京アニ放火事件の被害者実名報道の是非とネット空間の世論感覚

 京アニ放火事件の犠牲者実名報道が、にわかに炎上しているようです。先日はメンタリストのDaiGoさんが、動画で痛烈にNHKと毎日新聞を批判しました。

 ネット世論は、ほぼ実名報道したマスメディアに批判的です。遺族犠牲者への配慮や、心情からだと思われます。

 しかしそう簡単に、正解を見つけられる問題でもないように思えます。
 法的にいえばプライバシー権と、報道の自由のせめぎ合いになります。権利と権利がぶつかる、というのはよくあります。
 またその場合、問題は非常に微妙で難しくなります。

 どうしたら良かったのか? 皆様も一緒に、事の経緯を追いながら考えましょう。

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京アニ放火事件の経緯

 京アニ放火事件は、ご存じの方もいらっしゃるので簡潔に説明します。

 2019年7月18日に、京都府伏見区の京アニ第1スタジオが放火されました。ガソリン10~15リットルをまき、ライターで着火したとのこと。
 従業員70名中69名が被害をうけ、犠牲者は35名に及んだ事件です。

 報道によれば、被疑者は「京アニが自分の作品(小説)をパクった」と主張していたようです。もちろん、そのような事実はないそうです。

京アニ放火事件被害者実名報道までの経緯

 8月2日に、警察から10名の犠牲者の実名が公開されました。遺族には、了解をとっての公表だったようです。

 8月27日に残りの25名の犠牲者の実名が、警察より公表されました。この27日の実名公開が、今回のネットで騒がれているものです。

 8月20日に記者クラブが、京都府警に実名公開を申し入れました。犠牲者遺族は、25名中20名の実名公表を拒否したとのことです。
 報道によれば京都府警は、一部の遺族が公表を望んでいないと伝え、匿名報道を要望したようです。

 殆どのマスメディアは、25名の氏名を報道したようです。

 署名サイト「Change.org」では、実名報道をしないように要請する署名を集めていました。署名を京都府警に届ける前日に、京都府警が実名を記者クラブに公表しました。
 これによってマスメディア、京都府警への批判がネット上でますます高まったとのことです。

大きく分けて2つの意見が、京アニ放火事件の犠牲者実名報道批判に存在

  1. 犠牲者遺族が拒否しているのだから、実名報道をしたり、公表しなくても良かったんじゃないか
  2. 事件を正確に後世に伝えるためにも、報道の真実性のためにも実名報道が必要ではないか

 大きく分けて2つの意見が、今回の京アニ放火事件の犠牲者実名報道で存在します。
 専門家の間でも、報道によって意見は分かれています。

 1つずつ、整理しておきましょう。

警察判断で、過去にも犠牲者を匿名にしたケースもある

 警察判断で、過去の事件で犠牲者を匿名にしたケースもあります。
 警察が「犠牲者遺族のプライバシーが、大きく毀損される恐れが強い」と判断した場合です。

 過去の事件では2016年の、相模原障害者殺傷事件です。犠牲者遺族は警察に要望を出し、神奈川県警も犠牲者の実名を公表しなかったようです。

初公判では、当然ながら公開で犠牲者の実名は出る

 裁判は当然実名で、行われます。基本的に刑事裁判は、公開されています。
 犠牲者遺族のプライバシーへ配慮するのなら、初公判まで公表は控えるということも可能でしょう。

匿名ならではの問題も?

 アメリカやイギリスは、完全に実名報道のようです。被害者からその友人まで、全て実名という徹底ぶりです。
 端的にいえば、これは2つの理念から来ているようです。

  1. 人という存在を重視しているから(匿名で人数のみの報道は、人間という存在への軽視?)
  2. OpenJustice(市民による、公権力の監視)を重視しているから

 ただし社会の基礎事情は、日本とかなり異なります。上記が日本に当てはまるかどうか? は議論の余地があります。

 逆にスウェーデンや韓国のように、犯罪者も匿名報道される国もあるようです。
参照:実名報道 – Wikipedia

日本のネットの特徴が、今回の世論に影響したのでは?

 ここからは私見となります。

 どうも日本と海外では、ネット文化がかなり異なるようです。顔出しや実名は、日本ではほとんどされませんが、海外ではわりとポピュラーなのだそうです。

 日本人がネットで、実名や顔出しを嫌う理由はいくつか考えられます。

  1. 目立ちたくない
  2. ネットは怖いもの、と認識している
  3. ネットを信用していない

 炎上などがネットではありますし、気持ちは理解できる気もします。
 上記の土壌としては、「空気を読む」があるんじゃないでしょうか? 欧米人より、日本人のほうが自己主張が少ないという見解もあります。

 つまりどこまでも「個人」なネット空間は、日本人にとって「苦手な空間」なのかもしれません。

 こういった日本のネット空間の空気が、犠牲者遺族の実名報道への拒否感につながっているのではないか? と思います。
 ある種、公の空間に実名を晒すのは「罰」というイメージでしょうか。

