創造的破壊という言葉を、一度ならず聞いたことがあると思います。日本では一般的に「創造的破壊とは破壊したら混沌の中から、なにかが創造される」というようなイメージが流布しています。
イノベーションや技術革新の議論をすると、すぐさま「古いものをぶっ壊せば、新しいものが生まれる!」というような意見が散見されます。
例としては「既得権益をぶっ壊せ!」や「岩盤規制の打破でイノベーション!」、「大阪市を解体して大阪は成長する!」などです。
本当でしょうか? 経済学者のシュンペーターが唱えた創造的破壊の、本当の意味を解説していきます。
またイノベーションや技術革新がどうして起こるのか? についても解説します。
創造的破壊の本当の意味とは?
創造的破壊とは端的にいえば、「新しいイノベーションや技術革新が起こると、旧来のものが駆逐されていく様」をいいます。
スマホというイノベーションが起きて、カメラやガラケーといった市場は衰退しました。ガラケーに至っては破壊的に衰退したといえるでしょう。
このようにあるイノベーションが創造されたことで、旧来の市場や雇用が破壊されていく様を、創造的破壊といいます。
表現を変えれば「イノベーションが、旧来の市場に取って代わる様」を創造的破壊といいます。
「破壊したから、創造されるはず」は明らかな誤用、誤解です。イノベーションが先にあり、結果として旧来の市場や、そこに依存していた雇用の破壊が起きるだけなのです。
嘘だ! とおっしゃるなら、まずはあなたの家を破壊してみてください。なにもイノベーションは生まれないはずです。
規制緩和と市場競争でイノベーションは起きやすくなるのか?
イノベーションや技術革新についても、日本では誤解が根強いようです。「自由競争をしたらイノベーションが生まれる! よって自由競争強化のために規制緩和だ!」というような議論がよく見られます。
上記はまったくもって間違いです。
例えばインターネットやPC、電子レンジ、GPSからサランラップに至るまで、最初は軍用に生まれたイノベーションは数知れません。
では軍用で生まれたイノベーションは、自由競争の下で生まれたのか? そんな訳はありません。政府が有用だと目をつけて、予算をつけたから生まれたのです。
例としては次々とイノベーションを生むハイテク国家イスラエル | SmartDrive Magazineという記事がよいでしょう。
イスラエルとは軍事が盛んな国家ですが、だからこそイノベーションが次々生まれるのです。
イノベーションとは投資や予算から生まれます。研究開発に予算がなければ、イノベーションは生まれようがありません。
そして大企業より大きな予算をつけられるのは、国家です。したがって軍事研究開発からイノベーションは起こりやすいのです。
逆に規制緩和や構造改革、市場原理主義は小さな政府を求めます。規制緩和や構造改革、市場原理主義では、イノベーションはかえって起こりにくくなるのです。
ベンチャー企業でイノベーションが起こるという勘違い
アメリカを例にして「日本にはGoogleやマイクロソフト、アップルのような会社がない! ベンチャー企業が少ないからだ!」という議論をよく見かけます。
この手の論者はアメリカに、過大な幻想を抱いているようです。
真説・企業論 ビジネススクールが教えない経営学 (講談社現代新書)(著:中野剛志さん)によれば、1980年代からアメリカの開業率は下がり続け、2009年以降の開業率は1980年以前の半分程度とのことです。
さらに衝撃的ですが、アメリカの自営業率は日本にすら劣っているのだそうです。OECD諸国の中でも、アメリカの自営業率は低いとのこと。
また起業家たちの殆どは中年で、業種はハイテク産業ではなく小売や建設業といった、一般的な”泥臭い商売”だそうです。
日本でもそうですが、ベンチャー企業の平均継続年数は、アメリカでも5年程度だそうです。日本でも10年続く起業は全体の1割未満といわれます。
日本でもアメリカでも、イノベーションの大半以上は大企業が起こしているのです。
ベンチャー企業幻想は、単に成功例が大体的に取り上げられ、数多の失敗例は取り上げられないためです。
デフレでイノベーションは起きないという残酷な事実
デフレとは供給過多>需要過少の状態であり、企業は売上のめどが暗いので、コスト削減に励みます。したがって研究開発費も削減されます。
またイノベーションに向かうための投資とは、投資したら必ず結果が出るものでもありません。不確実なのです。
デフレという状況では通貨価値が上がりますから、企業は債務の返済や、内部留保に回します。なぜか? 確実にそのほうが得という合理的判断です。
このデフレ状況を作り出したのは、緊縮財政・規制緩和・構造改革の3つです。すなわち日本人は「イノベーションだ! 技術革新だ!」と唱えながら、イノベーションが起きにくい環境づくりに力を注いだ、といえます。20年間も、です。
この度に誤用されてきたのが「創造的破壊」という言葉です。「ゾンビ企業をぶっつぶせ!」なんかは、そのよい例です。潰したら、なにかが創造されると勘違いしたんですね。
実際に日本で、なにか大きなイノベーションはこの20年間で起きましたか? 大企業の苦戦をみれば答えは明白です。
イノベーションを起こすにも、デフレ脱却が”確実に”必要なのです。