AIに仕事を奪われる、仕事がなくなるという主張は短絡的な議論

 AIに仕事を奪われる、将来的に人間の仕事がなくなる。こういった議論が多く聞かれます。本当でしょうか?

 上記のような主張は「だからベーシックインカムだ」と唱えます。

 結論からいってしまえば、そのような未来は「ほぼ訪れない」と思われます。
 「学説」「知性」「AI」などの観点から、なぜAIが殆どの仕事を担う未来が訪れないか? を解説します。

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ディープラーニングを誇大解釈する報道と有識者

 AI(人工知能)で最近の流行は、ディープラーニングです。これは深層学習などとも呼ばれる、機械学習法の一種です。
 どうも世間では、ディープラーニングによってPCが様々なことを学習し、それによって人間の仕事が奪われるということが、さも定説のように語られます。

 いくつかの例を上げて、それは誇大解釈すぎる! と解説してみます。

 Googleは大量の画像をディープラーニングに読み込ませることで、PCが猫を認識できるようになったと発表しました。
 では問題。画像をディープラーニングしたPCは「後ろ姿の猫の画像」と「正面からの猫の画像」を「同じ猫という動物だ」と認識できるでしょうか?
 答えはNOです。

 なぜなら画像が二次元だからです。
※3Dグラフィックによる猫なら、前後側面からでも認識できるようになるでしょうが。

 では自然言語はどうでしょう。自然言語の文章は「人間の思い浮かべたイメージ(景色、時間軸、感情、論理etc……)を、二次元に移す作業」です。
 先程、ディープラーニングでは「二次元のものから、三次元のものは認識できない」と書きました。

 いくら大量に文章を読み込ませても、自然言語からより高次元の人間的思考を獲得はできないのです。
 したがって例えば、常識などもディープラーニングでは、獲得できない概念の1つです。

 「車の床の下に、天井がある」という文章を、ディープラーニングでは「異常、おかしい」と認識できません。床の上に天井という常識的なことは、どんな文章にも書かれていないからです。

 ディープラーニングはさも、万能のようにいわれます。でもディープラーニングって、単なるプログラムの1つであり、何でもかんでも出来るというわけではありません。

シンギュラリティの概念が、間違ったイメージになっている

 アメリカの未来学者、レイ・カーツワイルが提唱した概念が「シンギュラリティ」です。日本語では、技術的特異点といわれます。

 一般的にシンギュラリティは「AIが人間の知性を超える」というイメージで語られます。残念ながら、レイ・カーツワイルが唱えたのは「10万円程度で手に入るPCが、全人類の計算能力を超えるのが2045年ではないか?」という意味です。

 一応付言として、「そのPCによって、生活が劇的に変化する」とまでは予測してます。しかしAIがAIを設計して……なんて予測はしていません。

 またシンギュラリティに対して、様々な問題点も指摘されています。
 ムーアの法則(毎年、2倍位の性能のPCが出てくる)は2020年に限界といわれます。私の感覚では、2016年位にムーアの法則は、もう当てはまってなくね? と思います。

 何らかの技術的ブレークスルーがない限り、シンギュラリティすら迎えないのでは? という観測です。
 個人的にはシンギュラリティにロマンを感じますが、現実なんてそんなものです。

ディープラーニングがもてはやされる理由

 1970年代は「地球寒冷化」が予測されていました。地球温暖化が危惧され始めたのは、1980年代の終りだったかと思います。

 地球温暖化の是非は脇に置きます。
 しかし2000年代初頭、地球温暖化の研究だといえば、政府から次々と予算がついたようです。

 学者も予算なしでは、研究が進みません。だからフォーカスされたら、ここぞとばかりにアピールするのです。
 アピールは少々、誇大になるきらいがあります。そうやって「実際の研究とは違うイメージ」が、世間に流布したりします。

 一時期、WEB2.0なる言葉が流行りました。……あれ、実際にプログラムをしている人間からすれば「はい? 今までと変わりませんけど?」でした。
 ビッグデータやディープラーニングも、有用な技術ではあります。
 でも万能の技術ではありません。

AIに仕事が奪われるという幻想とファンタジー

 多少プログラムをするだけの私が書いても、あまり説得力がないでしょう。ですので、総務省の有識者へのヒアリングの結果を見てみましょう。

 総務省|平成28年版 情報通信白書|人工知能(AI)導入で想定される雇用への影響では、有識者27名中、16名が「AIの導入で、新しい市場が”創出”され、”雇用機会が増大”する」と答えています。

 逆に「多くの仕事が奪われ、失業率が上昇する」としたのは、27名中、わずか3名でした。

 「AIに多くの仕事が奪われ、仕事がなくなる」というショッキングな未来は、面白いのでニュースになります。
 しかし有識者たちの間では、少数派の予想です。

 このように事実を知れば「AIが多くの仕事をこなし、人間の仕事がなくなる未来は必然」という主張は、あまり現実味のあるものではありません。

 過去に、再生可能エネルギーについて論じたことがあります。現時点では、使い物にならないと。再エネ派はとかく、再エネに夢見がちです。
 同じことが、AIとディープラーニングでも起こっているのでしょう。

AIに仕事を奪われるから、ベーシックインカムだという主張の構造

 よくある主張ですが、書いてきたとおり「AIに仕事を奪われて、仕事がなくなる」という未来は、来そうにありません。

 来る可能性が非常に低い未来のために、ベーシックインカムを議論することもないでしょう。

 2000年代は「グローバリゼーションは避けられない! だから構造改革!」といわれました。現在では「AIによって仕事がなくなるのは避けられない! だからベーシックインカム!」というわけ。