マスメディアの取材問題に関する見解

 私は当事者になったことがなく、マスメディアの事件報道の取材が「どのようなものか?」はわかりません。
 ASCII.jp:京アニ事件、被害者の「身元」公表で警察とメディアに求められる姿勢は、ジャーナリストの記事です。
 ネット上の「マスメディア取材のイメージ」ではなく、実際の体験をもとに書かれた記事です。
 
 逆に弁護士さんの記事では「犠牲者遺族がいたたまれない」という見解もあります。

 事件報道の過熱については、イギリスでも問題になっています。どのように一定の線引をするか? 法的に、何か決めるのか? それとも自制するのか?
 様々な議論が求められます。

ネット全盛期の現代に、考えなければならない課題

 京アニ放火事件の犠牲者遺族への、マスメディアや警察の対応は「我々は考えなければいけない課題」を1つ、示したのではないでしょうか?

 ネットのない時代であれば、実名報道されてもすぐに忘れ去られました。しかし現代は、少し調べれば出てきます。
 なるほど……匿名報道が増えているのも、理解可能です。

 日本において、どのような報道や対応があっているのか? この課題には、多角的な議論が必要になるでしょう。
 表現の自由、人権、遺族感情、マスメディアのあり方etc……。

 一人ひとりが考えていただければ、記事の意味もあるというものです。

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政治・時事
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この記事を書いた人

「難しいこともわかりやすく」政治・経済コラムをメインに発信。
2019年まで16年間自営業→Webライターに転身。
日本で数少ない現代貨幣理論の論者(MMTer)。
左右や保守・革新にこだわらず「庶民(自分含む)のためになる政治経済情報」をブログで掲載。

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7 Comments
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阿吽
5 年 前

>どうも日本と海外では、ネット文化がかなり異なるようです。顔出しや実名は、日本ではほとんどされませんが、海外ではわりとポピュラーなのだそうです。
>日本人がネットで、実名や顔出しを嫌う理由はいくつか考えられます。
>目立ちたくない
>ネットは怖いもの、と認識している
>ネットを信用していない

海外の人や、海外の事情はこの場合は私は詳しくないので特に述べられません。

しかし、私の考えで述べれば・・、日本人で実名や顔出しをネットでする人と言うのは・・、『覚悟が完了してる人』か、『なんにも考えていない人』かの2種類かと思います。(細かく定義すれば、もっといろいろあるかとも思いますが・・)

海外のことは、この場合はよくわかりません。

トナカイ
Reply to  阿吽
5 年 前

ネットの嫌な空気について調べてたら、自己責任についての良い記事が見つかったので貼ります。

自己責任論 VS みんなで支え合う論。 経済的にお得なのはどっち? データに基づいて検証してみた結果
https://note.mu/cohee/n/n43fa35404987

阿吽
Reply to  トナカイ
5 年 前

アイスランドはえらい景気が良さそうな稀有な国だなあと思っていましたら・・、そんな事情があったのですね・・・。

,
私は『地球タクシー』という番組をわりと好んで見ているのですが・・(通常の旅番組よりも、街中のタクシー運転手の視点からその国の都市を見れるので、その国のほんとの実情が他の旅番組よりも良くわかると思っているため、というのがあります)

その中で、アイスランドの首都レイキャヴィクをタクシーで走る回があったのですが・・、アイスランドだけだったんです。

タクシーの運転手が、とても生活に余裕がありそうに見えたのは・・。

アイスランド以外でも数多くの都市をタクシーが走ったのですが・・、どこも、こういうのはなんですが、タクシーの運転手さんは生活が楽そうには見えませんでした・・。(まあ、おそらくグローバリズムと緊縮思想による不況の影響を多くえているのだろうとは、まあ、おそらく、ほぼ確信をもってこれは思いますが・・)

それら諸都市を見て、私は世界的な景気の減退を感じていたのです、が・・、

アイスランドのタクシーだけは違ったのです。

,
タクシーは景気のバロメーターとも聞きます。

そのタクシーがえらい景気が良いと言うことは、この国(アイスランド)の経済は世界的には珍しく、えらい良いんだなと、その当時、その番組を見ながら私は思っていたのです。

,
しかし、今回、私の中でその時の謎が解けた気がします。

ありがとうございました。m(__)m

黄昏のタロ
5 年 前

お疲れ様です。お邪魔しますです。

神道と仏教が融合(?)している日本の宗教観だと考えています。

 亡くなった方々の位置付けのベースが違うのではないか?って辺りを考えてるです。
 キリスト教の絶対的な神の元での死者は天国で再会する仲間なのかなと。再会するのですから幽霊や御祓いは無いです。
 神道では浄化されて八百万の神々の仲間入りです。敬う存在になるのです。
 仏教はよくわかんないですね。キリスト教とは確実に違うんだろうなって辺りです。

 亡くなった方々への考え方の違いは、おいら達の意見や行動に影響を与えます。靖国まで繋がっているのかもです。
 良いのか悪いのかなんて、おいらには判らないです。ただ、死者への考え方の違いは確実に存在してるです。

「おいら達って無宗教じゃん」って言いたいとことですけど、「初詣」は世界最大の宗教行事だそうです。