アメリカがイランのソレイマニ司令官を殺害したことで、世界情勢は非常に不安定になっております。不安定の余波で、ウクライナの旅客機がイランに、誤って撃墜されるというニュースもありました。
報道を聞いて「……ところでイラン革命防衛隊ってなに?」と、疑問に思った人も多いハズ。一風変わったイラン革命防衛隊という組織を、やさしく解説していきます。
イラン革命防衛隊の正式名称と成り立ち
イランの軍隊組織は二重構造です。報道でいわれる「イラン革命防衛隊」+「イラン国軍」が、イランの軍事組織です。
要するにイラン革命防衛隊、イラン国軍それぞれに陸海空軍が存在するのです。
イラン革命防衛隊陸軍と、イラン陸軍の2つがイラン国内に存在してるのです。ちょっとびっくりですよね。
イラン革命防衛隊の正式名称は、イスラム革命防衛隊です。本稿では日本の報道に従って、イラン革命防衛隊という呼称を使用します。
イラン革命防衛隊とイラン国軍の二重構造の成り立ち
なぜ世界的に珍しい、軍隊の二重構造が出来上がったのか? には、イランの革命史が関わっています。1979年にパフラヴィー王朝が倒れ、イラン革命が成就します。イラン国軍、すなわちイランの正規軍はこのパフラヴィー王朝から引き継いだ軍隊です。
イラン国軍は革命に抵抗する可能性があったため、革命勢力側の軍事組織として作られたのがイラン革命防衛隊です。ではなぜイラン国軍は、解体されなかったのか?
1980年の革命直後、イラクがイランに戦争を仕掛けます。イラン・イラク戦争はこの後、8年にも及びます。
ぶっちゃけ設立から間もないイラン革命防衛隊が、戦争当初から活躍できたはずがありません。イラン国軍の奮闘があったのは、間違いありません。
よってイラン国軍を解体するわけにもいかなくなり、世界的に珍しい2つの軍隊が存在するイランの体制ができあがったのです。
イラン革命防衛隊の規模とイラン国内の権勢
イラン革命防衛隊は、中国の歴史で言えば紅衛兵のようなものです。分析でイランは兵営国家として分類される事が多く、中核は当然ながらイラン革命防衛隊です。
2008年時点では、290議席のイラン議会のうち182議席をイラン革命防衛隊出身者が占めました。
また経済でもイラン革命防衛隊は、イラン国内で非常に大きな権勢を誇ります。詳しい話は省きますが、イラン経済の3割を支配しているという分析もあります。
日本的に例えれば、全盛期の平家のようなものです。軍事も政治も経済も全部、イラン革命防衛隊が牛耳っているというわけです。
イラン革命防衛隊の軍事力はどの程度?
一番気になるのが、イラン革命防衛隊ってどのくらいの軍隊なの? ってところですよね。流石にイランの国軍よりは、小規模です。
イラン革命防衛隊は約12万5千人から成り立っており、8割強が陸軍です。イラン国軍が42万人ですので4分の1程度の規模です。「ただし正規兵は」という前提条件が付きますが。
イランには民間の義勇兵部隊があり、パスィージという名称です。これを管轄するのがイラン革命防衛隊です。パスィージは数百万人動員できるとされており、最大で1100万人の動員余地があります。
動員数だけで考えるのなら、世界最大規模の軍事組織かもしれません。
イランの軍事力は世界第14位
世界137カ国の軍事力を比較するサイトによれば、イランの軍事力は世界第14位です。 10位あたりにはドイツやイギリスなどが並んでおり、20位前後にはスペインやオーストラリアが並んでいます。
イランの軍事力は世界でも、先進国の平均や中頃といったところでしょうか。
アメリカ・イラン戦争で考えられるイラン側の戦争シナリオ
下記の記事でも書きましたが、アメリカはイランとの戦争が勃発すれば、凋落が加速する可能性が非常に高いでしょう。
イランの戦争シナリオは、イラン国軍がアメリカ軍とひと当てして敗退。その後にイラン革命防衛隊が、非対称戦に移行するというものでしょう。
アメリカが非対称戦やゲリラ戦に弱いのは、イラク戦争のあとの泥沼化でも明らかです。イラン革命防衛隊には、アメリカを巻き込んだゲリラ戦をするだけの力があるでしょう。
現代戦はドローンやミサイルで決着がつくと思うのは間違い
「ゲリラ戦にアメリカが手こずるだろう」と書くと、いつも「ミサイル! ドローン! 精密爆撃!」という反論があります。
先に答えておきますと、この手の反論は「軍事を知らない告白」になってしまいます。なぜなら、未だに軍事で相手国ないし地域を制圧するのは”歩兵”戦力だからです。
すごく簡単に説明します。戦闘機も爆撃機、ミサイル、戦車、戦闘ヘリ、潜水艦、空母etc……。あらゆる兵器は「最終的には歩兵で目的地を制圧するための支援」にしか過ぎない! というと流石に言いすぎですが(笑)
上記の捉え方で、おおよそ間違いありません。
よってゲリラ戦は、軍事大国アメリカに対する唯一の対抗戦術になります。
イラン革命防衛隊=イスラム革命防衛隊の怖さ
「軍隊×宗教(イデオロギーも一部含む)」ほど怖いものはない。これは歴史を見ても、明らかではないでしょうか。
クラウゼヴィッツは戦争論という大古典を著しました。同書で戦争は合理性を追求する一方で、精神論も同じくらい大切だと解されます。精神論の極地は、宗教でしょう。
宗教×軍隊が怖いのは、精神論によって軍の破壊力が激増するからにほかなりません。
やや落ち着いたかに見えるアメリカとイランだが……
2020年1月11日現在「アメリカとイランが手打ちした」との報道も見られます。もし状況がエスカレーションしないなら、非常に喜ばしいことです。
しかし手打ち報道は、やや楽観的にすぎるのでは? と筆者は感じます。アメリカのSNSでは、 第三次世界大戦というキーワードが多く検索されているようです。
また2008年は1929年の状況と酷似しているとの見解があり、 現在の状況は1939年の第二次世界大戦勃発寸前の状況と、非常によく似ていると言われています。
今後はイランのみならず、アメリカを含めた国際情勢がどのように変化していくのか、注視が必要です。
イラン国内の『政治』の方はなんとか手打ちをしようという雰囲気ではありますが・・、政治の方が干渉しずらい宗教勢力側の軍隊としての革命防衛隊は、だいぶん不確かな存在ではありますね・・。
旧日本軍の関東軍や、ナチスのSSみたいなものと考えると、不確定要因としては、十分に注意しないといけない存在ですね・・。
ただ・・、下記のようなデモが起こっているのを見ますに、イラン国内もなかなかに一枚岩ではないような感じですね・・。
↓ ↓ ↓
イラン、1千人抗議デモ 旅客機撃墜の説明に怒り
http://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e3%82%a4%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%80%811%e5%8d%83%e4%ba%ba%e6%8a%97%e8%ad%b0%e3%83%87%e3%83%a2-%e6%97%85%e5%ae%a2%e6%a9%9f%e6%92%83%e5%a2%9c%e3%81%ae%e8%aa%ac%e6%98%8e%e3%81%ab%e6%80%92%e3%82%8a/ar-BBYRxwY?ocid=ientp
(まあ、国内問題の目から国民の目をそらさせるために、より一層対外強硬な姿勢を見せるという可能性も、十二分にこれは考えられますが・・)
旅客機撃墜で、イラン国内もてんやわんやですね。ぐちゃぐちゃすぎて、どうなるか予測が付きません(笑)