本稿はデフレとは? なぜ脱却できないのか? を誰にでもわかりやすく解説します。
デフレの議論で必ず出てくる「財政出動をしても一時的!」「日本は国債が1000兆円! 緊縮財政なんかしてない!」が、見当違いな議論です。こちらについても、デフレを理解することで、緊縮財政の定義が可能になるはずです。
「デフレ脱却の解決策は、あまりに当たり前のこと」なのに、なぜ日本が正しいデフレ対策をできないのか? も理解できることでしょう。
デフレの定義とは
デフレの定義とは「供給>需要」です。以下の画像が、非常にわかりやすいと思います。
デフレとは、どのような現象でしょう?
- 需要が過少なので、市場競争が激化する
- 市場競争は、ほとんどが価格競争になる
- 価格競争のために、コストを切り詰める
- 切り詰めるコストには、人件費や研究開発費も含まれる
- 国民の所得が下落し、より需要が少なくなる(1.に戻る)
デフレは供給>需要と述べました。これは物価の下落=通貨価値の上昇でもあります。100円で買っていたものが、90円で買えるようになる=1円あたりの通貨価値の上昇=物価の下落です。
物価が下落すれば、良いことじゃないか! と思うかも知れませんが、その裏には「人件費を含めたコストの削減」があります。物価下落速度以上の速度で、国民の所得が下落するのです。
デフレでは、以下のようなことがおきます。
- 物価下落速度以上の、国民所得の下落
- 研究開発費や設備投資への投資の減少=イノベーションが起きにくくなる
- デフレで全体のパイが増えないので、レントシーキングが横行する(民営化など)
- デフレが長期間になると、世界で相対的に見た場合に国力が低下
- 最終的には需要が少ない=投資してもしょうがない=供給能力の毀損が発生
簡単にいえば、資本主義が機能不全を起こします。
世界ではインフレより、デフレを警戒してきました。その証拠に、20年以上もデフレに陥っているのは、日本だけです。
なぜ日本はデフレに陥ったのか?
よくデフレの原因を、バブル崩壊に求める人達がいます。これは間違いです。
バブル崩壊は1991年ですが、財政出動によりGDPは堅調に増えていました。
しかし1997年の消費税増税(3%→5%)で、日本はデフレに陥ります。
1997年のGDPは534兆円。2018年のGDPは549兆円。21年間の間に、わずか15兆円程度しか、GDPは拡大していません。なぜか? デフレだったからです。
1997年の平均所得は467万円でしたが、2018年は420万円ほど。ほぼ50万円も、所得が下落しています。
30代後半の男性の比較では、1997年が589万円。2013年は499万円と、90万円の下落しました。
参照:サラリーマンの平均年収(2018年)はいくらか?手取りと額面の違いとは? | インターネットビジネスで成功した東大生山下雅宏のブログ
消費税増税(緊縮財政)、規制緩和、構造改革という「新自由主義的な政策」が実行され始めてから、日本はデフレに陥ったのです。
緊縮財政の定義とは
デフレは供給>需要と述べました。
デフレ下で所得が減っていき、皆さんはどうするでしょう? 節約するのではないですか? 企業もコストカットで、節約しようとします。
とすると、需要を増やせる経済主体は政府しかありません。
国債を発行して、政府が投資や消費をする=需要を創出する=民間の仕事を増やす。これ以外にデフレ解決の方法は、ありません。
現代貨幣理論(MMT)では、自国通貨建て国債で破綻することは「ありえない」とします。当たり前ですよね? 政府は通貨発行権を持っています。
自分の発行できる通貨で、どうやって「破綻」したら良いのでしょう?
あなたが親孝行で、肩たたき券を10枚発行したとします。そしたら経済学者が「あなたは硬た危険を発行しすぎだ! 破綻する!」といっているようなものです。
積極財政の定義は、供給>需要のデフレ状態を、供給<需要のインフレ状態に持っていくことです。
であれば緊縮財政の定義とは、供給>需要の状態を維持することです。政府支出の絶対額は関係ありません。
つまり……「デフレ脱却できない”程度の”予算額は、全て緊縮財政」といえます。
補足ですが、正常なインフレになれば積極財政は、絶対に必要というわけではありません。
デフレ下での個人と企業の合成の誤謬
先程、デフレ下では個人も企業も、節約するといいました。これは合理的な行動です。
収入や売上が少ないのに、借金しまくる人はいないでしょう。
しかし全体で見た場合、合理的行動の節約は、さらに需要を少なくします。デフレを悪化させてしまうわけです。
このように「個々の合理的行動が、全体として悪い結果をもたらすこと」を合成の誤謬といいます。
デフレ推進になる各種政策
デフレを悪化させる政策とは、何でしょう?
- 緊縮財政(十分な政府支出がない)
- 規制緩和
- 自由貿易
代表的なものは、上記の3つです。「えっ! 規制緩和や自由貿易が、デフレを悪化させる? 政府は成長戦略といってるじゃないか!」と驚かれることでしょう。
規制緩和は「パイが大きくならない中で」「市場競争を激化」します。利益がAからBに移るだけです。
そしてこのシェア争いは、基本的に価格競争で行われます。物価下落を促進するのです。
したがって、デフレはさらに悪化することになります。
自由貿易も同様です。国内産業が、中国などの「安い人件費やコストの国」と争うことになります。
争った結果どうなるか? 人件費やコストを抑え、対抗しようとします。
上記のような現象を、「貧困への競争」と呼びます。
間違い続け、走り続けた失われた20年
日本は過去20年以上、自由貿易・規制緩和・緊縮財政という「デフレ加速政策」を進めてきました。――これで、デフレ脱却できたら魔法ですよ。
では安倍政権はどうか? 移民拡大という規制緩和や、水道事業民営化という規制緩和。そして不十分な政府支出(緊縮財政)。
失われた20年の「間違った政策」を踏襲しています。いや、もっと悪くて「積極的に推し進めている」のです。
「しかし現在、失業率などは改善している!」との反論があると思います。
アベノミクスとは何だったのか-実感なき景気回復とアベノミクスの失敗で論じておりますが、基本的には「民間の自立回復+外需+団塊世代の引退」が原因です。
政府は一度も、「デフレ脱却した!」とは宣言していません。
また2018年のGDPは、21年前のGDPの「わずか15兆円プラス」程度に過ぎません。EUでも1.5倍、アメリカでも2倍程度になっているのに、です。日本はほぼ1倍です。
上記は「世界経済における、日本経済のシェアの下落」を意味します。つまり「相対的に、日本の国力は下落した」のです。
国力の下落は当然、軍事安全保障にも直結します。
私には、なぜ保守といわれる人たちが騒がないのか? 不思議でなりません。
失われた20年やデフレは、かくも恐ろしいものなのです。