異世界は召喚されし者に優しくないep9 これは狩りなんかじゃない


 むせ返るような草木の匂いの中で、サトルたちは太陽の暖かさとともに目を覚ます。
 夏とはいえ夜は冷えるので、それぞれマントにくるまって過ごした。見張り番で起きていたミナト、ヒナタは起きてくるサトルたちに挨拶をする。
「おはよーっす~」
「お、起きたっすか? おはよっすわ~」

 ツバサはまだ夢の中なのか、むにゃむにゃと寝言をつぶやいているのをユウイチロウが揺すって起こす。ダイチはいそいそと朝食の支度を始める。
 なんとも平和な光景だ、などとサトルは1人思う。昨日の血なまぐさい初実戦が嘘のような光景だ。

 ダイチは昨日のキジのローストとウサギのスープを温め直し、黒パン、タラゴンという野草を入れたお茶を用意した。
「さぁ、出来たよ。たべよう」
 ダイチがみんなにお茶を入れて配る。
「あ、このお茶……ほのかに甘い香りがしますね」
「ええ、ユウイチロウさん。なんだかスッキリします」
「よかった、口にあったみたいで」
 ユウイチロウ、サトルには美味しく感じたのだが、ヒナタやツバサは少し苦手なのか? ちびちびと飲んでる。

「さて、今日は昨日よりも時間がたくさんあります。成果をもう少し上げてから帰りたいところですね」
 ユウイチロウが朝食を食べながら、みんなを見渡して告げると、全員が頷く。

 今日は持ってきた水も心もとなくなってきたので、林の中まで入る予定にしている。このあたりはゴブリンの他にも、稀にホブゴブリンが出現すると報告される。
 魔獣などもいることにはいるのだが、大型生物がこのあたりには生息しないので、魔獣化していたといっても知れている、というのが教官たちの言だ。
 昨日の実戦はサトルたちに、一定の手応えと自信を与えていた。獲物(・・)さえ見つければ、成果をあげられると。

「ゴブリン3匹で、どのくらいっすか?」
 ヒナタの質問にサトルが応える。
「えっと……確かゴブリン1匹討伐で銅貨50枚じゃなかったかな?」

「サトルさん、どれくらいあれば1ヶ月の生活費がまかなえるんすかね~」
 ミナトも質問してくる。ミナトはチャラいように見えて、生活のこととなると案外堅実だ。
「家賃が銀貨4枚、装備の手入れとかも必要だし、食料や調味料も必要だし……1人銀貨7枚は最低でも必要だよね」
 こうサトルがミナトに応えると、ミナトがブツブツとゴブリン単価なる言葉を使って計算をしている。
「ゴブリン単価銅貨50枚……銀貨7枚は必要で~……1人ゴブリン14匹ですよね~。
 銀の誓約全体だと84匹すよ~! 1日に……休みなしで3匹? 案外楽勝ぉ~?」
「いえいえ、ミナト。サトルが出したのはあくまで”最低限”でしょう?
 休みは必要ですし、経費ももう少しかかると見ておいたほうがいいですよ。
 7日に1日休むとしても、1日に6~7匹の成果は最低でも必要になってくるんじゃないでしょうか?
 ――いえ、怪我などのリスクも考えると……もう少し欲しいですね、貯蓄も必要でしょうし」
「そうだね……ユウイチロウさん。料理道具も、もう少し欲しいし」
「ぼ、ぼっ! 僕はローブ! ローブ欲しい!」
「ツバサ? ローブはいつ使うの……」
 ダイチの料理道具はいいとしても……と、サトルはツバサに思わずツッコミを入れる。

 ヒナタの何気ない質問から、ずいぶんと生活感のある会話になってしまったものだ。
 たった3ヶ月間で銀の誓約は、いや召喚されし者たちは、ずいぶんとこちらの世界の”概念”に染まってきている。ゴブリンとはいえ、生き物を躊躇なく殺すことを、前提とした会話なのだから。

