現代貨幣理論(MMT)批判の分類と反論をわかりやすく解説する

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 現代貨幣理論(MMT)批判が、毎日のように報じられます。現代貨幣理論(MMT)批判の内容はおおよそ3つに分類できます。

  1. 現代貨幣理論(MMT)を実行すると、ハイパーインフレになる
  2. 現代貨幣理論(MMT)は、閉鎖経済を前提としている
  3. 現代貨幣理論(MMT)を理解せずに、現代貨幣理論(MMT)批判を試みる

 結論をいえば、どの批判も的はずれです。なぜ的外れになるのか? 現代貨幣理論(MMT)を理解できていない、ないし藁人形論法を批判に使用しているからです。

 それぞれの現代貨幣理論(MMT)批判の内容を解説しつつ、反論をします。

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現代貨幣理論(MMT)批判ケース1 ハイパーインフレの懸念

 もっともポピュラーな、現代貨幣理論(MMT)批判です。現代貨幣理論(MMT)を実施すると、ハイパーインフレになる! というものです。

 この批判には、重要な要素があります。ジェームズ・M・ブキャナンの「赤字の民主主義 ケインズが遺したもの」を、批判理論の根底にしています。

 赤字の民主主義とはなにか?

赤字の民主主義

 民主主義で一度、財政赤字を認めると永続して拡大する。なぜなら、民主主義において「与えられるなら、与えてもらいたい」という国民の動機が、原動力となる。
 一度財政政策をすると、延々と財政政策が求められるようになる。

ジェームズ・M・ブキャナン
ジェームズ・M・ブキャナン

 ブキャナンが提唱したのは、上記のような理論です。が、この理論。大きな見落としがあります。
 「民主主義ではない資本主義国家も、赤字を拡大し続ける」という事実です。
 じつは民主主義は関係ありません。「資本主義それ自体が永続的に、負債を拡大し続ける」経済形態なのです。

 実際にアメリカや日本、自国通貨建ての世界の先進国で、国債発行額が増え続けていない国家は存在しません。

財政政策の転換の難しさを主張する現代貨幣理論(MMT)批判

 ブキャナンの理論をもとに、例えば現代貨幣理論(MMT)批判はこのように展開されます。
「財政政策の転換は、現代貨幣理論(MMT)が考えるほど簡単ではない。時間がかかる。増税や財政削減も同様だ。したがってその間にインフレが進むじゃないか! 現代貨幣理論(MMT)はそれを見落としている!」

 相当に頭の悪い議論です。仮に毎年30兆円の財政出動(予算規模130兆円)をしたとします。3年もしないうちに、マイルドなインフレが実現するでしょう。
 経済成長率も名目で、4%程度にはなるのではないでしょうか。

 好景気になれば、ビルトインスタビライザー(税の景気自動調整機能)により、黒字化した企業や、所得が増えた労働者の所得税率は重くなります。インフレ抑制が、自動的に働くのです。

ビルトインスタビライザー

 また、何も130兆円→150兆円→170兆円と、予算規模をどんどん増やすわけではありません。インフレになれば政府支出は130兆円に、据え置いてもよいわけです。
 とするとこの間に、民間では生産性向上、イノベーション、供給能力の拡大が起こり続けます。

 インフレは供給<需要ですから、数年でインフレが抑制されることになります。

 そもそも……デフレ下において緊縮財政の我が国が、「一度財政出動すると、歯止めがかからない(はず)!」といわれても、説得力に欠けます。

 以下のようなパターンで、財政政策に歯止めが効かなくなるか? 考えてみてください。

  1. 積極財政でデフレ脱却をする(仮に予算規模130兆円)
  2. マイルドなインフレになったら、予算規模を前年度と同じまま継続する
  3. 民間の供給能力増大により、インフレ率が低くなる
  4. 予算規模を増やして、デフレにならないようにする

 現代貨幣理論(MMT)批判がいうような、困難なものなどなにも存在しません。むしろ「マイルドなインフレを、継続するための適正予算規模(過少にならないようにすること)」のほうが、よほど難しいかも知れません。

現代貨幣理論(MMT)批判ケース2 閉鎖経済を想定している

 現代貨幣理論(MMT)が閉鎖経済を前提としている、という批判もわずかながら聞かれます。現代貨幣理論(MMT)では、変動相場制を推奨してます。

 したがってこの手の批判は、完全に事実誤認です。

 補足として、輸出入に少し言及します。
 日本は資源輸入国です。したがって資源を輸入できるだけのドルを、輸出で稼げば問題ありません。

 積極財政によって、マイルドなインフレになったとします。内需の拡大によって、企業は設備投資や研究開発投資を増やすでしょう。
 すなわち、イノベーションが起こりやすい環境になります。これは輸出の競争力強化にもなります。

 財政出動が金利を押し上げ、円高を招くという俗説があります。商品貨幣論、外生的貨幣供給論に基づきます。
 しかしこの俗説は、間違いです。

  1. 信用創造によって、貨幣は「借りたら生まれる」
  2. したがって財政出動(政府が借りる)によって、民間資金が逼迫するなんてことは「ありえない」
  3. つまり財政出動で、金利が上昇することもない
  4. 輸出の競争力が、財政出動によって減少することもありえない

 となります。

現代貨幣理論(MMT)批判ケース3 MMTが理解できていない

理解できていない人物

 現代貨幣理論(MMT)批判で一番多いのが、「そもそも現代貨幣理論(MMT)を理解できていない」です。
 (リンク切れ)「お金がないなら刷ればよい」 現代貨幣理論を支持する反自民(SankeiBiz) – Yahoo!ニュースなどは、その典型です。

 この手の批判は「にわか知識で、流行に乗りたいから書いた」のでは? と思わずに、いられません。天下の産経でこの有様です。推して知るべしです。

理解をしないと批判ができない、という当たり前の話

 批判とは何でしょうか?

ひはん【批判】
《名・ス他》良い所、悪い所をはっきり見分け、評価・判定すること。 「本文―」

批判 – Google 検索

 見分ける、つまり物事を理解しないと、評価も判定もできません。理解しないまま噛み付くのは、「非難」といいます。

 安倍政権を批判できるのは、安倍政権を理解している人です。現実の問題を批判できるのは、現実の問題を理解しているからです。

 ではどのように理解するのか? 現実の解釈は理論や思想、経験知によって行われます。なにかに裏打ちされないと、現実を理解しているといえません。
 政治や経済は広いですから、(個人の)経験知より理論や思想が重要でしょう。

 理論や思想に裏打ちされた解釈を、認識枠組みといいます。理論や思想というフィルターを通して、現実を解釈するわけです。
 逆説的にいえば、「どのフィルターで現実認識しているか?」が明確でない人は、現実認識ができているとはいい難いのです。

 熱心な安倍支持者から、私は理論や思想を聞いたことがありません。「保守もどき」の思想(?)なら持っているようですが……。

 現代貨幣理論(MMT)批判の多くは、主流派経済学というフィルターで行われます。しかし、主流派経済学そのものが、現実にそぐわない部分が多々あると、指摘されているのは周知の事実。
 認識枠組みとは英語で、パラダイムといいます。

 現代貨幣理論(MMT)によるパラダイムシフトが、起ころうとしているのかも知れません。

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2 Comments
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omachi
5 年 前

お腹がくちくなったら、眠り薬にどうぞ。
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読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。