 この「Aは運命であって、避けられないのだ」「だからBするべきだ」という議論は、私は好きではありません。
 まるでAを「自然科学の摂理」のようにいうことで、Bを押し付ける論法だからです。

 Aという前提条件が、様々な知見と考察に基づいたものなら、納得もできます。でもたいていの場合、Aという前提条件は説明されません。

ケインズは言った、1日3時間だけしか働かなくて良くなるだろうと

 有名な話ですが、ケインズは1930年に「今後1世紀の間に、労働時間は週に15時間になる」と予言していました。
 あと11年で、週に15時間労働になると思う人、手を上げて。

 この手の予測は、ケインズであれ誰であれ、たいてい外れます。

 確かに1930年代の労働を、現在の技術力でやれば「週に15時間労働」で済むかも知れません。しかし一方で、イノベーションが起こると市場が拡張するのです。
 したがって21世紀の我々は、いまだに週に40時間労働を続けているというわけ。

 仮にAIが、現在の仕事の大半を担うようになったと仮定しましょう。その未来において、更に新しい市場の拡張が起こり、そちらで雇用機会は保たれるはずです。
 どのような仕事か? は想像も付きませんが。

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Muse
4 年 前

なるほど、やはり「AI(機械学習やディープラーニング)に仕事が奪われる」とか「AIがAIを設計する」というのは幻想にすぎないということでしょうか?今は第三次AIブームとか呼ばれていますが、ただ、1950年代や80年代の過去のAIブームとは違ってこのままポシャることはないかと思います。量子コンピュータとやらが実用化されてコンピュータの性能が飛躍的に高まれば、もしかしたら、幻想が現実になるかも?と思ったりします。

ところで、話は少しそれますが、今後、小・中・高の学校教育でプログラミング教育が必修となりますが、果たして全国民にプログラミングを強制的に学ばせる必要がそこまであるのか疑問です。例えば、高校あたりで実用的なプログラム言語(PHP、Python、JavaScriptあたり?)を使って簡単なWebシステムを作ったりさせても、システム開発のエンジニアになるわけでもないのに果たしてどれほどのメリットがあるのか?という疑問です。ただ、個人的な日常業務の効率化のためということであれば、ビジネスマンでも役に立つこともあるかとは思いますが(例えば、Pythonを使ったテキストデータの処理とか、データ分析とか、VBAの代わりにExcelを操作するとか等々)。

それから、そもそもプログラミングを教えられる人材を確保できるのか?という問題もあります。教員免許がなくても構わないという条件であれば、年取って第一線を退いた元開発エンジニアを集めてくるという手はあります。

Muse
Reply to  高橋 聡
4 年 前

なるほど、学習指導要領によると、「プログラミング教育の目的は、言語やコーディングの知識ではなく、問題解決型の論理的思考力の養成にある」とありますが、それなら、国語や数学(算数)の既存科目でも十分対応できると思います。それに、小学校の場合は、算数や理科などの学習内容にプログラミング的要素が組み込まれ、PCを必ずしも使わけではないとか。果たして、どれだけの教育効果があるのか?疑問ですね。

あと、本筋からそれた細かいことですが、一般に、COBOLは低水準言語(機械語やそれに近いアセンブリ言語)ではなく、高水準言語(自然言語に近いプログラム言語)だといえます。大雑把な概念ですが、PHPやJava、JavaScript、Python、Ruby等々と同じ高級言語です。ちなみに、C/C++も高級言語ですが、ポインタ操作など細かいメモリ管理が行えるので、低級言語的な要素もあります。いずれも、多少かじったことがある程度ですが。

阿吽
4 年 前

100年前に一日15時間かかった仕事が今では3時間でできる・・?

じゃあ、今一日15時間働けば、100年前相当で75時間分の仕事が一日でいっきにできるじゃあないかあ! ボク仕事大好き!(社畜脳)

・・極端な話ではこんな感じでしょうか・・・(^^;)

効率化されるほど仕事の効率が良くなると言うことで・・、ということでつまりは、今まで以上の生産性が得られるということで・・。

まあ、ブラック企業にならないためには、景気回復と国の適切な民間の労働環境の管理が必要なのでしょうが・・。

手書きで会計してた時代と、エクセル使って会計する時代では、作業効率が段ちでしょうけど、かといって、40年前に比べて労働時間が減ったわけでもないでしょうからね・・。

景気回復と労働環境の改善がなければ、いくら作業効率がAIでアップしても、労働時間は変わらないですかねえ・・・。

まあ、鉄腕アトムの世界みたいに、ロボットが人間の仕事を奪うみたいな発想もあるかもしれませんけど・・、現在の社会状況を見る限りにおいては、まだまだ先の話ですかね・・?

少なくとも、AIに仕事が奪われるからBIっていう発想ならば、少なくとも今の所はまだ、時期尚早、でしょうか・・?

AIよりかは、企業や政府が安価な労働力として日本国内に招き入れている外国人労働者の方が、直近の日本人にとってはの、給料を下げる要因と、仕事を奪う要因ってことになりますかね・・・?(しかもさらに、一斉におこなわれる外国人労働者の確保は、今のドイツが如く治安の悪化さえも招きますし・・・)

阿吽
Reply to  高橋 聡
4 年 前

ただし・・、なんですが・・・、

この国、というよりかは世界各国で財政出動が行われるような時代になった場合・・、ある程度のブレークスルーはおこると、これは個人的には思います。

(まあ、財政出動が社会で正義になるまであと何年かかるかは、これはこれでこれもわからないのですが・・・(^^;))