「さて、話も一段落ついたところで行きましょうか。今日は10匹を目標にしてみませんか?」
「そのくらいなら、大丈夫だと思うよ」
「そうですね……昨日よりは緊張しないでしょうし」
 ユウイチロウの発言にダイチ、サトルが賛同を示して、銀の誓約は林に向かう。

「ヒナタ、どうですか?」
 ユウイチロウの問に、ヒナタは頭をかきながら応える。
「うーん、ちょっと林はわかりにくいっすわ―……気配が。川の音はあっちからなんで、とりあえずそっち? つー感じっすわー」
「僕もちょっと……痕跡は今の所は見当たらないですね」
 ヒナタの兵種である軽歩兵や、サトルの軽装戦士は斥候の役割も担っている。弓兵を含めたこの3つの兵種では、魔術の身体強化を視覚、聴覚、嗅覚、直感のみに集中させる技術が必須だ。
 地面に残る足跡、糞、草木や枝の折れ曲がった方向などから、魔獣や亜人種を追跡するのだ。

 仕方がなく銀の誓約は、川沿いを歩いていく。ツバサは緊張感なく、拾った石を川に投げて遊びながら歩いている。
(まあ、ずっと緊張しっぱなしでも駄目だろうし。ユウイチロウさんが注意しないのも、同じ考えなんだろうな)
 サトルはツバサを眺めながら思う。

「ちょっと休憩しましょうか……。ダイチさん、少し早いですがご飯でいいですか?」
「大丈夫だよ、ヒナタが仕留めてくれた子鹿の肉もあるしね」
「俺、狩り適正あるっすわー! ミナトさん、俺を褒めるっすわ―!」
「はいはい、ヒナタすげーですね~。神様、女神様、ヒナタ様~」
「すごいよね、ヒナタ」

「……あ、あっ! あの! あれ! あ、あれ!!」
 ユウイチロウ、ダイチ、ヒナタ、ミナト、サトルがバカ話をしている最中に、川沿いで石投げをしていたツバサが素っ頓狂な声を出して、何かを指差す。
 ユウイチロウ、ダイチが即座に大盾を装備してツバサの近くに駆ける。サトルたちもその後に続く。

 ツバサが指差している東の方角から、あがっている狼煙は赤色。緊急時か異常事態に、班が火魔術を使ってあげる煙玉の色。

 ユウイチロウはやや迷う。なにが起こってる? 場所は遠くない。
「……みなさん、どうしましょうか?」
「行ったほうがいいんじゃないっすか?」
 珍しくヒナタがユウイチロウの問いに、真っ先に応える。
「様子を見るだけでも、したほうがいいかもね」
「そうですね……情報を持ち帰るのは義勇兵の基本ですし」
「ダイチさん、サトルさん……嫌な予感がするんですけど~!」
「ぼ、ぼっ! 僕も行きたくない!」
 ミナト、ツバサはどうやら反対のようだ。銀の誓約の中で意見がまっぷたつに分かれるのは、珍しい。ダイチが「まぁまぁ……様子見だけなら、大丈夫だよ」と2人をなだめる。

「とりあえず……様子を見て危なそうでしたら撤退。出来る限りの情報は持ち帰りましょう。
 サトル、ヒナタは周りへの警戒を最大にしてください。行きましょう!」
 ユウイチロウが告げると、ヒナタ、サトル、ダイチは緊迫した面持ちで頷き、ミナトは苦虫を噛み潰したような顔で、珍しく不満を表しながらも頷く。
 ツバサはかなり憂鬱に「こ、こっ……怖い」と身震いしている。

 行軍が始まる。いつもどおりダイチが先頭、ユウイチロウが後方を固め、サトル、ヒナタが外側を固める。みんな急いている。
 狼煙の上がった場所に何があるのか? ここはゴブリン草原。大したものがあるはずがない! と誰もが繰り返し、自分のうちからせり出てくる恐怖に対して、そう応える。

