渡邉美樹議員がブロゴスに「悪魔のささやき」MMT理論という記事を載せました。本稿ではこの記事を詳細に分析し、「それは理屈がおかしい」と反論したいと思います。
反論を通して、読者の皆様にも「現代貨幣理論(MMT)ってこうなのか」と、知っていただきたく思います。
最初に一読した感想だけ書きます。
「渡邉美樹議員の文章が、いろいろと怖い。猛反論とか言って、反論すら成り立っていない件」
渡邉美樹議員の現代貨幣理論(MMT)批判記事の構成
たいして長くもないので「悪魔のささやき」MMT理論は、全文読んでいただいたほうがよいかもしれません。
渡邉美樹議員の現代貨幣理論(MMT)批判の構成はこうです。
- 自分は5000万円を借りて、35年前にワタミを始めたとの書き出し
- 現代貨幣理論(MMT)の「インフレ制約」が抜けた要約
- 「デフレで金利も上がらないのだから、MMTでよくね?」という意見を否定
- 渡邉美樹議員の理論によれば、好景気の時には公共事業をやると効果があるらしい
- 成長してない国が積極財政をすると、つぶれるとの珍説
- 当座預金のお金が使われていないから、インフレにならないのだ! 出て行ったらハイパーインフレだ!
- インフレと金利アップで国がつぶれる!
- 財政規律だ! 借金はいけないのだ!
- 自分のビジネスの経験で、この記事は裏付けられている
……みごとに「ビジネスの感覚で、国家を運営できると勘違いしてる人」です。1つずつ、反論していきましょう。
インフレ制約が抜けた現代貨幣理論(MMT)説明は、現実否認
この頃、「MMT(現代貨幣理論)」という財政赤字容認の経済理論が話題に持ち上がっている。ニューヨーク州立大学のケルトン教授らが提唱する説で、自国通貨発行権を有している国は、財政赤字に陥っても通貨を発行して債務返済すればいいので、債務不履行(デフォルト)は起きない、ようは「いくら借金をしてもいい」という理論だ。
見事に「財政制約はインフレ率」という現代貨幣理論(MMT)の説明が抜けています。
日本の現代貨幣理論(MMT)批判のほとんどは、このタイプに絞られます。つまりストローマン論法、藁人形論法です。
政治家や経済学者、自称エリートのメディアが「議論の作法すら知らない」って怖い話ですね。
デフレなのにインフレを心配し、ハイパーインフレを心配する渡邉美樹議員
一部の政治家の中には、「ではMMTで行こうではないか」という人もいる。「借金をして、新幹線や道路をつくり、公共投資でお金をばらまけば、景気が良くなる」と理論を正当化するが、それ(公共事業:筆者編)は経済が右肩上がりの場合に限られ、正しくない。
……もはや「何を言っているんだ?」と開いた口がふさがりません。
現在はデフレ、供給>需要で困っているわけです。これを打開するためには、政府支出により需給ギャップを埋めるしかありません。
逆に好景気、インフレとは供給<需要であり、そんなときに政府が積極財政をすれば、インフレが過熱します。
まさに「……お前は何を言ってるんだ?」の典型例です。
MMTには「インフレにならない限り」という条件がつく。現状、日銀が金融緩和を進めても、お金は、日銀の当座預金にたまったままで、流通していないためインフレにならないだけだ。これが出ていってしまったら、インフレは止められない。
「インフレにならない限り」ではなく、「インフレ率によって、緊縮財政を選択することもある」だけです。
ただ「日銀当座預金に豚積みで、インフレにならない」という指摘は当たっています。
赤マーカー部分ですが、なぜインフレが止められないのか? について説明はありません。
おそらく、政府支出の縮小や金融引き締め、増税などの手段でインフレがコントロールできる、とは知らないのかもしれません。
ちなみに資本主義国家は、インフレで”当たり前”です。
渡邉美樹議員は、アメリカが100兆円の公共事業をやるとぶち上げたときに、「そんなことをしたら、アメリカがつぶれるぞ!」と言いましたでしょうか? (笑)
インフレになり金利が上がれば、借金が返せなくなる!
インフレになり、金利が上がれば、借金が払えなくなるので、日銀も国も破産してしまう。金利を抑え、経済成長を上げていくことが、この国の経営者たる国会議員の本来の仕事である。
ここに至っては狂気じみております。なぜなら最初に、現代貨幣理論(MMT)の要約で「自国通貨建ての負債は、自国通貨で返せるから、借金してもよいという理論」と紹介したにもかかわらず! です。
これではそもそも、渡邉美樹議員の言葉は反論になっていないのです。
なぜなら、これまで理論的反論はみられず、むしろ藁人形論法を使う始末で、主流派経済学者が見ても赤点を出す論理展開です。
そのうえで最後に「借金はダメったらダメなの!」ですから、「MMTに猛反論する」と最初に宣言したものの、反論らしき反論をできていないのです。
国会議員で経営者だったのに、ロジカルシンキングができないんでしょうか?
まさに財政破綻論者のテンプレート記事の典型例と言えるでしょう。
企業会計や家計感覚で、国家運営をされても迷惑なだけ
今回は渡邉美樹議員を取り上げましたが、渡邉美樹議員のような「家計簿感覚、企業経営感覚で国家財政を考えている」という国会議員は、珍しくありません。いえ、むしろほとんどといってよいでしょう。
国家の財政運営は、通貨発行権がある時点で「企業会計や経営、家計」と異なるのです。
それすら認識していない国会議員が、大量にいます。
我が国の国会議員のレベルなんて、実際にはこの程度なのです。
どんな政策(緊縮や規制緩和以外)にも、予算はつきものです。本来、「この政策をやるために、国会議員になった!」という人であれば、現代貨幣理論(MMT)は魅力的なはずです。
なにせ、インフレが過熱しなければ、予算制約がないのですから。
しかしどうやら我が国の国会議員の大半は、「緊縮財政がやりたいから、国会議員になった!」と考えたほうがよさそうです。
デフレ下での緊縮財政とは、すなわち「国民を貧困化させること」に直結します。
渡邉美樹議員はMMTを「悪魔のささやき」と表現しましたが、現状のまま突っ走るほうがよほど「悪魔的」でしょう。
その国会議員を選んでいるのは国民。すなわち、我が国日本は国民自ら、貧困化したがっているのでしょうか。
国民は現代貨幣理論(MMT)に触れて、積極財政を叫ばなければなりません。貧困化したくないなら、ですが。
※1997年に比べて、家計所得はすでに130万円減少しているようです。
現代貨幣理論(MMT)に触れるには、この一冊。世界でいちばんやさしい、現代貨幣理論(MMT)と信用貨幣論の本です。