デフレという言葉が使われて久しい。マスメディア、報道などでもたびたび取り上げられます。多くの人もデフレという概念を理解はしているでしょう。
しかし……政治や報道を見る限りにおいて、デフレの本当の怖さを知っている人は、非常に少ないといわざるを得ません。
なぜならデフレ脱却が謳われて久しいですが、デフレ脱却を未だにできていないのがその証拠です。つまり政治もメディアも、本当にデフレ脱却をしなければ! と思っていないのです。
本稿では基礎的な部分から解説し、デフレのもたらす「国力の毀損、相対的な下落」という本当の怖さを解説します。
デフレとはどういう状態か?
デフレとは供給>需要という状態をいいます。インフレは逆で供給<需要の状態です。
需要が供給より小さいと何が問題なのか?
企業は作っても売れない=需要が小さいので、価格競争やコストカットに走ります。人件費もコストですから、当然削減されます。
企業の人件費とは労働者の所得です。
大企業は下請けに、少しでも安く作れと働きかけます。当然、下請けも売上を圧迫しながら、供給することになります。
デフレとは供給>需要であり、少ないパイを奪い合う経済環境なのです。
他にも以下のような特徴があります。
- 価格競争で物価が下落する=貨幣価値が上がる
- 貨幣価値が上がる=消費や投資をせずに、貯蓄や内部留保に貨幣が回る
- 投資の縮小=技術革新(イノベーション)が起きにくくなる
- 物価の下落以上の速度で、所得が減少する
デフレがもたらす悪循環がデフレスパイラル
デフレは一度陥ると、悪循環になります。延々とデフレが続くのです。これをデフレスパイラルといいます。
実際にデフレスパイラルを図で見てみましょう。
この図を見ると「現在は失業率も低いし、デフレではないのでは?」と思われるかもしれません。
詳細な説明は置きますが、現在の失業率の低下は団塊世代などの引退による、人口構造の変化によるところが非常に大きいのです。
しかも、実際に人手不足ならば所得の上昇が起こるはずですが、残念ながら起きていません。
GDPデフレーターなどの各種数値でも、現在はよくいっても「デフレすれすれ」、悪くいえば「デフレ」です。
デフレは国民を貧困化させる
デフレでは様々なものが連動し、所得の下落を引き起こします。所得が減れば、当然ながら消費も減少します。
これも実際に図を見ていただいたほうが、理解しやすいと思います。
1997年をピークに、名目賃金も実質賃金も下がり続けております。
1990年が100という基準ですので、1990年と比べてすら実質賃金は9割以下に落ち込んでいるのです。
デフレスパイラルで破壊される中間層
デフレスパイラルは1998年から始まりました。悪名高き消費税増税(3%→5%)が引き金になったのです。
デフレスパイラルは実質賃金を下落させ、中間層や中流層を破壊していきます。
政府が行ってきた規制緩和、構造改革、緊縮財政は「インフレ抑制政策」であり「デフレ圧力政策」です。
デフレから脱却しようとする民間を、政治が押さえつけたといっても過言ではありません。
政治によって実質賃金が下落し、日本の中間層は下流、低所得層へと追いやられているのです。
分厚い中間層を失った国家は、基本的に経済成長率が落ちるようです。中間層による豊富な需要が存在しなくなるのです。
デフレ脱却に必要な政策とは?
デフレ脱却には財政政策、つまり政府支出の拡大しか対処法は存在しません。実際に「金融緩和でデフレ脱却!」といっていたリフレ派の結果は、無残なものでした。
先程も申し上げましたが、規制緩和、構造改革、緊縮財政は「インフレ抑制政策」ないし「デフレ圧力政策」です。
規制緩和や構造改革は、競争の激化を招きます。したがって行き着く先は、価格競争でしかないのです。
緊縮財政は「政府の需要の削減」です。供給>需要の状態で、さらに需要を減らせば当然デフレは加速します。
したがって政府による需要創出しか、デフレ脱却の処方箋は存在しません。
合成の誤謬と民間の合理的行動
デフレスパイラルの渦中では、物価の下落=貨幣価値の上昇が発生するので、投資や消費をせずに貨幣を所持していたほうが有利となります。したがって民間企業や個人といった経済主体は、内部留保や債務返済に励むことになります。
しかしデフレ下では、上記の企業や個人の行動は”合理的”なのです。
合理的に個々の経済主体が動いた結果、デフレが加速することになるのです。このような現象を「合成の誤謬」といいます。
合成の誤謬が発生している状態では、民間だけではデフレ脱却は不可能です。したがってデフレ脱却の処方箋は、政府による積極財政、つまり需要創出しか存在しないのです。
デフレの本当の恐ろしさは国力の低下
デフレは所得を下落させ、需要を縮小させると申し上げました。これ自体も困ったことなのですが、本当の恐ろしさは「国力を毀損させ、相対的に低下させる」という点にあります。
例えば隣国の中国とGDPを比べてみましょう。
日本が経済停滞している間に、中国は日本の3倍といわれるGDPに成長したのです。相対的に見れば、日本の国力が低下したというわけです。
また世界経済における、日本のGDPシェアも見てみましょう。
GDPシェアで見ると、1995年と比べて現在は3分の1、2040年には5分の1程度の国力になるのです。
デフレとは、日本の安全保障を考える上で「悪夢のような」状態なのです。
本当のデフレの怖さとは「国力を相対的に下落させること」なのです。