「ストップっすわ! ……戦闘音っす。多いっす」
 小声でヒナタが銀の誓約を制し、サトルに目配せする。
「そうだね、ヒナタ……数がかなり多いね。20……いや30以上かな?」
「そうっすね……これ、やばないっすか?」
 ユウイチロウが指をさす。
「あちらの小高い場所から、偵察しましょう」
『はい!』

 丘の木陰から身を潜めつつ戦闘音のする方角を物見する。ミナトの顔は引きつり、ユウイチロウすら顔をしかめる状況が見える。
 見覚えのある義勇兵たちだ。同期の――寮舎の炊事場でダイチの料理を、訓練初日にがっついていた中にいた。

 2班12名中、すでに3名が戦闘不能、もしくは死んでいる。重装戦士が前に出てそれでも受け止められず、大盾を装備した魔術兵までが前衛に駆り出されている。
 ゴブリンの数は残り20匹以上。なかでも体躯の大きなあれは、おそらくホブゴブリンだろうとユウイチロウたちは当たりをつける。

 ユウイチロウは思案する。ホブゴブリンにはぐれはほとんどいない。魔人軍にほぼ組み込まれている、と教官たちからは教わっている。現にあのホブゴブリンたちは、粗末ではあるが鉄製の装備を身に着けている。
 銀の誓約が戦闘に加わって、義勇兵の戦闘可能人数は15人。ゴブリンだけなら問題ない。しかし……ホブゴブリン3匹が大問題だ。ユウイチロウはサトル、ダイチに問いかける。
「知っている顔がいますし、見殺しにはしたくありません……が、銀の誓約の生存が前提条件です。なにか良い案は?」
「僕も見殺しは嫌だな……」
「あの……」
 ダイチが同意し、サトルが口ごもる。
「サトル、なにか? 言ってみてください」
「……今の僕たちの位置はちょうど、敵ゴブリンの側面です。奇襲での撤退支援は出来るかも知れません」

 ユウイチロウはまたも思案する。それしかない、がそれでも危険は大きい。一撃離脱は可能か? 最低でもホブゴブリン1匹を葬らないと、撤退支援とはならないだろう。下手をすれば、銀の誓約も撤退戦に巻き込まれるハメになる。

 再びユウイチロウがサトルに問う。
「作戦は?」
「まずミナト、ヒナタ、ツバサは後方近くに回り込み、ゴブリンたちを遠距離から攻撃。
 その攻撃と同時にユウイチロウさん、ダイチさん、僕が側面から一撃離脱でホブゴブリン1匹を狙えませんか?
 幸い手前のホブゴブリンまでは、ゴブリン3匹も倒せばたどり着けます」
「なるほど……2つに分けますか……それでいきましょう! みなさんもそれでお願いします。
 私達3人が失敗した場合は、遠距離組3人はすぐに撤退を開始してください。
 なあに――ダイチさん、サトルとなら連携はバッチリですから、私達も撤退できます」

 ヒナタが悲痛な表情でユウイチロウに訴える。
「お、俺も行くっすよ! 俺だっていけるっす! ユウイチロウさん! サトルさん!」
「ヒナタ……君はミナト、ツバサを守りながら撤退しなけりゃならない。君がそちらにいないと、ミナトとツバサはどうなる?」
「そうだよ、ヒナタ? ミナトとツバサのことをよろしくね」
 サトルとダイチがヒナタに諭す。

 銀の誓約年長組は過去に話し合っていた。危機はかならず来るだろうと。そのときに優先して逃がすのは、ヒナタ、ツバサ、ミナトだと。
 特に少年とも言える年齢のヒナタ、ツバサは必ず生き残って欲しい。それがユウイチロウ、ダイチ、サトルで話し合ったことだった。
 だから、それをやるだけのことだ。

