現代貨幣理論(MMT)批判が、やむことを知りません。批判の多くは「インフレがー!」という、内容のないものです。
批判内容はともかくとして――私は、連日のように現代貨幣論が、報道されるのは良いことだともいます。報道によって、多くの人が興味を持つことでしょう。
本稿では貨幣に関する、一番の原初的なことを解説したいと思います。貨幣と国家です。
結論としては、「(完全)自由市場などは、フィクションにしか過ぎない」という、驚きのものになります。
古来からの貨幣と共同体
メソポタミア文明、エジプト文明等々。古代文明でも貨幣は、使用されてきました。
貨幣の歴史をたどると、面白いことがわかります。
貨幣は「共同体内で使用されてきた」という、純然たる事実です。
もちろん、あるときは征服国家が属国に対して、貨幣の使用を強制することもあったでしょう。しかし、基本的には「”自分たちの領土や植民地など”で同一貨幣が使用される」のです。
かつて秦の始皇帝は、度量衡を行いました。全国の升などの大きさを統一したのです。
度量衡的な性格”も”持つのが、貨幣です。
とすれば共同体内で、統一した貨幣を持つことも自然かと思います。
共同体と貨幣は、非常に密接な関係が存在するのです。
現代貨幣理論(MMT)の貨幣国定説
貨幣国定説を唱えたのは、G・F・クナップです。19世紀のドイツの経済学者です。彼の貨幣国定説は、現代貨幣理論(MMT)に大きな影響を与えています。
貨幣論には2つの潮流があります。
1つは貨幣を商品とみなす、商品貨幣論です。もう1つは、貨幣は信用創造で生み出されるとする、信用貨幣論です。
2つの貨幣論の詳細は、申し上げません。詳しくは【まとめ】現代貨幣理論(MMT)とは?全体像をわかりやすく解説をご参照ください。
商品貨幣論のように「貨幣=商品」だとすれば、「基本的には誰でも、生産が可能」となります。つまり、共同体に依存しない。
信用貨幣論では、国家が銀行という制度を”認めます”。国家制度として、貨幣が創造されていることになります。
貨幣国定説は名前の通り、国家が貨幣を定めるという学説です。つまり信用貨幣論を支える、論理的根拠でもあり、一要素でもあります。
では国家とは? 共同体の最大単位です。
現代貨幣理論(MMT)の根源は、共同体で貨幣を発行してきた歴史を踏まえている証左です。
イギリスの産業革命以前は、大商人が発行した「プライベートマネー」も存在しました。もし商品貨幣論が通用するとしても――どの時代でも、私は通用するとは思わない――300年前まででしょう。
国家権力と貨幣と市場
貨幣国定説が非常に有力であり、歴史に沿っていると上述しました。貨幣は「共同体の決まりごとの1つ」だったのです。
「そんなことはない!」と主張するなら、明日から英ポンドでお給料を受け取ってみては?
貨幣制度は国家制度です。法律が国家によって異なるように、貨幣も国家によって異なるのです。
では市場はどうでしょう? よく経済学者や有識者から「自由市場」「自由競争」という言葉を聞きます。
自由とは「何ものにも縛られない」ことです。本当でしょうか?
TPPの合意文書は、7000ページにも及んだそうです。それだけ多くの、ルールが決定されました。……どこが「自由市場」なの? と思いません?
非常に矛盾しているのですが、自由な市場を実現しようとすると、ルールが多くなります(笑)
自由という概念をルール化すると、不自由になるんですね。
閑話休題。
「自由市場」でもルールが多くなる。これは重大な事実です。つまり「規制(というルール)」も、規制緩和(というルールの緩和)も、所詮は「ルールをどの方向に向けるか?」の話です。
(完全)自由市場や自由競争は、表現を変えれば「弱肉強食」です。「そういう方向に、ルールをいじる」だけです。
北斗の拳の村人が、種籾を取られるだけのように……制度は世界観を決定します。
しかも! 「自由市場」を国家が”政策として目指して”、自由市場が出来上がるのです。とすれば、市場も「自由市場が正しい!」ではなく、「国家が決める」となるでしょう。
貨幣も市場ルールも国家が決める。経済とは政治的問題だ
主流派経済学や、巷の経済学者、有識者は頑迷に「自由競争! 自由市場! 規制緩和! 財政出動はだめ! インフレ怖い!」と「まるで壊れたレコード」のようにいい続けます。
私は「壊れてるんだから、さっさと完全に壊れろ。沈黙しろ!」としか思いません。
しかい論じてきたとおり、貨幣も市場も「政治」の話です。経済の3大要素中、2大要素がじつは政治です。
もう1つは企業活動や、個人消費ですね。
※企業活動にも法律で対応できるので、完全にフリーパスではない。例えばCO2規制とか、車の排ガス規制とか。
そう、貨幣国定説を支持し、現代貨幣理論(MMT)を支持するのならば……経済の多くは「政治問題だ」ということになります。
なにせ経済の3大要素のうち、2大要素は完全に「政治」ですから。
我が日本は民主主義国家です。主権者は、国民とされています。
とすれば、経済問題は「国民が間違ってきた」と帰結します。
「経済と政治は、関連性がないんだ!」というのは、現実逃避にほかなりません。
現代貨幣理論(MMT)はこのような問いも、我々日本国民につきつけるのです。