イノベーションが生み出されると勘違いされています。もし「市場競争=イノベーション」が真ならば、市場競争のない軍事研究でイノベーションは生まれないはずです。
イノベーションとはあくまで「教育・投資・時間」が生み出します。むしろ行き過ぎた市場競争は株主至上主義、短期主義に陥り、イノベーションを阻害すらします。
イノベーションを生み出す仕組みは国家全体の課題
ベンチャー企業より、大企業が生み出すイノベーションが多いという事実は、考えてみれば自明の話です。では大企業より多くイノベーションを生み出せるのはどこか? 大企業より大きな組織です。すなわち政府や国家です。
だからこそ軍事研究で、生み出されたイノベーションの数は非常に多いのです。
真にイノベーションを生み出す仕組みを作るなら、官民一体が必要になります。政府は教育と基礎研究に、大きく予算を増やして投資するべきでしょう。
また株主至上主義や短期主義を抜け出すために、市場の制度設計も改善しなければなりません。
イノベーションを生み出す仕組みとは、突き詰めれば国家的課題になるのです。
イノベーションを生み出す仕組み あとがき
世間のイノベーションの議論は、まるでジョブスやゲイツが日本で生まれないのはおかしい! というような議論です。日本にGoogleやApple、マイクロソフトやAmazonがなぜないのだ! という議論もよく見かけます。
その手の議論は必ず「Googleが日本にないのは、日本人のイノベーションが足りないから。改革しなきゃ!」という流れになります。
……あのね? アメリカ以外でGoogleやApple、マイクロソフト、Amazonがある国家って存在するの? 「日本にない」のではなく「アメリカにしかない」のですよ。ドイツにもフランスにもロシアにもありません。
日本政府は失われた20年で、教育や研究、国土への投資を減少させてきました。よって大きなイノベーションが、生み出される土壌がどんどん失われたのです。
日本国内の環境がそうである以上、一企業や個人がどう努力しても限界があります。
それにもかかわらず今日も、上っ面のイノベーションの議論が日本を賑わせています。このあたりが筆者の、違和感の正体なのだろうと思う次第です。