「ミナト、遠距離組の作戦指揮は任せます! サトルが前衛組の指揮をしてください! 私は最前衛で指揮どころではなくなるでしょうから」
 ユウイチロウが指示を出し、ダイチが吠えるような表情で言う。
「行こう! みんな! 同期は見捨てられない!」
「はい!」
「ういっす!」
 サトル、ミナトは応えるものの、ヒナタとツバサは悲痛な表情で頷くだけだ。17歳の少年たちには、割り切れるものではないのだろう。

「ヒナタ……ミナトとツバサを頼んだよ? ツバサもミナトの言うことをよく聞くようにね?」
 サトルが穏やかな表情でヒナタとツバサに言葉をかける。
「……うす」
「……わ、わかった」

 銀の誓約が配置につく。戦闘中の義勇兵たちの戦闘不能者はまだ3人のようだ。
 ミナトたち遠距離攻撃組は後方近くの側面に回り込む。距離にして標的まで30メートルほど。

「礫(つぶて)よ我に集え、我に従え、瞬速をもって我らの敵を打ち払え! 石礫!」
 ミナトが魔術式の詠唱に入ると同時に、ツバサは弩を構え、ヒナタは弓をぎりぎりと引き絞る。

 遠距離組の攻撃が始まると同時に、前衛組がホブゴブリンめがけて疾走しながら魔術式の詠唱を開始する。
『巡れ力よ、我が体内を……輩(ともがら)を守る盾となり、敵を打ち払う剣となれ! 身体強化!』

 みるみる間にゴブリンたちとの距離は縮まり、10秒もせずに会敵した。ヒナタの矢が、ミナトとツバサの魔術がユウイチロウ、ダイチ、サトルたちの道を切り開いていく。
 サトルは妙に冷静に、心の中でごちる。
(これ、立案しておいてなんだけど……囲まれたら終わりだな)

「ふんだらばぁぁぁあ!!」
 ホブゴブリンはこちらに気がついたが、先手必勝でダイチが仕掛ける。ダイチの戦斧を剣で受け止めきれずにホブゴブリンはたたらを踏む。すばやくユウイチロウが大盾ごとホブゴブリンに全身でぶつかると、サトルはユウイチロウの左側面からホブゴブリンに近づき、長剣による刺突を首にお見舞いする。
 ザクッと嫌な感触がサトルの手に伝わる。

「援軍だ! 今だ! 切り込め! 仲間の仇だ!」
 正面からゴブリンたちの攻撃を受けていた義勇兵の1人が、サトルたちにとって予想外の行動に出る。ちょっと待って!! とサトルは叫びそうになる。撤退戦ではなかったのか! と。
 その戸惑いが指示の遅れとスキを作る。

「ゲギャ! グギャ!」
 サトルはゴブリンの石斧に切りつけられ、胴体に衝撃を覚える。革鎧はもったものの、肋骨あたりに痛みが走り、思わず膝をつく。
 飛びかかってきたゴブリンにユウイチロウが戦鎚を見舞い、サトルのカバーに入る。ダイチはすでに戦斧を振り回して、ゴブリンを数匹屠っている。

「サトル、大丈夫ですか! くそっ! なぜあの2班は撤退戦を継続しない!」
 ユウイチロウは珍しく、他班の悪態をつく。
 サトルはユウイチロウにカバーされながら、痛みに耐えて周りを観察し思考を巡らせる。
 現在はゴブリン15匹に、ホブゴブリン2匹で戦力比では義勇兵に分が悪い。撤退戦継続が最善の判断だったはずだ。
 しかし班員を失った他班の義勇兵たちに、引く気配は微塵も感じられない。
 ゴブリンたちは突然の側面攻撃に混乱が見られる。遠距離組へ手勢を差し向けないのが、その良い証拠だ。
 問題はホブゴブリンの1匹がこちらに向かってきており、正面からの衝突になることだろう。安全マージンが少なすぎる。
 他班の義勇兵が、もう1匹のホブゴブリンを葬り去れば形勢は有利に傾く可能性もある。
(どうする? 何が正解だ?)

