年始の松井知事の会見と都市制度
年始早々に嫌な報道が飛び込んでまいりました。松井知事及び吉村大阪市長が「大阪都構想への決意表明」なるものをしたようです。
1つ目のニュースから一部引用します。
官庁や企業の多くが4日、仕事始めを迎え、平成最後で、新しい元号の最初の年が本格始動した。天皇陛下の譲位と新天皇の即位、統一地方選や参院選といった大きな出来事を控える。各地でそれぞれ飛躍を願い、決意を新たにした。
大阪の松井一郎知事が決意「都構想、必ず成し遂げたい」(産経 ふと文字筆者編集)
大阪府の松井一郎知事は府議会議場で幹部職員ら約300人を前に年頭あいさつを行った。大阪市を廃止して特別区に再編する大阪都構想について「府民が豊かさを実感できる施策を実現する。そのためには新たな大都市制度の実現が不可欠だ。大阪が東西二極の一極として発展するためにも、必ず成し遂げたい」と決意を述べた。
まず都市制度を変えれば大阪府が豊かになるというのは本当でしょうか?結論から言えば「ありえない」となります。大阪都構想の概要は大阪市を解体して4つないし6つに区割りし、特別区として再編するというものです。なぜ4つないし6つなのか?というと2015年の住民投票で5つへの区割りの大阪都構想が否決されたので、それ以外の数字で再挑戦というわけです。あれだけ「ラストチャンス!2度めはない!」と喧伝していたにもかかわらず。
2015年の大阪都構想と異なる点は区割りのみであり、それ以外は全く一緒というのが現在議論されている大阪都構想なるものです。
都市制度で東京都は発展してきたわけではない
記事中の大都市制度が指しているものとは東京都のことですが、東京都はその制度ゆえに発展してきたわけではないということをお話しなければならないでしょう。東京にはそもそも東京市が存在しておりましたけれども、これが解体されて東京都となったのは1943年の第二次世界大戦中のことです。端的に申し上げれば東京市の権限が強かったために解体して、当時の内務省の直轄に近い制度にしたかったので東京都という制度にしたというのが真相です。
では国が直轄(に近い制度)にしたから発展したのか?といいますと、まったくもってそのようなことはありません。関東圏が発展しているのは重点的にインフラ整備が戦後に進められたという、その理由のみの話なのです。逆に西日本はインフラ整備が重視されず、新幹線だって1本しか通っていない。東京は5本ないし6本通っているというのに。
上述した論理は「東京都以外の、通常の自治体である県なども、西日本に比べて発展している」というその一点において示されます。なぜ東日本にインフラ整備が集中したのか?単に東京と東京圏が首都であったからという理由以外は見つかりません。
つまり「大阪都構想をやれば副首都になって発展できる」のではなく、「副首都になったら東京都みたいな半人前の制度でも発展が可能」という関係になっております。したがって大阪都構想をしなくても大阪を副首都にという運動は可能なのです。端的に申し上げれば、副首都化と大阪都構想にはなんの関係もありません。
なぜ大阪都構想を大阪維新が進めたがるのか?
井上章一さんの著作「大阪的 「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた (幻冬舎新書)」を一通り読了したのですが、じつは過去に大阪を愛した作家や小説家の描く大阪の女性と、現在メディアなどで繰り返し放映されて作り上げたれた大阪のおばちゃんのイメージというのは、かなり異なっているようです。もちろんこれには在阪メディアの役割というのも無視できないと著されております。
簡単にご説明差し上げると、大阪のテレビなどの企画で「東京に比べて予算はない、でも他の地方に比べて規模はある」という大阪のテレビ局は、素人の大阪人をテレビに出して面白おかしくすることで視聴率を得ようとしたのだそうです。この影響は非常に大きかったとのこと。それ以外にも様々な歴史的な経緯などから現在の大阪人のイメージが作られたことが伺えます。
しかし一方で大阪は戦前までは大企業を東京都五分に構え、非常に栄えた街でもありました。しかし戦後のインフラ整備が東京圏に集中して行われるようになると、段々とそのプレゼンスを低下させていったというわけです。本格的にまずくなっていくのは1980年代、90年代辺りからでしょうか。ここにもグローバリズム・新自由主義の輸入され始めた年代という奇妙な一致が見られます。
しかし一方で大阪は東京に対して対抗心を持ち続けております。それは歴史的に大阪は首都でもないのに最も栄えた都市の1つであったからということもありましょう。そして現在は経済が凋落していっておりますので、大阪人は歯噛みしてそれを眺めているわけです。そこにつけ込んでいるのが大阪維新というわけ。「大阪都構想にすれば、大阪が復活しまっせ!」と詭弁を弄しているのです。
大阪維新という名称の不思議
大阪維新という名称は非常に不思議であります。なるほど、確かに大阪都構想は大阪市を解体して半人前の特別区なるものにし、大阪府に権限を集中させるわけですから「廃藩置県的な中央集権化(大阪府への集権化)」と言えるかもしれません。しかし政令指定都市とはWikiで引くところによると「大都市制度の1つ」であり、この実質的な大都市を解体して特別区に再編し、大阪府の名称がよしんば「大阪都」となったところで、実際には「大都市を解体した」という結果しか残りません。
