ケルトン教授と現代貨幣理論 失業が社会的コスト、損失である意味

 3月から現代貨幣理論(MMT ModernMonetaryTheory)の記事が出始めたと思ったら、今や日刊現代貨幣理論(MMT)といった様相です。

 現代貨幣理論にはいくつかの理論がありますが、現代貨幣理論にとって根幹の考え方、概念を解説したいと思います。
 「失業は社会的損失とコストである」とはなにか?

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ケルトン教授のインタビュー記事の重要部分

 朝日新聞の単独取材に、来日していたケルトン教授が答えた記事があります。
日本学び「財政赤字恐れるな」 米「伝道師」の異端理論:朝日新聞デジタル

 ――巨額の財政赤字を出し、政府は何をすべきだと?
 「政府支出を増やせば失業者が経済活動に戻り、生産量も増えます。財政赤字はしばしば、その国が実力以上の暮らしをしている証しだとみなされます。しかし実際は米国も日本も、人材や資源をフル活用できておらず、実力よりもだいぶ低い生活水準に甘んじています。インフレが怖いからと完全雇用を目指さないなら、失業の経済的・社会的コストはどうなるのでしょう」

マーカーなど筆者編集

失業による社会的コスト、損失とは

 上記引用部分での「失業の経済的・社会的コスト」とは、別に失業者を責めているわけではありません。
 失業を生み出すと、社会的な損失だという意味です。

 現代貨幣理論(MMT)では、貨幣はクーポンと考えます。
 クーポンを何枚渡したか? もらったか? 数枚程度なら現物で間に合いますが、数万枚となればどうでしょう?
 お互いに「クーポンをAさんに何枚渡した」「クーポンをBさんから何枚もらった」と記帳しておくことになるでしょう。これが銀行口座などです。

 しかしクーポンがいくらあっても、そのクーポンに見合う生産がなければ、クーポンは価値を落とします。
 逆にクーポンを出し渋って、生産が落ちていることは損失です
 ケルトン教授のいう「失業による経済的、社会的コスト」とは、クーポンを出し渋って、生産が落ちている現状を指しているのです。

ノウハウは積み上げなければ、失われていく

 モノやサービスの生産には、ノウハウが必要です。技術的なノウハウだけでなく、人間関係における協調性やマナーなども、ノウハウの一部です。

 例を挙げると、引きこもりという現象が問題になっていました。なぜ問題になったのか? 彼らが「人間関係におけるノウハウ」を喪失してしまったのが、問題の根本要因の1つでしょう。

 ノウハウとは、常日頃から生産やサービス、社会に触れることで積み上げるものです。逆にいえば、触れなければ失われていくのです。

 例えば、あなたは今の仕事のノウハウを持っています。3年間その仕事から離れ、何もしてなかったとしましょう。
 3年後に同じ仕事を、3年前と同じ水準でこなせるでしょうか? ほとんどの人は「無理だ」と答えるでしょう。

 ノウハウは常日頃から発揮し続けなければ、失われます。
 したがって失業とは、社会全体からノウハウの一部が失われる損失、コストなのです。

緊縮財政ではイノベーションも起きにくくなる

 ケルトン教授が主に答えたのは、失業による社会的損失でした。失業の社会的損失が、一般的にはイメージしやすいからでしょう。

 緊縮財政下では、基礎研究などの「まだお金にならない研究」が削られます。
 基礎研究や技術研究などの分野は、下手すれば数十年後にようやく花開くものです。短くても数年~10年はかかるものでしょう。
 実際の商品化までは、もっとかかることだと思います。

 基礎研究などを、政府の財政赤字を理由に打ち切ればどうなるか? 研究に対するノウハウは失われ、将来起きていたかもしれないイノベーションを、起こせなくなるのです。
 大きな社会的損失と言わざるをえません。

現代貨幣理論(MMT)がJGP(雇用保障プログラム)を推す理由

 現代貨幣理論(MMT)は、基本的に政策提案をしません。現代貨幣理論自体は、現実の金融構造を詳らかにするものだからです。

 その現代貨幣理論から、珍しく提案しているのがJGP(雇用保障プログラム Job Guarantee Program)です。

 詳しくは雇用保障プログラム-Job Guarantee Program(JGP)-とは?ベーシックインカムと比較してみるを、お読みください。

 簡潔に説明すれば、全ての失業者に、最低賃金での仕事を保証する、という政策提案です。JGPによって、最低限の生活と仕事は政府によって保証され、ノウハウの喪失も最低限にしようというものです。
 また企業はJGPを意識せざるを得ないため、雇用の際の所得は最低賃金を上回るだろう、という予測も入ります。
※企業まで最低賃金で雇用していたら、その企業で働くインセンティブがなくなる。JGPでいい、となる。

 失業者がいなくなるメリットは、無数にあります。代表的なメリットを見てみましょう。

  1. ホームレスはいなくなる(自分からホームレスしたい人だけは別)
  2. いつ仕事をやめても、最低限の収入は保証される
  3. ブラック企業よりも、JPGというインセンティブが働き、ブラック企業が減少する
  4. 雇用環境の改善、所得の上昇が見込まれる
  5. 失業がなくなることで、社会全体の生産が上がる
  6. ノウハウの喪失が最低限になる
  7. 失業による精神的ダメージを軽減できる

 JGPへの批判の多くは「政府の赤字はどうするんだ!」というものでしょう。
 逆説的ですが、現代貨幣理論(MMT)は貨幣を「単なる記録、数字」と捉え、それより人々の仕事と生産と所得が重要だ、と考えている証左です。

P.S 進撃の庶民OPができた模様

制作者:‟進撃の庶民”OP(非公認)を作ってみました。 | 門前小僧、習わぬ今日を読む
 公認でOKですヽ(=´▽`=)ノ@管理人に慣れない私

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2 Comments
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黄昏のタロ
4 年 前

お邪魔いたしますです。

>>失業による社会的コスト、損失とは

 突っ込みみたいで恐縮なのですが、生活保護費が抜けていると思います。失業者に雇用保険を支出して、それでも職が見つからなければ生活保護費を支出しなければならなくなります。
 生活保護費を支給するコストに比べたら、利益の出ない職でも幾分かプラスになるです。JGPは生産性が有りGDPに貢献するものでなければ意味がないと言うのを見かけます。働けるのに生活保護って状態から考えたら、仕事の内容は二の次かなと考えてるです。