「サトル! ホブゴブリンは僕が相手をするっ! どっこいしょぉ!」
 戦斧を振り回し、大盾を叩きつけながらダイチが吠える。
「……っ! ダイチさん、お願いします! ユウイチロウさんは僕と、ダイチさんの支援に!」
「やるしかないみたいですね!」

 一方でミナトも苦悶していた。
(マジか~……! 一撃離脱のはずが、他班が撤退しないとか予定にないしっ!)
「ミナトさん! どうするんすかっ!? やばいっすわ!」
「ど、どっ……どうするの?」
「しょうがないっすね~!! ヒナタ! ツバサ! 距離を縮める! 前衛は僕! 少しでも牽制を強力にしないと、ユウイチロウさんたちヤバいかも~っ!?」

 茂みからジリジリと距離を縮め、命中率重視で牽制を継続することを決断した。混乱に乗じてゴブリンたちを削がなければ、ミナトたちの遠距離組も撤退戦が出来るかどうか? わからない。
 ヒナタの矢は1射、また1射とゴブリンに手傷を与え、ミナトとツバサの石礫がゴブリンたちの混乱に拍車をかける。

「ツバサ、ヒナタ! あのダイチさんに向かっているホブゴブリン周辺に攻撃を集中!」
 ミナトが2人に指示を出す。サトル、ユウイチロウがダイチの支援をしやすくするために、ゴブリンたちから15メートルの位置に陣取る。

 向かってきたホブゴブリンとダイチがぶつかる。ホブゴブリンは身長こそ160センチだが、筋肉の盛り上がりが、遠くからでも確認できるほどだ。装備は革鎧に大盾、鉄製の剣。
 ダイチの戦斧の一撃を、ホブゴブリンが大盾で防ぐと同時に、剣をダイチに向けて横薙ぎする。思いの外重い一撃に、ダイチは苦悶の表情を浮かべる。

 ホブゴブリンは横薙ぎから一転、刺突、袈裟斬り、唐竹割りと、猛烈なスピードで剣技を繰り出す。大盾でいなそうとするも、ホブゴブリンのスピードについていけず、所々に切り傷がにじむ。
「ぐぅ……! でも……! 負けられない!」

 ユウイチロウ、サトルもゴブリンに手こずっていた。4匹のゴブリン相手に手数が足りない。2つの他班の義勇兵たちもホブゴブリン、ゴブリンの連携に手こずっているようだ。
「くぅ……自分たちで突撃しておいて、この有様ですかっ! さっさとホブゴブリンを無力化してほしいものです!」
 ユウイチロウが他班の悪態をつきながらも、切りかかってきたゴブリンの一撃を防ぎ、戦鎚で袈裟斬り気味にダメージを与える。
 すでにいくつかの打撲、切り傷を抱えながらもユウイチロウは懸命に戦う。

「本当です! かなりマズいかも知れませんねっ!」
 サトルは右脇腹をかばいながらも、刺突を繰り出して1匹のゴブリンを屠る。すかさずユウイチロウがサトルのフォローに入って、ゴブリンの攻撃を防ぐ。
「サトル! さっさとあと3匹片付けて、ダイチさんの加勢にいきますよ!」
「はいっ!」

「ちょっ! ヒナタ! 駄目だって~っ!」
 ミナトが静止する暇もなく、ヒナタはダイチの窮状を見かねて飛び出した。短弓を放り出し、短槍にもちかえて疾走しながら、魔術式の詠唱をした。
「巡れ力よ、我が体内を……輩(ともがら)を守る盾となり、敵を打ち払う槍となれ! 身体強化!」

 15メートルの距離をほんの数瞬で移動し、ホブゴブリンの後ろに駆け寄り、めいいっぱいに腰をためてホブゴブリンに向かって刺突を繰り出す。狙うは大盾を持つ左腕、鎧の隙間の脇の部分。
「はぁっ!!」

