本稿では現代貨幣理論(MMT)のエッセンス、スペンディングファーストを解説します。
スペンディングファーストを理解すれば、経済の見方が180度変わります。なぜなら……一般的に流布されている、財政政策のイメージと「真逆のこと」が事実だからです。
一般的なイメージではこうです。
- 政府が徴税して、租税収入がある
- 租税収入と借り入れから、支出する
じつはこれ、間違いです。
現代貨幣理論(MMT)のエッセンスの1つ、スペンディングファーストを解説していきます。
スペンディングファーストとは
スペンディングファーストとは英語で「Spending first」と書きます。日本語に直訳すると「最初に使う」「最初に支出する」という意味です。
非常に重要なことなので、先に書きます。「支出=消費or投資=需要」です。経済論で支出と需要はイコールのはずですが、結びついていない人が多くいます。
政府支出とは政府需要(消費)です。つまり需要創出と同義です。
スペンディングファーストは「政府が支出するのが先で、租税は『支出に関係ない』」という、事実を表す言葉です。
「え? いやいや、租税(収入)から支出しなきゃダメじゃないか!」って? では聞きます。
2018年度の税収は、いつ確定しますか? 2019年の2-3月のハズです。確定申告は、この時期にします。
2018年度の予算は、2018年に執行されています。
「租税が取れていないのに、予算は執行されている」のです。
政府財政の一般的なイメージは間違いだったという衝撃
政府は税収から、予算を執行する。これが一般的なイメージですが、完全な間違いとわかりました。なぜなら……上述したように、税収が確定するより前に、予算を執行(支出)しているからです。
これがスペンディングファーストの面白いところです。
なぜ税収が入ってないのに、予算が執行できるのか? 財務省証券で支出できるのです。
財務省は「政府のいち省庁」です。
財務省証券(政府短期証券)のファイナンスは、日銀の当座預金と交換するだけです。日銀は政府と一体とみなされますから(統合政府)、政府内でお金を発行して支出しているのです。
通貨をゼロから考えると、スペンディングファーストがより理解できる
通貨と貨幣の違いは何でしょう? 通貨は「法定(国定)流通『貨幣』」の略語です。
日本にまだ、通貨がなかったとしましょう。小判や鉄貨などを、バラバラに使用していたとします。(実際に江戸時代には、様々な貨幣が存在した)
政府は「円」という単位を通貨と決定します。
そして「円でしか納税は認めない!」のです。しかし円は誰も持っていません。
今までの小判や鉄貨を、政府は円に交換します。交換といえば「なんだ、交換か」と思うかも知れませんが、これは「円で鉄貨などを買い取る」と一緒です。
つまり政府支出が先なのです。スペンディングファーストです。
もちろん実際は、通貨制度のためには長い時間が必要でした。そのへんの歴史は、明治維新と通貨制度 – 日本の貨幣の歴史 – お金の歴史 – 公益財団法人 八十二文化財団をご覧ください。
1つ言えるのは、通貨発行権を持つ政府が通貨を発行し、真っ先にそれを使用しないと「通貨は出回らない」ということです。誰も持っていないわけですから。
やはり、スペンディングファーストなのでした。
政府が仮に負債をゼロにしたら、どうなるか
もう少し思考実験をしましょう。
仮に政府が負債をゼロにしたら、どうなるか?
報道では「国の借金が1000兆円!」といわれます。さも国債が悪者のようにいわれ、プライマリーバランスが至上命題のように考えられます。
では政府が負債をゼロにしたら?
「誰かの負債=誰かの資産」であり「誰かの債務=誰かの債権」です。
GDPがそのままだとすれば、民間負債が1000兆円増えることになりますので、耐えきれずに金融危機まっしぐらでしょう。
民間も負債を増やさないとなると、GDPが激減します。
「そんな短期で、考えるのがバカ。長期的にやればできるはず」ですって? 長期的にやってきた結果が、失われた20年でありデフレです。
一般的には「借金が悪いものだ」といわれます。家計や企業にとってはそうかも知れません。
仮に個人・企業・国家がすべて負債ゼロになったらどうなるでしょうか?
市場からお金が消えてなくなります。
誰かの負債=誰かの資産ですから、すべての負債がゼロになれば資産もゼロ。よって通貨もゼロになるはずです。
通貨がゼロだと、誰も消費や支出ができません。では誰が最初に支出するのか?
通貨発行権を持つ、政府しかいないのです。やはりスペンディングファーストなのでした。
機能的財政論とスペンディングファースト
機能的財政論は「租税や政府支出を、景気調整の手段として用いる」理論です。好景気のときには政府支出減や重税でインフレを抑制し、デフレのときには政府支出拡大と税率減です。
機能的財政論はの根本は「政府支出は、租税に依存しない」という、現代貨幣理論(MMT)のスペンディングファーストの概念なのです。
ソルベンシーリスクという言葉の解説
よく現代貨幣理論(MMT)では、ソルベンシーリスクという言葉が出てきます。英語ではsolvencyと書きます。
意味は「支払能力があること」です。
つまりソルベンシーリスクとは、「支払いができないかも知れないリスク」といえます。
通貨発行権を持っているのに、自国通貨建ての国債が「支払いができないかも知れない」なんてことは、理論上ありえません。
歴史上も、自国通貨建て国債で破綻した国家は「存在しない」のです。
報道で「どこどこがデフォルト(財政破綻)! 日本も危ない!」といわれますが、それらはすべて「外国通貨建て(大体はドル)国債」ないし「ユーロという共通通貨建て国債」です。
日本に、ソルベンシーリスクは存在しないのです。
政府が支出するから、納税ができるのが「事実」です
いろいろな角度からスペンディングファーストを、見てきました。
一般的な「租税から、政府は支出する」は正しくありませんでした。事実は「政府が支出するから、納税できる」というスペンディングファーストです。
現代貨幣理論(MMT)の第一人者の1人である、ウォーレン・モズラーが非常に面白い論文を書いています。
モズラーの書く文章は、非常にわかりやすいです。
MMT(現代金融理論)のエッセンス! ウオーレン・モズラー「命取りに無邪気な嘘 1/7」 – 道草
嘘1:政府は支出するために、まず税金や借入によって資金を調達しなければならない。 あるいは、政府支出は、徴税能力と借入能力に制限されている。
スペンディングファーストと現代貨幣理論(MMT)を理解するためにも、ぜひとも読んでおきたい記事です。
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