端的に例えてみますと、車のエンジンを解体してガソリンを大阪府という車に載せ替え、車の名前を「大阪都」に変更したところで、「車が動かなくなった」という結果が残るだけでしょう。これが大阪都構想というわけ。
だいたい東京都の制度自体が1943年に現在の形になっておりますので、それを習うというのは長年かけて政令指定都市として積み上げてきたものを放棄する「逆行」とすら言えるのではないか?とすると維新というのは逆行だったのか?と疑問を持たざるを得ません。これをあたかも「新しくて良い制度なんだ!」と喧伝することそのものが「詭弁」と言わざるを得ないでしょう。
大阪が真に復活するために
大阪が真に復活するためには何が必要なのでしょうか?大阪都構想では何をどうやっても、大阪の復活は論理的にありえません。むしろ都市計画局の分解などにより大阪市の開発ノウハウが失われ、凋落を早めることになる可能性が非常に大きいと言わざるを得ません。
私は東京の政府機能の一極集中を、南海トラフ地震や首都直下型地震への備えとして分散するべきではないか?と思います。実際に隣の京都府には文化庁の移転が決定しているようです。(文化庁の機能強化・京都移転[文化庁])
大阪都構想などというたわけたものをやるくらいならば、大阪にも中央省庁のなにかを移転させる運動を展開するべきであり、これが大阪府知事や大阪市長、そして堺市市長などが共同して当たるべきであろうと思います。カジノなどを誘致している暇があれば、上述した運動のほうがよっぽど有益でしょう。(特許庁、中小企業庁の大阪への移転は見送られたそうです。出張所(?)などが来る予定)
- 中央省庁の地方移転に関する進捗状況(まち・ひと・しごと創生本部)
- 政府機関の地方移転方針決定で、徳島は「一歩前進」 大阪は「中央集権の象徴」(産経 2016年)
上記の産経の記事によるとこうです。
「副首都大阪」を目指し、中小企業庁や特許庁の移転を要望していた大阪府の担当者も、移転見送りの決定に「そもそも省庁移転は地方創生の観点で国が積極的にかけ声をかけてきた。今回の決定はごく一部の移転でしかなく、このままでは東京の一極集中解消なんてほど遠いのでは」と話した。
政府機関の地方移転方針決定で、徳島は「一歩前進」 大阪は「中央集権の象徴」(産経 2016年 ふと文字筆者編集)
松井一郎知事も「石破茂地方創生担当大臣が『大阪は熱意が感じられなかった』と言っていたが、毎日国に日参すれば実現できるのか。まさに中央集権の象徴だ」と批判した。
何度も申し上げますが「大阪都構想が実現したからといって、名称が大阪都に変わったからといって、副首都化するわけではない」のです。実際の機能、つまり政府機関の移転こそが大阪を重要な都市にし、そして政府の投資などを引き出す要になるのです。制度を変えたら副首都化するのであればどこだってやっております。その点では文化庁の移転が決定した京都は、大変に良い運動をしたと言えるでしょう。正直、羨ましいのです。そして我が大阪に腹ただしいのです。
ちなみにふと文字部分ですが、大阪維新は大阪市を解体してその権限、予算を取り上げようとしている。つまりは大阪府による中央集権化(という名の弱体化になる可能性大)を進めようとしているにもかかわらず、政府に対しては「中央集権だ!けしからん!」と支離滅裂なことを主張しております。
まさにポストトゥルース(政策の詳細や客観的な事実より個人的信条や感情へのアピールが重視され、世論が形成される政治文化)の代表的な例ではありませんか。
今年には恐らく、大阪府知事、大阪市長のダブル選が早い時期に開かれ、これに大阪維新が勝利したならばもはや住民投票の開催はほとんど不可避になり、そして住民投票でも大阪都構想が通ることになるでしょう。これは大阪市という大阪を牽引してきたエンジンを解体し、弱体化させ、大阪全体の凋落がさらに加速するという結果を生むことにほかなりません。
大阪が復活するためにも、そしてこれ以上凋落しないためにも、なんとしても府知事、市長のダブル選でどちらかを落選させねばなりません。大阪維新以外の市長と府知事に一票を。大阪を愛するのであれば、大阪維新への投票という選択肢は「絶対に存在しない!」と断言申し上げておきます。
こじつけまくりで何が言いたいのかサッパリ。
どこがこじつけまくりか、具体的にどうぞ~
今やGDPでは人口が百万人以上も少ない愛知に抜かれ、一人あたり県民所得ランキングでは一位東京に大差をつけられるどころか、なんとトップ10にも入れないほど惨憺たる経済状態の大阪が、人口が倍以上の首都圏の猿真似してうまくいくわけ無いわなあ。日本一のトヨタを擁し製造業に強い愛知、物価や人件費が安く自然環境も良い北海道や福岡に比べ、東京の猿真似ばかりの大阪には何一つ東京に対する強みがない。企業があえて東京より大阪を選ぶ理由が全く見つからないのですよ。
まったく……おっしゃるとおりです。
1980年くらいまでは、東京とタメを張った大阪は現在、見るも無残に。大阪人としては、悔しい話です。
なぜ大阪がここまで凋落したかと言えば、大阪には高付加価値で社員に高給を支払えるような企業が殆どなく、優秀な人間がどんどん流出して行ってるから。京大や阪大を出ても、大阪ではまともな仕事が殆どみつからない。インバウンドと言っても大多数は最低賃金ギリギリの非正規雇用のサービス業ばかりです(所詮観光業は付加価値が小さい)。
1980年代後半から、本社が東京に移転した企業は数しれず、ですからね。
大阪人としては、悲しい話です。