 深々と短槍が突き刺さり、ホブゴブリンの大盾を持つ手がだらりと下る。
「ふんだらばぁぁぁあ!!」
 ダイチは渾身の力を込めて、逆袈裟に戦斧を振り下ろす。革鎧を引き裂きホブゴブリンの右首筋から胸にかけて食い込む戦斧。
「ゲッ……ゲギャ……グッ……」
 静かにホブゴブリンの体躯は沈み、青色の血液が切り口から吹き出す。

 ヒナタは止まらない。ホブゴブリンを屠ったことを確認すると、数瞬後にはサトルたちと戦っていたゴブリンの側面から、刺突の3連撃をお見舞いする。
「短槍刺突三連!」
『ゲギャ! ……グッグギャ』
 ヒナタの刺突は正確に頭部、首、脇を貫きゴブリンたちを絶命させた。

「大丈夫っすか! むっちゃ怪我してますやん!」
 声を掛けるヒナタの後ろから、ゴブリンが忍び寄るのをサトルは見逃さなかった。無言のままに刺突でゴブリンを仕留める。

「ヒナタ……気を抜かないで。それがなかったら優秀だって、教官にも言われてたでしょ?」
「あざっす! サトルさん! こえ~っ!!」
「終わったようですね……無茶な戦闘をしてしまったものです。ダイチさん、大丈夫ですか?」
「うん、なんとかね……」

 2つの他班もホブゴブリンを無力化し、追撃戦に移っているようだ。

 ミナト、ツバサも駆け寄ってくる。
「全員生きてるっすか~? よかった~……」
「こ、こっ……こ、怖かった!」
 ミナトはホッとした表情を見せ、ツバサは泣きそうな表情で佇む。ユウイチロウが怒気を孕んだ表情で口にする。
「ヒナタ! そこに座りなさい!」
「う……うぃっす! すんませんしたっ!」
 ヒナタも自分のしたことを理解しているようだ。勝手に陣形を離れ、指示を任せたミナトの了解も取らずに突っ込む。これがどれだけリスキーなのか? 痛いほどに分かっているようだった。
「ふぅ~……今回は良い結果が出ましたが、次回がそうだとは限りません。――それに……君は若いんですから」
 ユウイチロウの最後の言葉は小声で、怒られると緊張したヒナタには聞こえていないようだ。

 ダイチが口を開く。
「でも、助かったよ、正直なところ。ヒナタ……ありがとう」
「だ、だいぢざぁん……良かったす! 無事で良かったっすわ!」
 サトルは思った。ヒナタを突き動かしたのは、仲間を失いたくない一心だったからかも知れないと。ツバサの泣きそうな表情と「怖かった」という言葉も、きっとそういうことだろう。

「さぁ……疲れているところ申し訳ないのですが、回収と痕跡の消去の準備。やることはたくさんあります。
 指示はサトルがしてください。私は……ちょっと怒鳴り込んできます!!」
 ヒナタを叱ったときとは、比べ物にならないくらいの怒気を含んだ表情でユウイチロウは他班に向けて歩き出す。怒髪天を貫くとは、きっとこの事を言うのだろう。

 ツバサが小さく「ひっ! ――こ、こわ! こわっ!」とおののく。ミナトは肩をすくめて、やれやれ……といった表情だ。
「あまりやりすぎないようにね? ユウイチロウさん。彼らは仲間を失ってるんだから」
 ダイチが声を掛けるとユウイチロウは頷き、それでも怒気を発したままに他班に向かう。
 サトルは思う。
(怒って当然だよな……こっちだって誰か死んでていても、おかしくなかったんだし)

 戦闘は終わった。傷だらけのあまりモノ義勇兵――銀の誓約がこの日にあげた戦果は、ゴブリン15匹、ホブゴブリン2匹だった。

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